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社会保険労務

令和4年12月9日

73.介護と仕事の両立について

介護をしながら働いている人は、全国で200万人以上いるとされ、その中で、介護と仕事の両立が困難となり仕事を辞める、いわゆる介護離職者は、 2019年には年間10万人を超えています。超高齢化社会において介護は避けて通れない課題であるところ、両親の介護が必要となる年齢の従業員は働き盛りで、会社でも中堅的な役割を担っていることが多いため、仮に離職した場合に会社に生じる負担や不利益が大きくなることが予想されます。

会社としては、従業員に介護と仕事を両立してもらうためのサポートが必要不可欠といって良いでしょう。そこで、介護と仕事の両立をサポートする主な制度として、①介護休業制度、②介護休暇制度、③介護休業給付金、④勤務時間の制限等、⑤両立支援等助成金の活用について、ご紹介いたします。

 

介護休業制度

要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できる制度です。

対象となる家族は、配偶者(事実婚含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫です。

同じ会社や個人事業主に1年以上継続して雇用されていることなど、制度の利用には条件があります。なお、有期契約労働者について、従前は入社1年以上であることが要件でしたが、令和4年4月1日以降は、その要件は不要となっています(但し、別途労使協定を締結することでかかる要件が必要であるとすることはできます。また、取得予定日から起算して93日を経過する日から6カ月を経過する日までに契約期間が満了し更新されないことが明らかでないという要件は引き続き必要です)。

従業員自身が介護を行うためだけではなく、介護と仕事を両立できるようにするための体制を整えるための休業期間として活用することが望まれます。

 

介護休暇制度

介護や通院の付添、介護サービスの手続、ケアマネージャーとの打合せ等を行うために年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日または時間単位で休暇を取得できる制度です。なお、令和3年1月から、時間単位でも取得することができるようになっています。

休暇中の賃金について支給しないとする会社が多いようですが、欠勤ではなく出勤扱いになりますので、有給休暇の付与日数を考える際に欠勤扱いにすることは許されません。また、労働者が介護休暇を取得したことによって不利益な取扱いをすることは禁じられていますので、介護休暇取得を人事評価においてマイナスに評価することはできません。

 

介護休業給付金

介護休業制度を利用する人が、休業中に受け取れる雇用保険給付のひとつです。

受給するためには、以下の要件を満たす必要があります。

①雇用保険の被保険者である

②介護対象の家族が2週間以上の常時介護が必要な状態である

③職場復帰することを前提として介護休業を取得する

要件を満たせば、93日を限度として3回まで給付されます。

支給される金額は、日額賃金に休業日を乗じた金額の67%です。非課税のため源泉徴収はされませんので、手取り額ベースでいうと減額率はもう少し低いですが、育児休業給付金とは異なり社会保険料の免除はありません

 

勤務時間の制限等

事業主は要介護状態にある対象家族を介護するために従業員から請求された場合に、勤務時間を制限するなどの義務があります。

(1)短時間勤務等の措置

例えば、短時間勤務制度やフレックスタイム制度、時差出勤制度、介護費用の助成措置など、事業主は、利用開始日から3年以上の期間で2回以上利用可能な措置を講じなければなりません。

(2)所定外労働、時間外労働及び深夜業の制限

介護が終了するまで、1回の請求につき、所定外労働及び時間外労働は1か月以上1年以内の期間において、また深夜業は1か月以上6か月以内の期間において労働を制限しなければなりません。

(3)時間外労働の制限

介護が終了するまで、1回の請求につき、1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限しなければなりません。

(4)深夜業の制限

介護が終了するまで、1回の請求につき、1か月以上6か月以内の期間、午後10時から午前5時までの労働を制限しなければなりません。

なお、(2)~(4)についてはいずれも請求回数に制限はありませんが、事業の正常な運営を妨げる場合は従業員からの請求を拒むことができます。

 

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)

中小企業事業主のみが対象ですが、育児・介護休業法にもとづく介護休業とは別に、家族の介護を行う必要がある従業員が有給休暇を使って介護を行えるよう取り組む中小企業事業主を支援するための助成金です。本助成金により、介護休暇の創設等のサポートを受けることができます。

申請には、「介護支援プラン」の作成が必要となります。プランの中に、従業員が行っていた業務の整理や引き継ぎに関する措置、休業期間終了後の職場復帰の段取り、復帰後のフォロー面談などを組み込んだ上で、プランに沿って介護休業の取得や職場復帰に取り組むことが必要です。

介護休業(従業員が介護休業を合計5日以上取得し職場復帰した場合)、介護両立支援制度(介護のための柔軟な就労形態の制度を導入し、従業員が合計20日以上利用した場合)の2つに加え「新型コロナウイルス感染症対応特例」(新型コロナウイルス感染症への対応として、家族を介護するために特別休暇を取得した場合)も創設されています。

詳細はこちらをご覧ください。

 

[助成額]

    支給額
A 介護休業 休業取得時 28.5万円(36万円)/人
職場復帰時 28.5万円(36万円)/人
B 介護両立支援制度 28.5万円(36万円)/人
C 新型コロナウイルス感染症対応特例 介護のための有給休暇の取得が
5日以上10日未満 20万円/人
10日以上 35万円/人

( )内の金額は生産性要件を満たした場合、なお、A~Cいずれも1事業主1年度5人まで支給される

 

上記助成金では介護支援プランの策定が要件とされていますが、介護と仕事の両立支援制度を導入あるいは改善する上で、そういったプランの作成は必要でしょう。

その第一段階として、従業員にアンケートや聞き取りなどを行うことで、従業員の介護と仕事の両立に関する実態を把握することが重要です。介護と仕事の両立に悩んでいたり不安を感じたりする従業員の有無や従業員のニーズを把握するとともに、自社の両立支援制度が従業員に周知されているのかを確認します。その上で、具体的な制度の設計、見直しや従業員に対する支援に繋げていくことが必要です。そのためには制度の構築はもちろん、制度の周知と、従業員が利用しやすい相談窓口を設置しておくことが重要になります。

 

厚生労働省は、「介護離職ゼロ」を標榜し、「企業のための仕事と介護の両立支援ガイド」を作成しており、その中には、仕事と介護の両立支援実践マニュアルや、「介護支援プラン」策定マニュアル、労働者向けの実践例もありますので、制度の構築や従業員に対する研修などで参考になるかと思います。

介護と仕事を両立させる制度の構築は、中堅世代の離職防止につながるだけでなく、若手の従業員にとっても将来介護の問題が生じた際に安心して働き続けることができれば定着率やモチベーションアップにつながり、また、優秀な人材の確保にもつながり得ます。

一度社内の制度を見直してみてはいかがでしょうか。

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