トップページ  >  連載  >  相続17

相続

平成27年8月1日

17.遺産の固定資産税負担

遺産に不動産がある場合、遺産分割協議がなかなか纏まらなくても、固定資産税は毎年賦課されます。今回は、相続開始後、遺産分割協議が纏まるまでの間の固定資産税は、本来誰が支払うべきものなのか、という問題です。この問題は、例えば相続人の誰か(仮にAさんとします)が固定資産税を立て替えて支払っていた場合に、Aさんは、遺産分割が纏まった際に、誰に幾ら請求できるのか、あるいは誰にも請求できないのか、という形で生じてきます。

この問題については、概ね以下の三つの考え方があります。

相続財産から支払うべきである。
この考え方では、Aさんはまず相続財産から立て替え分を取得し、残余の相続財産を皆で分けると言うことになります。
相続人がその相続分に従って支払うべきである。
この考え方では、遺産分割とは関係なく、Aさんは、各相続人に、その相続分に従った額を請求することになります(理念的にはそうなりますが、実際には上記1と同じ方法になることも多いでしょう)。
遺産分割の結果、その不動産を相続したものが支払うべきである。
この考え方では、Aさんは遺産分割が終わってから、不動産を相続した相続人に請求することになります。

なお、原則形としては上記1から3のどの考え方をとる場合でも、不動産に居住するなど、その不動産を利用している相続人がいる場合には、例外として、利用している相続人が支払うべきである、という考え方もあります。

 

清算の仕方として、上記1と2は、ほぼ同じ処理になりますが、3や例外型の考え方をとると、処理の仕方が違ってくることになります。

説明は省きますが、いずれの考え方にもそれなりの理由があります。そのため、相続人全員が一つの考え方で一致できるのであれば、清算に関して特に問題は生じないのですが、例えば不動産を相続しない相続人が上記3の考えで、不動産を相続する相続人が上記1か2の考え方をもっている場合などを想定して頂ければ、話がややこしくなることはご理解頂けると思います。

従って、相続開始後に遺産の固定資産税を支払う必要が生じた場合は、その時点で、将来清算の問題が生じることを考えて、最終的に誰が負担するのかを話し合っておく必要があります。

そして、その話し合いが付かないのであれば、将来揉めることは明らかですから、安易に立替えるべきではありません。支払方法としては、取り敢えず遺産から支払っておくか、皆で負担するという方法を採っておくべきです。

逆に言いますと、遺産から支払うか、各相続人が相続分に従って支払っておくという方法を採っておきますと、少なくとも上記1か2の考え方からは清算の必要が生じません。言い換えますと将来生じる紛争は、上記3か上記例外型を許容する考えに立つ人と、相続により不動産を相続した人(あるいは不動産を利用していた人)との間で生じることになります。

要するに、将来生じる紛争を避けることができるのであれば、それに越したことはありませんが、「考え方の差」による紛争のように、避けにくいものもあります。その場合には、事前に、紛争当事者と紛争額を減らしておくということも必要なことになります。

ちなみに上記1から3の考え方にはそれぞれ理由があると申し上げましたが、法律の世界ではこういうことは良くあることで、最高裁が判断すれば、実務的にはその方向で進むことになります(要するに「裁判になればこうなる」という指針ができるわけです。)。しかし私の知る限りでは最高裁はまだこの問題それ自体に判断は示していないと思います。

ただ、他の問題に対する最高裁判例(遺産が賃貸不動産であった場合に、相続発生後に生じる賃料は誰のものかに関する判例)との統一的処理の観点から推測すると、おそらくこの問題に関しては上記2の考え方になるのではないかと思われます。理由は、①相続開始後に発生する固定資産税は相続発生後に相続人に対して発生するものであり、性質上相続債務ではない、②従って、遺産分割の遡及効とも直接関係しない(不動産を相続した相続人が遡って支払うべきものとは言えない)、③金銭債務であるので可分である、ことなどに依ります。ただ、その不動産を利用しているものがいる場合にはそのものが負担すべきだという考え方については、この考えを最高裁が採用するか否か、今のところ分かりません(この考え方は、公平の観点からは納得できる要素があるものの、理論的根拠はあまりないと思われます。それだけに相続人全員がこの考え方に同意してそのように処理することには何の問題もないのですが、揉めてしまった場合に、最高裁がこの考え方を採用するか否かは、分からないのです)。

このように、確たる判例がないと思われる場合には、一定の「判決予想」に従って採るべき行動を決めねばならないこともあるわけですが、この問題に関しては、(あくまで私見であることを留保しつつ)やはり「取り敢えず固定資産税を支払う」場合には、「皆が負担する」方式を採用しておくべきだと思われます。

top