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相続

平成26年5月30日

3.未成年者が相続人の場合

例えば夫婦間に未成年の子が一人いる家庭で、夫が死亡した場合を考えます。未成年者も相続人ですから、当然に相続権はあります。

では、その遺産分割協議を、残された妻と未成年の子でできるでしょうか。結論を先に言いますと、できないのです。この場合、家庭裁判所に、未成年の子のための特別代理人を選任して貰わなければなりません(民法826条第1項)。

母親が親権者なのだから、母親に決めさせればいいではないかという考え方もあるかもしれません。

しかし、遺産分割はその性質上、どちらかの取得分を増やせば他方の取得分は減るという関係があり、母親の利益と子供の利益が衝突します。一般にこういう関係が成立する場合を「利益相反行為」といいます。親権者は、自分との関係で利益相反行為になる場合は子供を代理(代表)できないのです。

また、ある行為が利益相反行為であるか否かは、「外形的客観的」に定まり、親権者の動機や意図は考慮されません(最判昭和42年4月18日判例)。親権者に悪意があるから利益が相反するというものではないのです。ですので、逆に子供の利益になるように遺産分割したとしてもダメなのです。最高裁も、親権者が子を代理して遺産分割協議を行うことは、「親権者の意図やその行為の現実の結果の如何にかかわらず」利益相反行為に該当すると判断しています(最判昭和48年4月24日判例)。

ところで、「特別代理人の選任」というと、母親が、裁判所の選任した子供の代理人と、一から遺産分割協議をしなければならないようなイメージを抱いてしまいますが、そうではありません。実際には、特別代理人選任の申請に際して、事前にお母さんが遺産分割協議書を作成し、「こういう内容の遺産分割協議を成立させたいので、そのための特別代理人にこの人を選任して欲しい」という内容を示して申請すれば良いのです。相続人は特別代理人を兼ねられませんが、それ以外に資格要件はありませんから、特別代理人の候補者は、親戚の人でも誰でも構いません。

選任を申請する際に、家庭裁判所がお子さんにとって明らかに不利な内容の協議書になっていると判断した場合には、特別代理人は選任されません。要するに、未成年の子がいる場合の遺産分割は、お母さん(親権者)だけで決めるという形式がとれないだけのことであり、内容に問題がなければ裁判所がお墨付きをくれるシステムになっているわけです。

また、申請された内容の遺産分割協議を成立させるための特別代理人ですから、選任されてから内容を変えることもできません。ですから、特別代理人に選任された方も、特に何か勉強しておかないと務まらない、というものでもないのです。

ちょっと手間はかかりますが、上記のようにそんなに面倒な手続きではありませんし、後から問題になるともっと面倒なことになりますので、手続きだけは踏んでおく必要があります。

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