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民法改正について

令和2年5月1日

17.新型コロナウイルスと家賃の減額

新型肺炎の流行→緊急事態宣言の発令→知事からの休業要請又は自発的な休業→店舗の休業→収入の激減という負の連鎖が至るところで発生して、経営者を悩ませているのが、固定費であり、一般的に、トップが人件費、次いで家賃といわれています。

人件費については、上限額及び手続の煩瑣なことが批判を受け手直し中ですが、雇用調整助成金でそれなりに手当てがなされているのに対し、家賃については、家賃の補填のためのテナントに対する補助もしくは賃貸人に対する補助、あるいは、家賃の補填に限定しないテナントに対する持続化給付金(バルーン:新型コロナウイルスの感染拡大によって影響を受けた事業者に支給される給付金)か、等々、国会で議論が開始されたところです。

一方、国土交通省は、家賃の猶予を促し、家賃を免除すれば損金算入が認められることなどを通知し、実際、大手商業施設では家賃を減額したり、猶予したりするというような報道もあります。

現状のように経済活動が制限され、収入が減ったことを理由に、賃借人は家賃の減額を請求できるのでしょうか。

まず、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したとき」は、賃借人は、その「滅失した部分の割合」に応じて家賃の減額を請求することができる(旧民法611条)とあります。この条文を足掛かりに請求できないでしょうか。しかし、仮に、テナント内で新型肺炎の感染が発生し殺菌消毒を受けたとしても、その後建物の効用は回復・維持されるのでこれは難しそうです。

賃借人が建物を使用収益できないことについて、賃貸人・賃借人の「双方の責めに帰することができない事由」による場合、賃貸人は賃借人に対して、家賃の支払いを請求できなくなる、という原則(危険負担の債務者主義)(旧民法536条1項)があるところ、緊急事態宣言以下の経済活動の制限がこの場合に当たるかが問題になりそうです。

ただ、経済活動が制限されたといっても、物件の賃貸の態様、賃貸人の業種が休業要請の対象になっているか、その他の事情があるので、パターン別にみていきたいと思います。

賃借人が大型ショッピングセンター内の店舗として賃借している場合、一般にその商業施設全体の賃貸人の方針により、一律の運営が決まることもあろうと思います。このような場合に、賃貸人が全館休業を決めたとき、賃貸人の意思に従わざるを得なくなり、賃借人は家賃の支払を免れる方向に働くと思われます。

これに対して、賃借人が商業ビル内の店舗として賃借している場合、その施設の営業が各賃借人の自主性に委ねられているときは、賃借人の営業の自律性は高まります。しかし、業種によっては、知事から休業要請を受け、事実上、賃借人において建物の使用収益が妨げられている場合はどうでしょうか。これについては、拒めば、事業者名が公表され、そうなれば反社会的として、消費者や他の事業者は取引しなくなることが予想されるので、実質的にみて公権力による強制と等しいともいえます。これをもって、「双方の責めに帰することができない事由」にあたるといえれば、賃借人は家賃支払義務を負わないということになりえます。

賃借人が休業要請の業種でなかった場合でも、その商業ビル内のほとんどの店舗が休業要請の業種であり、その賃借人の営む営業が休業要請の対象となっている店舗の顧客を対象にしていて、他の店舗の閉店後全く客足が止まったというときは、実質的にみて、上の場合に同視できるともいえそうです。そうであれば、この賃借人も家賃支払義務を負わないということになりえそうです。

これに対し飲食業などは、休業要請されているのではなく、営業時間の制限が要請されているのにとどまります。宅配サービスまでは制限されていません。>このような場合は、建物の使用収益ができないとはいえません。せいぜい制限されたということに止まります。ただ、このような場合、一部につき家賃支払義務を負わないということはありうる解釈と思います。

このように、同じ建物賃借人といっても、その置かれた状況は様々であり、民法上、その具体的事態が、そもそも建物の使用収益ができないと評価できるのか、自主的な休業に過ぎなくはないか等、評価が難しいところであります。

片や、賃貸人から見て、今、テナントに去られてしまえば、次のテナントの募集に時間と費用が掛かるという、経済的な思惑も働きます。

つまるところ、法律論と経営論を融合させて、共通の利益を意識しながら、勇気をもって、妥当な解決策が見つけられるよう交渉することも、サバイバルのための差し当たっての選択肢です。

上記は、家賃支払が苦しい方のために、現行法下での解釈論の一端をお示ししたものですが、どうかあきらめずに家主さんに相談されてみてください。ただ、近いうちにコロナ体制下のような非常事態におけるテナント家賃の支払い義務については立法がなされると思われるので、その場合はそちらをご参考になさってください。

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