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消費者問題

平成29年11月1日

24.事業者のための消費者問題 その24 ~広告と勧誘~

不当な広告・表示

電子商取引やネット広告、宣伝チラシの配布が盛んに行われる昨今、消費者が広告を見ただけで購入の申込みをすることが多くなっています。その広告やチラシに、事実と異なる内容や誇大な表現が表示されているような場合、消費者としてはそこに記載されたとおりの効用等があると信じて購入してしまう危険があります。そして、そのような不正な広告をして荒稼ぎをする事業者は、適正な表示をしている事業者にとっては迷惑この上ない存在であり、事業者間の公正な競争を歪めてしまいます。

 

「広告」は「勧誘」にあたるのか

このように不当な広告や表示が、不公正でいけないものであることは言うを待たず、法律においても景品表示法や不正競争防止法等で、事実に反する表示を禁止しています。しかし、それはいわゆる行政的規制にすぎません。不当な広告や表示が、民事的に違法な「不当勧誘」にあたるのかどうかについては、従来、消費者庁では否定的な見解を採ってきました。そこでは「勧誘」とは、特定の者に対する契約締結に向けた意思形成に影響を与える具体的行為であると定義され、不特定多数の者に対して行われる宣伝広告やチラシ配布は、「勧誘」には当たらないと行政的に解釈されて、運用されてきたのです。

   

消費者契約法の改正論議でも争点

一方、内閣府の消費者委員会が開催する、「消費者契約法」の改正を検討する専門調査会では、従来の消費者庁による「広告は勧誘に当たらない」という解釈を前提に、消費者側から「広告を勧誘に含める」こととする改正提案がなされましたが、事業者側から「広告を勧誘に含めると、ネット営業等にとって大きな足枷となる」という反対意見が続出し、議論が紛糾しました。

消費者契約法においては、不当勧誘が規制され、広告が勧誘に含まれることになると、不実告知としてその契約が取り消され(4条1項)、また広告が差止め請求の対象となる(12条1項)ので、事業者側はそれを危惧したのです。

 

最高裁判例で決着

この問題について、最高裁は今年の1月24日に、広告が勧誘行為として民事的な規制対象になりうるという判断を示しました。事案は、健康食品であるクロレラの新聞折込チラシに、高血圧や糖尿病の予防効果が謳われていたところ、そのチラシが不当勧誘にあたるとして消費者団体が差し止めを求めていたものでした。1審判決はチラシの広告内容から「クロレラが医薬品と誤認される恐れがある」として、これを不当勧誘と認め差し止めを命じましたが、2審判決は「不特定多数の読者にチラシを配布した時点では勧誘行為にあたらない」と判断して1審判決を取り消したので、消費者団体側が上告したものです。

最高裁は「消費者を保護する消費者契約法の趣旨に照らせば、不特定多数に向けた広告を一律に勧誘行為にあたらないということはできない」との画期的判断を示し、そのうえで、チラシは既に配布されていないから、差し止めの必要はなくなったとして2審判決の結論は維持しました。

このように、広告が勧誘にあたるかどうかについて、「広告の中身が、消費者が契約を締結する意思決定に影響を与えるものであれば、それは勧誘行為にあたる」という法解釈が最高裁によって示されることにより、この問題は決着したのです。

 

まとめ

最高裁判決により、不当な広告や表示は、行政的に規制の対象となるだけではなく、民事的にも不当勧誘として、契約取消しや、差し止めの対象となることが明らかになりました。当たり前と言えば当たり前の話ですが、不当広告から消費者を救済する道はここに開けたのです。

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