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民法改正について

令和3年3月9日

21.委任契約

委任契約は,受任者が委任者から委託され法律行為をすることを目的とする契約であり,保証人となることの委託や,弁護士等の専門家に法律事務を委託する場合を代表として,法律事務を他者に委託する際に広く用いられる契約類型となっています。

本改正では,受任者の報酬請求について受任者の権利が強化され,従来明文では示されていなかった復委任についての扱いが明示されました。

以下では,受任者の報酬請求権と,復委任について,改正内容と実務上注意すべき点について説明していきます。

 

受任者の割合的報酬請求権

委任契約は,委任事務の内容により,事務処理の労務に対して報酬が支払われる場合(履行割合型の委任)と,委任事務の処理により得られた成果に対して報酬が支払われる場合(成果完成型の委任)の二類型に分類されます。

 

(1) 履行割合型の委任の場合

旧法では,受任者の責めに帰することのできない事由によって委任事務が終了した場合に限り,受任者の割合的報酬の請求が認められていました。

なお,ここでの割合的報酬とは,委任事務から委任者が受ける利益の割合に応じた報酬と定義します。

改正法では,委任事務が履行不能,委任契約の中途終了の場合であっても,既履行部分の報酬請求が可能となりました(改正法648条3項)。

同改正により,受任者の帰責事由の有無にかかわらず,受任者の報酬請求権が認められることとなりました。

 

(2) 成果完成型の委任の場合

旧法では,成果完成型においては,割合的報酬を想定できず,成果物の引き渡し,または,委任事務を履行した後でなければ,報酬を請求することができないとされていました。

改正法では,委任の規定において,請負の規定が準用されることが明らかとなりました(改正法648条の2)。これにより,委任契約においても,請負契約の割合的報酬請求権を定める改正法634条が準用されることとなります。

改正法634条の内容である請負契約における割合的報酬請求権は,以前当記事においてもお伝えした通り,①仕事内容が可分であり,②仕事内容の一部が履行され,③注文者が履行された部分について利益を有する場合には,既に履行した部分について,請負人の報酬請求が認められます。請負に近似する成果完成型の委任契約においても,同規定が準用され,委任者の報酬請求権が認められるのです。

 

(3) 契約書上留意すべき点

上記の通り,委任契約においても割合的報酬請求が認められることとなりましたが,その割合は,あくまでも,委任者が受けた利益の程度により決されることとなります。

ここで,何をもって委任者が受けた利益とするかについては,一義的に定まるものでは無いため,契約書作成,または交渉段階において,各契約の内容に応じて,割合の目安とする基準を事前に契約書で定めておくことが,トラブルの回避につながると考えられます。

 

(4) 委任者に帰責事由が認められる場合

改正法648条3項1号の条文上「委任者の責に帰することができない事由」との文言がありますが,同文言は,法律解釈上意味をなさないと解されています。同文言は,委任者の責めに帰すべき事由による事務処理の不能の場合に報酬の全部請求を排除しないためのものと考えられています。

委任者の責めに帰すべき事由により事務処理が不能となった場合には,民法536条2項の法意に従い,受任者は委任者に対して報酬全額の請求が可能と考えられています。

委任者としては自己の責に帰すべき事由により事務処理が終了した場合は,報酬全額を支払わなければならなくなるリスクを把握しておくべきでしょう。

 

復受任者の選任

旧法においては,委任者が,復受任者(委任者の下請けとお考え下さい。)を選任する際の要件が明示されておらず,復代理の規定が解釈により準用されていました。

改正法644条の2においては,従来明示されていなかった上記の復受任者の選任に関する規定が明らかにされました。

同改正規定においては,復受任者の選任につき,委任者の許諾又はやむを得ない事由が必要であることが明示され(改正法644条の2第1項),代理権を付与する委任においては,選任された復受任者は,権限の範囲内において,受任者と同様の権利義務を負う旨が定められました(同条第2項)。

契約書作成において,委任者として,受任者自身に委任事務を処理させることに特段の意味があると考える場合には,復受任者の利用を排除する条項を定めておく必要があるでしょう。また,受任者としては,復受任者使用の可否につき,契約書を検討する際には,留意すべきと考えられます。

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