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民法改正について

令和3年2月4日

20.賃貸借

今回は賃貸借契約の改正事項について解説していきます。賃貸借契約は,居宅,テナントといった日常生活の中で,多くの方が関与する契約であるため,改正事項もまた多くの方に影響があるものと考えられます。

民法改正により,賃貸人たる地位の取り扱いが明文化され,修繕費,賃料減額につき新たな制度が加えられました。

以下,変更内容及び契約上注意すべき点について,解説させて頂きます。

 

賃貸人たる地位の取り扱い

旧法下より,賃貸借契約の目的物(以下,本記事において単に「目的物」とします。)の所有者に変動があった際は,賃貸人の地位も,目的物の移転と共に,譲渡人から譲受人に移転することが判例法理により運用されていましたが,改正605条の2第1項により明らかされました。

新法はさらに,賃貸人の地位を譲渡人に留保したままで,目的物を譲渡する手段を605条の2第2項により定めています。この規定は,賃貸人たる地位の留保の合意と,譲受人を賃貸人,譲渡人を賃借人とする新たな賃貸借契約を締結することで,譲渡人に従前の賃貸借契約の賃貸人の地位の留保を認めるものです。

これは,実務上,譲受人に賃貸人としての負担(修繕義務等)を負わせないことや,譲渡人における金融の便宜(いわゆるセールアンドリースバック取引)を図った規定であると考えられています。

なお,セールアンドリースバック取引とは,不動産の所有者が,不動産を売却して資金を得ると共に,譲受人から賃貸借契約により借り受けることにより,賃料支払は生じるものの,当該不動産を従前通り使用する取引をいい,不動産流動化のスキームとして従前より利用されてきた手段の一つです。

同取引は商慣行として処理されてきましたが,新法により同取引の法律関係が明らかになったことは有益であったといえるでしょう。

 

修繕費の取り扱い

旧法及び新法のいずれにおいても,目的物に修繕が必要となった場合,その責任を負うのは原則として賃貸人とされています。

新法は,上記の原則につき例外を明文で定めました。新法606条1項但書は,修繕が必要となった原因が,賃借人に帰責される場合に賃借人に修繕義務を負わせています。

また,賃貸人が修繕義務を負うときに,賃貸人が相当期間内にその義務を履行しない場合等において,新法607条の2は,賃借人に修繕を行う権限を認めています。この場合は,その後,賃借人は賃貸人に費用を請求することができます。

上記の新しい条文は,法律上,事実上,賃借人に目的物の修繕を認める制度です。賃貸人としては,目的物が,賃借人によって修繕されることにより,予期せぬ変更を加えられ,同目的物に損害を被るリスクがあると言えます。

賃貸人の立場からは,上記リスクを防止するために,契約書において,賃借人の修繕内容や方法を制限することが必要となるものと考えられます。

 

一部滅失等の場合における,賃料の減額及び解除

旧法下より,目的物が賃借人の過失によらず「滅失」したときは,賃借人は使用収益ができなくなった割合に応じて,賃料が減額されました(旧法611条1項)。

新法においては,上記の賃料減額請求の要件に,「滅失」だけでなく,「その他の事由」も加えられ,物理的に損傷した場合に限定されず,目的物が使用収益出来なくなった際には,「その他の事由」の解釈により,賃料減額が可能となりました。

具体的に「その他の事由」として,どのような場合が認められるかは,今後の判例の動向に寄ることとなる思わますので,本連載としてもフォローしていきたいと思います。

賃貸借契約を締結するにあたり,賃貸人としては,「その他の事由」という抽象的かつ予見不能な概念により,受取賃料を減額されてしまうリスクが認められます。賃貸人としては,契約書により賃料減額事由を限定し制限する必要があるでしょう。

また,反対に,賃借人としては,目的物が使用収益出来なくなった場合において,賃貸人との関係で「その他の事由」が争われ,賃料減額が認められないリスクがあります。賃借人としては,「その他の事由」による賃料減額が条項により排除されていないか,「その他の事由」につきある程度の具体性を持たせつつも,同事項のみに限定しない旨の記載を行い,賃料減額を主張できる契約書を作成しておく必要があると考えられます。

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