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民法改正について

令和5年3月24日

24.民法改正(令和5年度)について① ~相隣関係及び共有制度の見直し~

令和2年4月から民法の大きな改正が施行されましたが、令和5年4月からも民法の一部改正が施行されます。

その内容は主に、以下の4点です。

相隣関係規定の見直し

共有制度の見直し

所有者不明土地管理制度等の創設

相続制度の見直し

本稿では、まず上記2点について解説いたします。

 

相隣関係規定の見直し

相隣関係とは、隣接する不動産の所有者同士において、通行・流水・排水・境界などの問題に関して相互の土地利用を円滑にするために調整しあう関係のことをいいます。民法では、相隣関係にある土地の利用を調節するために規定が置かれているのですが、その見直しが今回行われました。

その主な点は次の3点です。

隣地使用権の範囲の拡大

ライフライン設備のための権利の明確化

越境した枝を切除できる権利の創設

それぞれについて、ご説明いたします。

 

(1)隣地使用権の範囲の拡大について

隣地使用権とは、一定の場合に隣地の使用を請求することができる権利をいいます。今までは、隣地使用権が認められる場合は、境界又はその付近において障壁又は建物を建造又は修繕するために必要な範囲に限られていました。また、隣地使用権を行使する方法についても具体的に規定されていませんでした。

そこで、今回の改正では、隣地使用権を行使できる場合を以下の通り、拡大しました。

境界線付近において、建物などを築造・収去・修繕する場合

土地の境界標(土地の境界を示すための目印)の調査・境界に関する測量をする場合

隣地の枝が自分の土地に越境してきている際に、その枝を切除する場合(下記(3)の場合)

また、隣地使用権を行使する場合、隣地の所有者あるいは使用者にとって損害が最も少ない方法を選ぶ必要があること、事前にその目的・日時・場所・方法を通知しなければならないことが規定されました(事前の通知が困難な場合は事後に遅滞なく通知)。さらに、改正前と同様、隣地使用により隣地所有者または隣地使用者に損害が生じた場合には、償金を支払う必要があります。

(2)ライフライン設備のための権利の明確化について

現代では、電気・ガス・水道等のライフライン設備が不可欠であるとともに、自分の土地で使用するために他人の土地や設備を利用しなければならないこともあるところ、これまでは、排水のために低地に水を通過させることができる等の規定しかありませんでした。

そこで、今回の改正により、以下の権利が明記されます。

必要な範囲で他の土地にライフライン設備を設置する権利

他人が所有するライフラインの設備等を使用する権利

ライフライン設備を設置する権利は、他の土地に設備を設置しなければ電気・ガス・水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない場合に認められます。ライフライン設備とは、電気・ガス・水道水・これらに類する継続的給付に必要な設備であり、下水道の利用も該当します。

また、こちらも上記(1)同様、設置または使用に関しては損害の最も少ない方法で、かつ原則として事前の通知が必要となります。設置または使用の際に損害が発生した場合に償金を支払わなければならない点も同様です。使用により利益を受ける場合は費用を支払う必要もあります。

(3)越境した枝を切除できる権利の創設について

今までは、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自ら切り取ることができる規定がありましたが、竹木の枝が境界線を越えた場合に関しては、隣地の所有者にその枝を切除させることができる旨の規定しかありませんでした。その場合、隣地所有者が切除に協力的でない場合や隣地の所有者が不明な場合などに問題がありました。

そこで、今回の改正では、以下の場合には、越境された土地の所有者は、越境した枝を自ら切除することができるようになりました。

竹木の所有者が催告後相当期間(約2週間程度)に切除しないとき

竹木の所有者を知ることができず、又は所在を知ることができないとき

急迫の事情があるとき

また、隣地の竹木が数人の共有であったときには、各共有者は、他の共有者の同意等を得ることなく単独でその枝を切り取ることができることとなりました。これにより、竹木が越境された土地の所有者は、竹木の共有者の1人から承諾を得れば、その共有者に代わって枝を切り取ることができ、仮に承諾を得られない場合でも、竹木の共有者の1人に対しその枝の切除を求める裁判を提起し、判決に基づく代替執行も可能となります。

   

共有制度の見直し

現在、相続登記が義務化されていない(但し令和6年4月からは義務化される)ため、相続等を原因として所有者不明あるいは所有者の特定が困難である土地が多数存在しています。

そこで、所在等が不明な共有者がいる場合でも共有地を円滑かつ適正に利用できるようにするため、共有制度の見直しが行われました。

主な改正点は以下のとおりです。

共有者間における意思決定のルールの整備

共有物の管理者制度の創設

共有関係を解消する手続や制度の整備

 

