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社会保険労務

令和3年9月7日

69.育児・介護休業法の改正(令和3年)について

令和3年6月9日に、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律」が公布され、育児・介護休業法の内容が一部改正されました。施行は早くて来年4月1日ですが、改正内容に応じて就業規則の改訂や労使協定の準備などが必要となりますので、ご注意ください。

 

改正の内容

(1)男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(施行日:公布後1年6カ月以内の政令で定める日)

  新制度(現行制度とは別に取得可能) 現行育休制度
取得可能期間 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 原則子が1歳(最長2歳)まで
申出期限 原則休業の2週間前まで(※1) 原則1か月前まで
分割取得 分割して2回取得可能 原則分割不可
(今回の改正で分割して2回まで取得可能)
休業中の就業 労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲(※2)で休業中に就業することが可能 原則就業不可

※1 職場環境の整備などについて、今回の改正で義務付けられる内容を上回る取り組みの実施を労使協定で定めている場合は、1か月前までとすることができる

※2 就業可能日数の上限を厚生労働省令で定める予定(休業期間中の労働日・所定労働時間の半分になる見込み)

 

現行の育児休業制度に加えて、「出生時育児休業」と呼ばれる制度が新設されました。子の出生後8週間以内に4週間まで取得できる育児休業で、女性は産後休業が用意されていますので、基本的に男性が取得することが想定されています。

現行法上、男性が子の出生後取得できる休業として、いわゆる「パパ休暇」と呼ばれるものがあります。これは、育児休業が原則1回しか取得できない中で、子の出生後8週間以内に取得した育児休業は1回とカウントしないとされているものです。今回の改正で、新たに出生時育児休業が創設されたこと、また、通常の育児休業も分割取得が可能となったこと(後記(2)参照)から、パパ休暇と呼ばれる制度は廃止されることになります。

また、分割して2回取得することができますので、例えば、出生時・退院時と、里帰りから帰るタイミングの2回に分けて2週間ずつ取得することができます。但し、最初の申し出時に2回分をまとめて申し出る必要があります。

施行日は、本稿を執筆している令和3年9月5日時点では未定ですが、令和4年10月1日になることが見込まれます。

なお、併せて雇用保険法の改正により、出生時育児休業給付金が創設されます。

 

(2)育児休業の分割取得(施行日:公布後1年6カ月以内の政令で定める日)

現行は、原則分割して取得することはできませんが、2回まで分割して取得することが可能になりました。これは(1)の出生時育児休業とは別に取得することができますので、男性の場合、最大4回に分けて育児休業を取得できることになります。

また、保育園に入所できない等の理由で育児休業を1歳以降、あるいは1歳半以降に延長する場合、現行では、延長時の育休開始日が各期間(1歳~1歳半、1歳半~2歳)の初日に限定されていたため、その時点でしか夫婦の交代ができませんでしたが、改正後は、開始時点を柔軟に設定することができるようになりましたので、各期間の途中でも夫婦の交代が可能になりました。

 

(改正前後の育児休業取得のイメージ)

(3)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(施行日:令和4年4月1日)

現行は、有期雇用労働者が育児・介護休業を取得するためには、①引き続き雇用された期間が1年以上、②1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない、の2つの要件が必要でしたが、改正後は、①の要件が廃止されます。

その結果、雇用期間が1年未満の有期雇用労働者も育児・介護休業取得の対象になるところ、現行の無期雇用労働者と同様、労使協定により、継続雇用期間が1年未満の労働者を除外することが可能となります。

 

(4)雇用環境整備及び労働者に対する周知・確認措置の義務付け(施行日:令和4年4月1日)

まず、雇用環境整備について、現行は特に規定はありませんが、改正後は、上記(1)の出生時育児休業や現行の育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置が事業主に義務付けられることになります。具体的な内容は、研修、相談窓口設置等の複数の選択肢からいずれかの選択とされる予定です。

また、妊娠・出産の申出をした労働者に対して、現行は制度の個別周知の努力義務しかありませんが、改正後は、かかる申し出があった場合、当該労働者に対して、新制度及び現行の育児休業制度等を周知するとともに、これらの制度の取得意向を確認するための措置が義務付けられることになります。周知の方法は、面談での制度説明、書面等による制度の情報提供等の複数の選択肢からいずれかの選択とされる予定です。

 

(5)育児休業の取得の状況の公表の義務付け(施行日:令和5年4月1日)

従業員数1,000人超の企業に対して、育児休業等の取得の状況を公表することが義務付けられることになります。具体的な公表内容は、男性の育児休業等の取得率または育児休業等及び育児目的休暇の取得率とされる予定です。

 

求められる会社の対応

以上の改正を踏まえて、会社としては、様々な対応を検討しなければいけません。今回の改正では中小企業に対する猶予措置はありませんので、企業規模を問わず、早期の対応が必要となります。

まずは、就業規則や育児・介護休業に関する規程の改定が必要となります。考えられる内容としては、上記(1)を踏まえて、出生時育児休業に関する規定の追加(パパ休暇の削除)、分割取得が可能である旨の変更(それに伴い、申出撤回後の再申出も可能にする旨の変更)、1歳あるいは1歳6か月以降の休業の申出時期についての変更、また、(2)を踏まえて、有期雇用労働者の育児・介護休業の継続期間雇用1年以上の要件の削除、などです。併せて、育児休業の申出に関する書式や通知書の内容を変更する必要もあるでしょう。

また、出生時育児休業について申出期限を1カ月前までとする場合や、有期雇用労働者について無期雇用労働者と同様に継続期間雇用1年未満の者を対象外にする場合には、労使協定の締結を新たに行う必要があります。

さらに、上記(4)に基づく雇用環境整備として、研修を行う場合はその内容や時期、相談窓口を設置する場合は、担当者や受付時間、対応マニュアルの作成などが必要となりますし、労働者に対する個別周知や意向確認のために、社内通知文書等の作成も必要です。社内体制を今から見直して準備を進めていきましょう。

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