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民法改正について

令和3年1月11日

19.請負

今回は,請負契約について改正点と実務上注意するべき点を取り上げていきます。

請負契約は,建物の建築や,ソフトウェア開発業務の委託等,契約の成果物の完成を目的として締結される契約類型です。

民法改正により,請負契約の中でも特徴的な取り扱いであった報酬請求と,契約不適合責任(従来の瑕疵担保責任)の取り扱いについて,法律上重要な変更がなされました。

以下,変更内容及び契約上注意すべき点について,解説させて頂きます。

 

報酬請求

請負契約は,仕事の完成(上記の例では建物やソフトウェアの完成)を目的とする契約ですから,目的物が完成して初めて,請負人は報酬請求権を得るというのが基本的な考え方になります。

もっとも,途中まで契約を履行したにもかかわらず,一切報酬請求が出来ないというのは請負人に過酷であるとの考えにより,判例は,①目的物の完成が不能となり,債務不履行により解除する場合において,②仕事内容が可分であり,③仕事内容の一部が履行され,④注文者が履行された部分について利益を有する場合には,既に履行した部分については,請負人の報酬請求を認めていました(最判昭和56年2月17日)。

新法は,上記の判例の考えを一般化し,634条2号において,請負人による注文者が受ける利益の割合に応じた報酬請求権を認めています。

上記の判例は,履行不能(厳密には,請負人が経営困難になったため工事を完成することが出来なかった事例)を前提とするものでしたが,上記新法634条2号は,請負人による履行が遅滞した場合や,注文者による解除の場合にも,請負人の割合的な報酬請求権を認める規定と理解されています。同規定により,請負人の保護が明確化されました。

割合に応じた報酬の請求権については,何の基準をもって割合とするのかについてまでは条文上は明らかとなっていないため,各契約の内容に応じて,割合の目安とする基準を事前に契約書で定めておくことが,トラブルの回避につながると考えられます。

具体的には,仕事の完成に対して投入した原価の割合を,報酬総額に乗じて割合的報酬額を算出する方法などが考えられます(税務又は会計における工事進行基準的な発想)。

また,新法634条1号は,「注文者の責に帰することができない事由によって,仕事を完成することができなくなったとき」の請負人の割合的な報酬請求権を認めています。この規定に関連して,注文者の責に帰する事由により,仕事が完成できなくなった場合は,改正民法536条2項前段の定めより,請負人は全額の報酬を請求することができると理解されています。

 

瑕疵修補

旧法634条1項ただし書きは,瑕疵が重要ではなく,修補に過分の費用を要するときは,修補請求を認めていませんでした。新法ではこの様な定めは無く,条文上は,修補に過分の費用を要するときも,瑕疵修補が可能であるかに読めます。学説上は,重要でない瑕疵に,過分の費用をかけて修補することは,追完不能と考えるべきとの主張もなされていますが,明文上は明らかではありません。

請負人としては,重用でない瑕疵(契約不適合)につき,過分の費用をかけて修補するリスクが現実化しないためにも,旧法634条1項ただし書きと同内容を契約書に明記することが有用と考えられます。

また,請負人,注文者双方の立場から,どの程度の出費までが過分の費用といえるのかについて具体的金額又はその算定方法を検討しておくことも有用であると考えられます。

 

契約不適合責任の期間の制限

旧民法637条では,瑕疵修補又は損害賠償請求及び契約の解除は,目的物の引き渡し時より1年以内に行使しなければならない旨が定められていました。

この点,改正民法637条1項は,契約不適合責任の行使期間の制限につき,その起算点を「注文者がその不適合を知った時から1年」とし,旧法の引渡時より後らせる形での改正が行われました。さらに,同2項は,請負人が目的物の引渡時に,目的物の契約不適合を知っていたか,または知らないことが重過失であった場合は,期間制限の定めが適用されなくなる旨を定めています。

なお,改正民法637条1項の期間制限の定めの適用がされなかったとしても,契約不適合責任は消滅時効の一般規定を受けると理解されているため,通常,引渡時より10年で,請負人は契約不適合責任を免れることとなります。

上記の改正は,注文者の権利を手厚く保護するものであるといえます。

他方で,上記の改正は,契約不適合責任の行使制限の起算点を,引渡時という客観的に定まる時点より,注文者が契約不適合を知った時という,一義的には定まらない時点を起算点へと変更し,最長で10年間,請負人の地位を不安定にするものです。

請負人の立場としては,契約不適合責任の行使制限の起算点については,契約書で修正を行うことが重要になると考えられます。

旧法に従い引渡時を期間制限の起算点とすること等が具体的な方策として考えられます。

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