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社会保険労務

平成25年5月10日

14.有期契約社員についての対策はできていますか

今年の4月1日から労働法関係の改正が施行されていることをご存知の方は多いと思います。今回は、その中の1つである改正労働契約法の施行についてお話ししたいと思います。

まず、改正労働契約法の内容で重要なのは、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換です(※労働契約法第18条)。

同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

要するに、同じ職場で通算5年を超えて働く有期契約社員が希望した場合は、会社に無期雇用への転換を義務づける、つまり、当該社員との間で期間定めのない労働契約が成立する、というものです。

この制度に関する会社の対処法について、述べてみたいと思います。

(1)まず、この改正を知った従業員から、すぐに無期労働契約への転換を申し込まれることがあるかもしれません。

しかし、この5年という期間については、平成25年4月1日以降の日に有期労働契約が初めて締結された日か、更新された日から起算され、それまでの期間は通算されません。例えば、有期契約社員として勤務している社員が、平成25年10月1日に1年間の有期労働契約を継続更新する場合、無期労働契約への転換を申し込めるのは、平成30年10月1日を超えた段階であり、実際に無期契約社員となるのは、平成31年10月1日からということになります。この点を勘違いされている従業員の方がいれば、正しい情報を伝えるようにしましょう。

 

(2)また、従業員の中には、正社員になれると勘違いされている方もいるかもしれません。しかし、これはあくまで有期だったものが期間の定めのないものになっただけで、原則、従前の労働条件と同一のものになりますので、その旨お伝え下さい。

ただし、労働条件については、就業規則に別段の定めがあれば、その労働条件によることになります。この点、事業主としては、転換後の無期契約社員の労働条件をどのように設定するかが重要となります。そして、その内容を就業規則に明記しておく必要があります

例えば、有期契約社員だった頃には特に異動については考えていなかったとしても、無期契約社員になった後は、活用の幅を広げるために異動になることがあることを明記しておく、などといった対応が必要になるでしょう。

 

(3)従業員に、無期転換申込権を事前に放棄してもらうことは出来ません。よって、事前に会社の方から放棄を働きかけるようなことはしてはいけません。ただし、権利発生後に放棄してもらうことはできますので、その場合、放棄するという承諾ができるのであれば、誓約書を書いてもらうことが考えられます。

 

(4)無期労働契約への転換を申し入れる時期に関して、労働契約法は、有期労働契約の契約期間が満了するまでに申込をすれば良いと規定しているだけです。しかし、会社としては、間際に申込をされても受け入れ態勢の準備等が大変で混乱を来します。そこで、申込時期について、期間満了の3ヶ月前まで、といった具合に就業規則等で限定して規定しておいた方がいいでしょう。ただし、この処置はなるべく間際に申込をされるのを防止するためであって、実際に間際に申込をされたら、会社としてはそれに応じざるを得ませんので、ご注意下さい。

 

(5)ところで、無期契約社員に転換されるなら、そもそも契約更新を5年に上限とする方策をとりたいと考える方もいらっしゃると思います。

この点、平成25年4月1日以降、新たに有期雇用契約を締結する場合や、期間満了後に新たに更新する際に、その様な内容の契約で締結することは特段問題ないかと思いますが、これまで更新を重ねており、この先も労働者としては雇用継続することに期待しているような場合については問題です。その場合は、更新の時期が到来した段階で、5年を上限(1年契約であれば最大4回の更新まで)に有期雇用を終了することについて説明をして了承を得た上で、新しく契約書を締結し直すのが一番です。その場合、それを求める理由や期間満了後に退職する場合の条件(例えば、残っている有給休暇の消化、報奨金を支給するなど)等について十分説明する必要があります。

ただ、ある程度長く働いている従業員はモチベーションも高く、それなりの技能や経験を有しています。そこで、更新期間に上限を設けるという措置をとる前に、有期契約社員としての技能や経験を活用できないかを検討されると良いかと思います。

なお、労働契約法では、有期契約社員について、雇止めが許されるための要件についても明記されています(※労働契約法第19条)。

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

具体的には、①期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態である場合、または、②有期契約社員が「有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる」場合には、合理的な理由と社会的な相当性がないと雇止めができないということになっています。そして、季節的・臨時的雇用のための採用ではなく、更新がある程度くり返されていたという事実に加えて、雇用継続の期待を持たせるような使用者の言動があったことを労働者に主張立証されると、②に該当すると判断される可能性が高くなりますので、使用者としてはその言動に注意が必要となります。

また、合理的な理由や社会的な相当性があったということは会社側が主張立証する必要があり、これに失敗すると雇い止めが無効だと判断されることになりますので、その有無が問題になる場合に備えて、雇い止めが相当な理由であることを裏付ける十分な資料を用意しておくことが肝要です。つまり、口頭での注意だけでとどめるのではなく、それでも改善が見られない場合は、文書による注意や指導を行い、場合によっては次回の更新時に更新しない旨の警告書を出し、それでも改善が見られなければ、事前に文書で通知した上で契約期間満了をもって更新しないという処置を行うことをお勧めします。

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