(1)共有者間における意思決定のルールの整備について

ア 共有物の変更・管理の内容に関する規律の見直し

これまでは、共有物の変更には共有者全員の同意が必要でした。しかし、軽微な変更でも共有者全員の同意が必要であれば、円滑な利用や管理が阻害されてしまいます。

そこで、共有物の変更でも、その形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な変更については、持ち分の価格の過半数で決定できることが定められました。例えば、砂利道をアスファルト塗装する場合や、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事は軽微な変更に該当するものと考えられます。

また、これまでは、全員の同意が必要となる共有物の「長期間の賃貸借」の判断基準が明確ではありませんでした。

そこで、持ち分の過半数で決定できる「短期の賃借権等」の範囲を明確化しました。

(1) 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年

(2) (1)以外の土地の賃借権等 5年

(3) 建物の賃借権等 3年

(4) 動産の賃借権等 6か月

なお、借地借家法の適用のある賃借権の設定は、原則として共有者全員の同意がなければ無効となります。ただし、一時使用目的や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借については、契約において更新がないことなどを明記し、所定の期間内に賃貸借が終了することを明確にした場合、持分の価格の過半数の決定で設定することができます。

イ 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理に関するルールの合理化

これまでは、共有者の中に管理に関心がない者がいると、連絡をとっても明確な返答をしなかったりして、共有物の管理が困難となる場合がありました。

そこで、賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定できるという制度が創設されました。なお、この制度は、共有物を変更する行為や賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる行為(例えば、抵当権の設定等)には利用することができません。

ウ 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理に関するルールの合理化

これまでは、所在等が不明な共有者(必要な調査を尽くしても氏名や所在等が不明な共有者)がいる場合には、共有物に変更を加えることができず、また、その者以外の共有者では持分が過半数に及ばない場合は管理についての決定もできないという問題がありました。

そこで、所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その者以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えたり、その者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決定することができるという制度が創設されました。なお、この制度は、所在等不明共有者が共有持分を失うことになる行為(例えば、抵当権の設定等)には利用することができません。

(2)共有物の管理者制度の創設について

これまでは、共有物の管理者に関する明文の規定がありませんでしたが、今回の改正により、共有物の管理者制度が創設されました。

共有物の管理者の選任・解任は、共有物の管理のルールに従い、共有者の持分の価格の過半数で決定されます。共有者以外の者を管理者とすることも可能です。

管理者は、個々の行為について共有者の過半数の同意を得ることなく管理に関する行為(軽微な変更を含む)をすることができますが、軽微でない変更を加える場合には、共有者全員の同意を得なければなりません。

また、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合には、これに従って職務を行わなければなりません。決定に違反して行った管理者の行為は、共有者に対しては効力がありませんが、決定に反することを知らない第三者に対しては無効を対抗できません(つまり有効なものとして取り扱われます)。

(3)共有関係を解消しやすくする仕組みの創設について

ア 裁判による共有物分割手続の整備

共有物分割の方法としては、①現物分割(共有物の現物を分割する方法)、②競売による代金分割(共有物を競売にかけ売却代金を分割する方法)、③価格賠償による分割(共有物をある共有者の単独所有または複数所有とする代わりにその対価を他の共有者に対して支払う方法)がありますが、これまでは、①②しか規定されておらず、③は判例により許容されているにすぎませんでした。

そこで、裁判による共有物分割の方法として、③価格賠償による分割が可能であることを明記するとともに、①②③の検討順序を明確化しました(①③がいずれもできない場合または①では共有物の価格を著しく減少させるおそれがあり③が出来ない場合に、②を行う)。

また、裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができることも明文化されました。

イ 所在等不明共有者の不動産の共有持分を取得・処分する制度の創設

これまでは、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、共有物分割訴訟等の裁判手続を行えない場合もあり、共有を解消することが非常に困難でした。

そこで、共有者が他の共有者を知ることができないときや、その所在を知ることができないときは、裁判所に申し立てた共有者(申立共有者)に所在等不明共有者の持分を取得させられる裁判をすることができる制度が創設されました。申立共有者が2人以上の場合は、各共有者に所在不明等共有者の持ち分を、共有者の持ち分に応じて分割して取得させることとなります。

また、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、他の共有者が共有物件の売却等の処分を希望するときには、裁判所が申立共有者に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与できる制度も創設されました。この制度による譲渡権限は、所在等不明共有者以外の共有者全員が持分の全部を譲渡することを条件とするものであり、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ行使可能です。

なお、これらの制度は、共有の形態が遺産共有(相続開始後遺産分割前までの共有状態)の場合には、相続開始から10年を経過しなければ利用できません。

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