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消費者問題

平成28年10月9日

21.企業のための消費者法 ―成人年齢引き下げ問題について―

先の参議院選挙では、有権者の年齢が引き下げられたことによる高校生の投票が話題になりました。成人として認められる時期はいつか。つまり、何歳になったら、自分の判断だけで契約や結婚ができ、選挙権を行使し、飲酒や喫煙もでき、刑事裁判も少年としての優遇を受けない扱いとするかについては、国によって違います。日本ではこれまで20歳を成年年齢として区切り、一律に処理してきましたが、社会の高齢化による世代間格差の問題や若者の政治参加を促す見地から、選挙権だけは、一足先に18歳で成人扱いすることになりました。

成人年齢の世界的潮流を見ると、18歳を以て、一律に成年扱いをしている国が多いようです。我が国でも、政府は選挙権に続いて、民法の成年年齢を18歳に引き下げる方向性を打ち出しました(刑事裁判における少年法の適用や飲酒喫煙については未定)。政治判断ができるということは、契約の判断もできるという建前です。この成年年齢の引き下げの動きについて、経済界は概ね歓迎のようであり、その背景には、市場が拡大する(取引相手となれる人口が増加する)ということがあります。18歳、19歳の若者にとっても、アパートを借りたり、クレジットを組んで高額商品を買うときは、これまで親に代わって契約してもらうか、その同意が必要だったのに、自分だけで契約できるようになることに魅力を感じる向きもあるでしょう。

ただ取引社会における非情な事実にも目を向けるべきです。悪質商法の被害者を年齢別に見ると、これまでは20歳以上に限られており、若年層の中では20歳の消費者が最も多いという現実があります。これは未成年取消権の行使を憂慮する業者側が19歳以下の人を相手にせず、成人になった途端にカモ扱いしていることを示します。つまり成年年齢の引き下げは、市場拡大という経済効果や契約規制緩和の意味がある一方で、悪質商法のターゲットになる消費者を増やす面があることもまた 確実だということです。18歳は20歳よりも社会的に未熟である(知識や経験が乏しい)と言え、より被害に遭いやすいということもできるでしょう。

そして大学や専門学校への進学率が高い実情の中、学生の身分で経済的行為の責任が本当にとれるのかという問題提起も重要です。もし成年 年齢を引き下げるとすれば、それが施行されるまでに、高校以下の消費者教育をより充実させることはもちろんですが、消費者契約法などの改正により、若年者保護の規定(未熟さにつけ込む勧誘に取消権を設けるなど)を置くことが必須といえるでしょう。

仮に、成年年齢引き下げの民法改正がなされれば、次には飲酒や喫煙をどうするのか、少年法改正をどうするのかが問題となり、国論は二分されるでしょう。それらの問題も併せ考えて、選挙権年齢は引き下げたが、あえて成年年齢は引き下げないという選択もあっていいのではない かと個人的には思います。

選挙権(政治判断)と行為能力(契約判断)を一致させることは必然ではありません。前者を認めても後者を認めない扱いは、成年後見制 度においても見られることです。成年年齢引き下げについては既定路線のような感がなくもありませんが、もっと議論を深め、慎重に検討すべきではないでしょうか。

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