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消費者問題

平成26年10月29日

12.企業のための消費者法 ―景品表示法の「課徴金制度」導入問題―

法改正の端緒

現在、消費者庁では景品表示法に課徴金制度を導入する法改正に取り組んでいます。既にパブリックコメントの手続も終了し、10月24日に法案が閣議決定され、今臨時国会に上程されました。

この問題は、昨年秋に起こった有名ホテルやレストランでのメニュー偽装が発端となって議論が湧き起こりました。広告や表示は、売り手にとっては、数ある同様の商品から自分の商品を選んで買ってもらうための情報提供ツールであり、買い手にとっては、良いものを適正価格で買うための判断材料になるものであって、事業者と消費者の双方にとって重要な役割を果たすものです。

しかし現在の法律では、広告や商品表示に虚偽の表示がなされた場合に、その違法な表示に対する差し止めなどの行政措置は用意されているものの、違法な表示行為そのものに対して直接的なペナルティはありません。これではやり得になりかねないので、課徴金という形の制裁を導入することが検討されるようになったのです。

 

消費者委員会の答申

内閣府の消費者委員会は、今年の6月10日に、不当表示行為者に経済的不利益を賦課し、違反行為に対するインセンティブを削ぐ課徴金制度を導入する必要性は高いとして、消費者の利益擁護のため不当表示を事前に抑止することを制度目的として、優良誤認表示・有利誤認表示に対して課徴金を賦課する法改正を行なうべきとの答申を出しました。そして注目すべきは、この課徴金制度について、不当表示に対する事前抑止のペナルティに留まらず、消費者の被害回復を促進する仕組みを導入すべきとしている点です。

 

消費者庁の法案動向

上記答申を受けて、消費者庁は、不当表示(事業者が表示した効果効能につき裏付けとなる合理的根拠資料を提出しない場合も不当表示と推定する)につき、売上額に100分の3を乗じた金額を課徴金とすること、消費者が不当表示により選択を阻害されることがなくなった日に遡る3年間をその売上額算定期間とすること、課徴金の額が150万円未満となる場合には課徴金を賦課しないこと(いわつる「裾切り」)、不当表示をした事業者が売上額算定対象の被害者に対して課徴金額以上の返金を実施した場合には課徴金を賦課しないことなどを内容とする法改正を行う方針を打ち出しました。

これに対して、経済界からは課徴金額が高すぎるとか、小規模事業者が不当表示の判断枠組みに迷い事業活動を萎縮させかねないという批判が起こっています。

 

事業者の皆さまへ

事業者側からしても、不当表示をして抜けがけ的に儲けを図る悪質業者を市場から排除しなければ公正な競争はできません。真面目に商売をする事業者を保護する意味でも課徴金制度は必要です。安く仕入れたバナメイエビを芝エビと偽って売る業者と、芝エビを仕入れて芝エビとして売る業者が競争すれば、価格面で真面目な業者(後者)が太刀打ちできなくなることは自明です。

そして、管理部門の弱い小規模事業者が事業活動を萎縮させられるという批判についても、表示が事実に反するかどうかを迷うこと自体考えにくいうえ、仮に不当表示行為があったとしても、裾切り制度によって、その不当表示をした個別商品について3年内に5000万円以上の売上げがなければ課徴金が賦課されることはありません。つまり小規模事業者が課徴金の網にかかることはほとんどないといってもよいでしょう。

真面目に商売に取り組んでおられる事業者の皆さまにとっては、課徴金制度導入は公正競争のために歓迎すべきことであり、全く恐れることではないのです。

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