平成29年4月12日
前回までは、賃金制度のうち職能給の概要についてお話させていただきました。
今回は、賃金表の種類や運用、新賃金表への移行の際の留意点について見ていきたいと思います。
賃金表の種類
賃金表とは、従業員に支給する賃金の金額とそれぞれの条件を記載した一覧表をいいます。年齢給や職能給、手当によって月額の賃金が構成される場合は、それぞれに賃金表が存在することになります。
職能給についての賃金表は、等級ごとの初号(その等級のスタート時の金額)、習熟昇給の幅、昇給の上限などを定めたもので、運用していくための基準となる表で、色々な種類がありますが、ここでは代表的なものを4つご紹介します。
① 号俸表
号俸表は、等級と号ごとにそれぞれの基準額を設定した表です。一昔前の公務員で採用されていたもので、運用としては、1年で1号ずつ昇号するかたちになります(例えば、3等級の4号の人がいた場合、次の年は同じ等級の5号、さらに次の年は同じ等級の6号と昇号していく)
(例)
|
1等級 |
2等級 |
3等級 |
4等級 |
5等級 |
1号 |
32,000 |
40,000 |
50,000 |
65,000 |
80,000 |
2号 |
34,000 |
42,500 |
53,000 |
69,000 |
85,000 |
3号 |
36,000 |
45,000 |
56,000 |
73,000 |
90,000 |
4号 |
38,000 |
47,500 |
59,000 |
77,000 |
95,000 |
5号 |
40,000 |
50,000 |
62,000 |
81,000 |
100,000 |
6号 |
42,000 |
52,500 |
65,000 |
85,000 |
105,000 |
7号 |
44,000 |
55,000 |
68,000 |
89,000 |
110,000 |
② 段階号俸表
段階号俸表は、号俸表と同様に、等級と号ごとにそれぞれ基準額を設定したものですが、1号あたりの基準額の格差が号俸表より小刻みに設定されたものです。そして、人事考課の結果によって号の進み具合に差を設けるように運用しますので(具体的な運用の仕方は後述します)、同じ等級でも人によって格差が生じることになります。
③ 昇給表
昇給表は、等級や号ごとの基準額がなく、等級別に人事考課の結果いくら昇給するかの額だけを表示したものです。
(例)
|
S |
A |
B |
C |
D |
8等級 |
6,000 |
5,400 |
4,800 |
4,200 |
3,600 |
7等級 |
5,500 |
5,000 |
4,500 |
4,000 |
3,500 |
6等級 |
5,000 |
4,600 |
4,200 |
3,800 |
3,400 |
5等級 |
4,500 |
4,200 |
3,900 |
3,600 |
3,300 |
4等級 |
4,000 |
3,800 |
3,600 |
3,400 |
3,200 |
3等級 |
3,500 |
3,400 |
3,300 |
3,200 |
3,100 |
2等級 |
3,000 |
3,000 |
3,000 |
3,000 |
3,000 |
1等級 |
2,500 |
2,600 |
2,700 |
2,800 |
2,900 |
この表は、金額の変更や修正がしやすいというメリットはありますが、各等級のスタート時の金額や上限の金額が定まっていないので、運用が恣意的に陥る危険性があります。
④ 複数賃率表
複数賃率表は、号俸表を基準としつつ、1つの号に複数の基準額のランクを設定するものです。1年で1号ずつ昇号するように運用しますが、複数の基準額ランクのどれに該当するかは、毎年、人事考課の結果によって異なることになります。
(例)5等級の場合
|
S |
A |
B |
C |
D |
1号 |
72,000 |
71,000 |
70,000 |
69,000 |
68,000 |
2号 |
76,000 |
75,000 |
74,000 |
73,000 |
72,000 |
3号 |
80,000 |
79,000 |
78,000 |
77,000 |
76,000 |
4号 |
84,000 |
83,000 |
82,000 |
81,000 |
80,000 |
5号 |
88,000 |
87,000 |
86,000 |
85,000 |
84,000 |
6号 |
92,000 |
91,000 |
90,000 |
89,000 |
88,000 |
7号 |
96,000 |
95,000 |
94,000 |
93,000 |
92,000 |
8号 |
100,000 |
99,000 |
98,000 |
97,000 |
96,000 |
この表によると、過去の人事考課の結果が影響しないことになります。例えば、上の表で、1年目から3年目まで人事考課でSの評価を受けた人でも、4年目にC評価を受ければ、8万1000円となり、1年目から3年目までDの評価を受け、4年目にC評価を受けた人と同じ基準額となります。従業員にとっては、一度失敗して人事考課で悪い評価を得たとしても、後から挽回することが可能となります。
賃金表の運用
ここでは、現在、民間企業で最も多く採用されている賃金表といわれる「段階号俸表」について、簡単に運用の仕方を説明します。
段階号俸表の場合は、等級と号数が決まれば、自動的に金額が決定され、その等級と号数が変更されれば新たな賃金が決定(昇給)されることになります。そこで、まずは標準的な昇号基準を決めます。標準的な場合、5つ昇号するように設定するのが一般的ですので、仮に標準的な昇給金額が2000円とすると、1号あたりの昇給額は400円になります。その上で、人事考課の査定に応じた昇号数を決めます。例えば、査定がSなら7号、Aなら6号、Bなら5号、Cなら4号、Dなら3号というように予めルールを設定しておきます。企業によっては、習熟昇給の幅をより小さくした上で、査定による昇号格差をつけるために、Sなら10号、Aなら7号、Bなら5号、Cなら3号、Dなら0、といった基準を設けるところもあります。いずれにしても、基準やルールを決めたら、恣意的な運用とならないように厳格に運用していくことが重要です。
また、等級ごとに上限を設定した方が良いでしょう。いつまでもだらだらと昇給を重ねていき、同じ仕事、同じ等級でありながら、賃金に大きく差がつくのはバランスを欠くので適切ではありません。年齢による生活費の増加に配慮するのであれば年齢給で調整すれば良いでしょう。
賃金水準の検証
まず、賃金表が完成した段階で、標準的な従業員をモデルに、各年齢別にモデル賃金表を作成します。そして自社の賃金水準が妥当か否かを検討します。比較検討の材料としては、例えば、人事院勧告(平成28年度)の中の標準生計費や、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査、あるいは、各種団体から公表されているモデル賃金などを参照します。
新賃金表への移行
現在の賃金体系を新しい賃金法に移行した場合、改めて、各従業員の等級と号数を決定する必要がありますが、基本的には直近上位に格付けることになります。
問題は、各等級の上限額を上回る賃金の従業員がいる場合です。方法としては、①上限の上に仮の昇給ゾーンを設ける(昇給額は通常より低く設定)、②調整給、調整手当という名目で支給する、といった処理で対応し、一定年数をかけて、通常の基準内に収まるよう修正していくことが考えられます。なお、上限超過者が多すぎる場合は、賃金表自体の見直しも検討する必要があります。逆に、初号賃金を下回る従業員がいる場合も、その差を調整するための原資が必要となります。
また、従業員の中には、年功序列の賃金体系に慣れているため、新賃金表に抵抗感をもつ者が現れることもあります。新しい賃金決定の仕組みを十分説明し周知徹底しておくこと、昇給基準、人事考課基準、昇格基準をしっかりと確認し合い、昇格するための研修体制を整えておくこと、などが重要です。
さて、賃金制度についてはここまでとし、次回からは、評価制度についてお話したいと思います。