トップページ  >  連載  >  相続12

相続

平成27年2月28日

12.マンション(遺産)の賃料は誰のものか

今回は、マンション経営をされていた方がお亡くなりになった場合、相続が開始してから遺産分割によってそのマンションを相続する人が決まるまでの間に発生した、マンション居住者から支払われる賃料(厳密に言えば「賃料債権」ですが、以下、「分割前賃料」と言います)は誰のものか、というお話です。

この問題については、遺産分割によってそのマンションを相続した人が全部取得するという考え方もありましたが、最高裁判所は、平成17年9月8日の判決で、分割前賃料は遺産ではなく、別個の金銭債権として各共同相続人がその相続分に応じて確定的に取得するという判断を示しました。それぞれの考え方の解説は行いませんが、ここでは、最高裁がこのように判断したことが、遺産分割調停にどのような影響を及ぼすか、を考えてみたいと思います。

 

まず、分割前賃料は遺産ではないというのですから、そもそも遺産分割調停(もしくは遺産分割協議)において話し合う対象にはできないのではないか、という疑問が生じます。

その疑問は一応もっともであり、調停の実務でも、遺産でないものは遺産分割の対象にしないのが原則です。しかし、相続人全員で、分割前賃料も含めて話し合おうという合意をした場合は、協議の対象になります

 

こういう例はほかにもあります。例えば故人の銀行預金は遺産ではありますが、遺産分割を要することなく、当然に法定相続分に従って各相続人のものになります。しかし、これもやはり共同相続人全員で合意すれば、調停では話し合いの対象に入れております。

 

例えば、遺産として評価3000万円、2000万円の二筆の土地と500万円の銀行預金があり、加えて500万円の分割前賃料があった場合を考えます。最高裁の判例に形式的に従うと、遺産分割の対象は土地のみになりますので、AはBに500万円を代償金として渡さなければなりません。

しかし、銀行預金も分割前賃料も含めて話し合ったとしますと、分ける対象は6000万円になりますから、Aが3000万円の土地を取得し、Bが2000万円の土地と500万円の銀行預金及び500万円の分割前賃料全部を取得すれば公平になります。

 

つまり、分割前賃料や銀行預金を話し合いの対象に含めるということには、「前もって各相続人が拠出し得ることが明らかな代償金類似の金員を確保しておくことができるので、これをいわば潤滑油として用いて、全体として公平妥当な分割を図ることが可能になる」という意味があるわけです。

上記の例は極めて単純な相続例であり、実際に行われる遺産分割協議はもっと複雑なのですが、原理は同じです。むしろ複雑であればあるほど、現実の遺産分割を行う場合に、簡単に分けられる金銭や金銭債権を「潤滑油」として用いる必要性も高くなり、それだけきめ細やかな分割ができる、ということになります。

 

ただ、気を付けておいていただきたい点が二点ほどあります。第一点は、分割前賃料も銀行預金も、調停が不調に終わり、遺産分割審判に移行した場合は、審判の対象にならないということです。裁判所は「法的判断」を行うのが任務ですから、「法的に分割対象にならないもの」は判断対象にできないからです。そのため、(潤滑油がなくなることから)審判は、例えば分け難い不動産は共同相続人の共有にしてしまうなど、形式的なものになってしまう可能性も生じます。他に方法がなければ仕方のないことですが、共有にするということは一般に解決の先送りにしかなりません。従って、各当事者にも「もし審判に移行すればどういう判断が考えられるか」という観点を持って頂いたうえで、どのような解決が望ましいのかを互譲の精神をもって判断して頂きたいと思います。第二点は、各月の分割前賃料については、税務上はあくまでも各相続人の「所得」としてカウントされるということです。銀行預金は遺産なので、どのように処理しても「相続税」の対象ですが、分割前賃料は遺産ではありませんし、金額も確定していますので、各人の所得になり、所得税の対象になります。共同相続人全員の合意で遺産分割の話し合いの対象にできるとは言っても、遺産でないものを遺産にできるわけではありません。税務のことは話し合いが終わってから税理士さんに相談すれば良いだろうと思っておられる方もたまに見受けますので、この点も注意が必要です。

top