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社会保険労務

令和3年3月9日

64.70歳まで雇用が必要?(高年齢者雇用安定法の改正について)

改正の概要

平成18年及び平成24年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年法」という。)の改正法が施行され、65歳までの従業員の雇用を確保するため、事業主に対して、①定年の引き上げ、②定年の定めの廃止、③継続雇用制度の導入のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)をとることが義務づけられていました。

今回、さらに高年法が改正され、令和3年4月1日から、上記に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するための措置(高年齢者就業確保措置)を講ずる努力義務が課されることとなりました。

これまで(改正前)

定年を65歳未満に定めている場合、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならない

① 65歳までの定年引き上げ

② 定年制の廃止

③ 希望者全員に対して65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長制度等)の導入(※)

※ 経過措置として平成25年4月1日までに労使協定を定めている場合、適用対象者の年齢を令和7年3月31日までに段階的に引き上げ

改正後

高年齢者雇用確保措置に加え、以下のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じる努力をしなければならない

① 70歳までの定年引き上げ

② 定年制の廃止

③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長制度等)の導入

④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業

b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

これまでとの違い

(1)措置の内容について今回の改正と従前との大きな違いは、④⑤の措置(あわせて「創業支援等措置」といいます)が導入されたことです。これらは、過半数労働組合等(労働者の過半数を代表する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の同意を得て導入する必要があります。

④は、例えば、高年齢者が事業を起こす場合に、会社がその高年齢者が業務委託契約等を締結し報酬を支払うことで就業を確保しようとするものです。

⑤の社会貢献事業とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことで、その該当性は事業の性質や内容等を勘案して判断されることになります。例えば、ⅰ)メーカーが自社商品を題材にした小学校への出前授業を行う事業において、退職した高年齢者が企画立案を行う、ⅱ)講師を有償ボランティアとして務める、ⅲ)退職した高年齢者が会員となったNPO法人に業務を委託し、その事業に退職した高年齢者が有償ボランティアとして携わる、などが該当します。なお、シルバー人材センターやボランティアセンター等への登録をさせるだけでは、具体的な就業先が決まるわけではないので、創業支援等措置を講じたとはいえません。

なお、創業支援等措置に基づく事業に従事する高年齢者は、労災保険制度の特別加入制度に加入することが可能です(詳細はこちらをご参照ください)

(2)③の継続雇用制度について、65歳までの高齢者雇用確保措置では、自社か特殊関係事業主(自社の子法人、親法人、親法人の子法人、関連法人等)に限られていましたが、65歳以上70歳未満の高齢者就業確保措置ではその範囲が広がり、特殊関係事業主以外の他社での継続雇用も対象となりました。但し、自社と継続雇用先の会社との間で継続雇用を約する契約の締結は必要です。また、有期労働契約が更新を繰り返し通算で5年を超える場合、労働者の申込により無期労働契約に転換するという「無期転換ルール」について、自社あるいは特殊関係事業主に継続して雇用される場合は、適切な雇用計画に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受ければ無期転換申込権を発生させないという特例の適用がありますが、特殊関係事業主以外の他社で継続雇用される場合は、特例の対象とならず、無期転換申込権が発生しますので、ご留意ください。

(3)今回の改正は努力義務ですので、必ずしも措置を講じていないからといって行政罰や刑事罰等の制裁を科されることはありません。但し、定年が60歳から65歳と徐々に引き上げが行われてきた従前の経緯を考えると、同様に70歳までの就業機会確保が努力義務ではない通常の義務規定に移行する可能性は高いと思われます。また、何も対策をせずに放置したり、努力義務と正反対の行為を行うことは、努力義務に違反することになりますので、監督省庁である厚生労働省からの行政指導の対象になりますし、会社が就業確保の努力を怠ったとして高年齢者の従業員から損害賠償請求を受ける可能性もあります。なお、今回の改正はすべての事業主に対して一律に適用されるものですので、65歳未満の従業員しかいない場合でも、努力義務の対象になっている点ご留意ください。

 

その他の留意点

(1)高年齢者就業確保措置は努力義務ですので、その対象となる従業員について、基準を設定して限定することは可能です。但し、その基準の内容は労使に委ねられているものの、十分に協議した上で同意を得ることが望ましいですし、事業主が恣意的に高年齢者を排除するなど法の趣旨や他の労働関係法令に反する基準は認められません。例えば、会社が必要な者に限るや上司の推薦がある者といった内容は基準がないことに等しいので高年法の趣旨に反することになりますし、男性に限る、組合活動に従事している者に限るなどといった基準も他の法令に反することになります。

(2)また、①から⑤までの措置について、どの措置をどの職種・雇用形態の労働者に適用するかを区別することは可能です(労使間で十分協議することが望ましい)。

①から⑤の措置を講じた場合は、退職に関する事項の変更になりますので、就業規則等の変更・届出が必要になります。

(3)今回の改正法で求められているのは高年齢者が70歳まで働ける制度の導入ですので、事業主が個々の労働者の希望に則した労働条件を提示することまでは求められていません。そのため、合理的な裁量の範囲での就業条件を提示していれば、結果として合意が得られず当該労働者が措置を拒否したとしても努力義務を満たしていないことにはなりません。創業支援等措置について、個々の労働者と事業主との間で就業条件等の合意が得られない場合も同様です。

(4)高年齢者就業確保措置の導入にあたっては、「65歳超雇用推進助成金」の中の「65歳超継続雇用促進コース」が有用です。65歳以上への定年引上げ、定年制の廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかを導入した事業主に対して助成を行うもので、措置の内容や年齢の引上げ幅、60歳以上の雇用保険被保険者数に応じて一定額が支給されます。

例えば、被保険者数3人~9人の場合、定年を5歳以上引き上げ66歳にしたとき、120万円が支給されます。詳細はこちらをご覧ください。

(5)なお、高年齢者が解雇等により離職する場合は、求職活動に対する経済的支援、再就職や教育訓練受講等のあっせん、再就職支援体制の構築などを講じるように努めることとされていますが、高年齢者が希望するときは、職務の経歴や資格、技能、知識等の職業能力に関する事項等を記載した「求職活動支援書」を作成して本人に交付しなければなりません(様式例はこちらをご覧ください)。

高年齢者雇用については、問題となった実際の事例も含めて今後ご紹介していきたいと思います。

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