トップページ  >  連載  >  社会保険労務40

社会保険労務

平成29年10月18日

40.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ⑨~評価制度の基本 その4~

前回は、「評価段階の選択」について、お話ししました。

今回は、評価制度構築にあたって留意すべき幾つかの点についてお話しします。

その他の留意事項

 

(1)人事考課の点数化について

人事考課の結果を比較する際、例えば、情意考課において、規律性が「S」で他の項目が「B」の従業員と、積極性と責任性は「A」だが他の項目は「C」の従業員とでは、どちらの評価が高いと考えるべきかについて、抽象的に判断すると、判断者の価値観や好き嫌いに左右されてしまいかねません。そこで、人事考課の結果を処遇に適切に反映させるためには、企業としてどの項目にウェイトを置くか、事前に基準を決めておいた上で点数の配分をしておくことが必要です。

その方法ですが、まず、等級あるいは職種ごとに「成績」「情意」「能力」考課のいずれの要素に重点を置いて点数化するかを決めておきます。

(例)等級ごとに全体を100%とした場合の振り分け方(黄色が重点箇所)

次に、各考課の要素ごとにどの項目に重点を置くかを決めます。

(例)情意考課全体を100%とした場合の振り分け方

最後に、評価ごとの点数を決めます。

(例)

上の例で行くと、例えば、A従業員の情意考課の評価について、規律性が「B」、協調性が「A」、積極性が「S」、責任性が「C」であるとすると、規律性が12点(60×20%)、協調性が24点(80×30%)、積極性が20点(100×20%)、責任性が12点(40×30%)となり、合計は68点となります。そして、A従業員がJ(ジュニア)クラスだとすると、68点×40%の27.2点が情意考課の分の点数になりますので、同様に計算した成績考課及び能力考課の点数を合計した点数がA従業員の総合得点ということになります。

 

(2)人事考課結果の調整方法

人事考課の結果を見たときに、個人や部門による差が大きく、このまま賃金や賞与等の処遇に反映させると不公平が生じると感じる場合があり得ます。基本的に、最初から調整を予定していると最初の考課者による考課自体がいい加減になってしまう可能性があるので、調整はなるべく行わず、適切な考課者訓練の実施や、等級・職種によるウェイトの調整などで対応すべきです。ただ、どうしても人によって好き嫌いが生じたり、前回の最後に挙げた考課者が陥りやすいエラーが生じる可能性もあります。そのような不具合が生じた場合に、すでに行った人事考課の結果をどのように調整すれば良いか、その方法を幾つかご紹介します。

 

平均方式

考課結果の総平均点と、考課者のつけた平均点を揃えるかたちで調整する方法です。

例えば、総平均点が60点、甲課長の平均が55点、乙課長の平均が63点であれば、甲課長がつけた各従業員の点数をプラス5点、乙課長のつけた各従業員の点数をマイナス3点として調整する方法です。

 

偏差値方式

各考課者がつけた結果から偏差値を算出し、それによって調整する方法です。

なお、偏差値は以下の算式で計算します。

 

標準者方式

職場ごとの「標準」もしくは「同レベル」と思われる従業員の結果を同じ点数に調整し、他の従業員の結果を当該「標準」もしくは「同レベル」と思われる従業員を元に調整する方法です。

(3)考課者訓練

考課者訓練とは、考課者が適正に人事考課を実施できるように訓練することを言います。

目的は、人事考課の趣旨や評価基準を考課者に周知し正しい理解を求めることと、具体的場面で適正な評価を実践できるようにすることですので、毎年少なくとも1回は行っておくことが必要です。

内容は、「講義」「実践」の2つに分けて行います。「講義」では、人事考課の仕組み、考課者の役割・心構え、各考課要素の定義、適正な人事考課の進め方、発生し得るエラーの原因と対応策、などを伝えます。「実践」では具体的な職務行動を例にして模擬考課を行います。ここで重要なのは考課結果の適否にこだわるのではなく、グループ討議を通じて各考課者がどのように考えたかを議論させて、各人の考え方の違いとその原因を理解させることが大切です。

 

(4)フィードバックと面接

人事考課制度の役割の1つが、各従業員の能力を把握した上で適切な指導・教育を行うなど効果的な人材育成に繋げることであると、以前お伝えしました。そのためには、従業員の職務行動を適正に評価した上で、評価すべき点と問題のある点を確認し、その結果を本人にフィードバックした上で、前者はさらに向上を目指し、後者は早急に改善していく必要があります。

フィードバックの方法としては、合計点数だけを伝えるのではなく、当該従業員の具体的業務における取り組み姿勢や能力の発揮状況についての評価を伝え、今後の改善策などを話し合うことが重要です。そこで事前に、具体的な事実に基づいて評価すべき点、注意すべき点について、特に従業員にとって自覚しやすい「成績」や「情意」を中心にまとめておきます。そして、「能力」については、今後の育成方針の中に盛り込んで、ある程度内容を固めた上で、本人と直属の上司とが1対1で時間をかけてじっくりと面接を行います。面接においては、一方的に会社の要求を伝えるのではなく、本人の意見も十分に聴いた上で、これから当該従業員にとって何が必要かを中長期視点に立って話をします。

なお、フィードバック時の面接は、結果がどうであったかを客観的に確認すると同時に、結果に至った原因や問題点の分析を行い、今後どう努力すれば良いかを本人に自覚させて育成するための面接です(「育成面接」)。この点、従業員の職務活動を計画的・効率的に実施していくためには、結果のフィードバックも含め、「計画」「実行」「評価」「改善」といったマネジメントサイクルの徹底が不可欠です。そのため、育成面接だけでなく、「計画」段階において、個々人の役割や仕事の目標を明確にするための「目標面接」を行ったり、「実行」段階において、目標達成に向けて努力している中で「中間面接」を行うことも効果的です。「目標面接」では、この先の各従業員の担当職務、役割、達成目標を話し合って共有化するとともに、事前に課題や問題点について対応策を確認しておきます。また、「中間面接」では、目標に向けた達成可能性、進捗状況を確認し、状況に応じて修正や変更の話し合い、業務遂行における意見や不満等の聴取を行います。

以上、今回でいったん人事制度の構築に関する連載は終了です。これまで全9回にわたって基本的な項目を中心にお話させていただきました。皆様のご参考になれば幸いです。

top