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消費者問題

令和3年3月9日

32.事業者のための消費者問題 ―消費者紛争はどのように処理されているか その3―

はじめに

前回、従来の消費者紛争の裁判では、「消費者側の主張事実を証する書面がない」=「その事実が認められない」という判決をされる傾向があったものの、近時では裁判所も証拠書類が事業者側に偏在していることを認識しており、上記のような一丁上がり的な判断をすることが減りつつあって、間接事実や間接証拠の積み重ねを汲み取ってゆく丁寧な審理判断をする傾向があること、審理が丁寧になる契機として消費生活相談センターに寄せられる被害情報を調査することにより当該事業者と被害の相関を見ることができ、これが事件解決の方向感覚やバランス感覚を養うのに寄与すると考える裁判官が増えてきたことを述べました。

今回は、もう一つの工夫としての、行動経済学や社会心理学の活用について述べたいと思います。

 

紛争類型別(商法別)の知見

消費者取引上の紛争には、商法ごとに事業者の勧誘方法と消費者の行動特性を整理することができます。

例えば「点検商法」では、高齢者が対象となることが多く、業者は無料で点検しますなどといって屋根などを調べて(きちんと調べていなかったり、虚偽の報告をすることも多いのが実情です)、傷んでいるから修理が必要ですが、今なら簡単にできます、しかし放っておくと近い内に雨漏りがしてかえって高くつくことになります、と言うような勧誘をする例が多くあります。これなどは業者が親切を装って孤独な高齢者に接近し、消費者をして、専門知識がある人(業者)が解決方法を示してくれているという心理にさせ、安心感や割安感を与えて、その業者に依存させる傾向が、行動経済学や社会心理学の知見から報告されています。

また「次々販売」や「過量販売」と言われる商法では、被害に遭いやすい人の名簿が悪質業者間で流通していたり、孤独な高齢者や大学生などが対象となりやすく、負債が増えてくると新規の負債を抱えることへの心理的負担が軽くなってくるということなどが報告されています。

そして、その他にも、催眠商法、資格商法、福祉商法などの様々な商法における事業者の勧誘方法や、消費者の心理・行動特性が類型ごとに整理されて報告されています。

 

事案についての具体的イメージ

このような類型ごとに整理された行動経済学や社会心理学の知見をふまえて事案を見ることによって、裁判官が消費者の心の動きとか、営業担当者の行動の意味づけなどを理解しやすくなり、事案についての具体的イメージを持った事実認定ができることに繋がるのですが、それのみならず、裁判官が事実や行為の評価を判断する上においても、知見を活用して事案を見ることによって問題を解きほぐす手がかりが見つかる場合があると言われています。

次回には、この知見の活用がもたらす事案の具体的イメージが作用した事実認定や評価が、どのように展開してゆくのかについて、書面重視の一丁上がり方式の判断との比較において述べることにします。

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