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相続

平成28年3月9日

24.隔地者間の遺産分割調停

今回は、一部の相続人が遠く離れて暮らしているという場合の遺産分割調停のやり方をご説明致します。

連絡を取り合って遺産分割協議が整えば良いのですが、整わない場合は調停や審判ということになり、原則として、相続人全員に管轄の家庭裁判所に出向いて頂かねばなりません。しかし、どうしても出頭できないという方もおられます。今回は、そのような場合にどのような方法があるか、というお話です。

代理人の出頭

遺産分割調停は財産上の行為であるということで、家事調停ではありますが、比較的広く代理人による出頭が認められており、離婚等とは異なり、代理人のみの出頭で調停を成立させることもできます。弁護士でなくても、家庭裁判所の許可があれば代理は可能です(家事事件手続法22条1項但書)。ただ、共同相続人が他の共同相続人を代理することは利益相反行為に該当するので認められません。

電話会議による手続き

次に、「電話会議」によって手続きを進めるという方法が認められています(同法54条、258条1項)。電話と言っても裁判所側ではスピーカーと集音装置がありますので、部屋で話しているのと変わりはありません。ただ、テレビ会議と異なり、互いに顔は見えないので、電話先に、遺産分割協議とは無関係な人が同席している可能性もあることなどから、家事事件手続きの非公開性との関係上、この手続の採用には家庭裁判所も慎重です(欠席者が最寄りの家庭裁判所に出頭して応対することを条件に認めることもあるようです。ただ、弁護士が代理人の場合は比較的広く許容されますので、地元の弁護士に代理人を依頼して電話会議を求めるのが現実的でしょう。)。

受諾書面による方法(同法270条1項)

遠隔地に居住している相続人が、他の相続人が合意する案で構わないと言っている場合に用いられる方法です。具体的手続としては、①他の相続人で合意を形成する。②調停委員会がそれを調停条項案としてまとめ、遠隔地の相続人に郵送する。③遠隔地の相続人がその案を受諾する旨の書面(同封されています)を送り返す。④次の調停期日において、他の相続人もその案を受諾する。という順序になります。ただ、時が経過すると人の気持ちは変化するものですので、当初は受諾の意思があっても途中で気持ちが変わるということはあり得ることです。従って、連絡の取れる相続人が、時々その人の反応を確かめておく程度の配慮は必要です。最終段階で「NO」になったのでは何にもなりませんので、この点は注意しておくべきです。

受諾書面による方法(同法270条1項)

上記1~3は、遠隔地の相続人が、「調停に参加する意思はある」という場合の方法ですが、元々疎遠であったり、他の相続人と感情的な対立があったりして、相続人や裁判所からの連絡に対して応答すらしてこないという相続人も時々おられます。このような場合、出席相続人で合意ができたとしても受諾書面による方法が使えず、調停は成立させられません。原則としては「審判」に移行するのですが、その前段階としてこの「調停に代わる審判」が利用される場合があります。条文上、その要件は必ずしも明確とは言えませんが、実際的には、①出席当事者間において実質的な合意形成ができていること、②その合意内容が欠席者にとって不利益な内容でないこと(=法定相続分を満足していること)、などがその要件と考えられています。

ただ、この「調停に代わる審判」は、告知を受けた欠席者から異議が申し立てられると効力を失い、通常の審判が行われることになりますので、実際には、例えば当事者間では感情の対立があり、意地になって欠席しているが、裁判所が決めたことで、自分に特に不利でないなら反対まではしないだろうと見込めるような場合に利用されるようです。

この方法は、遺産に預貯金が含まれている場合には結構利点があります。例えば遺産が預金と不動産だとします。不動産を一つずつ分けてもそれぞれ評価額が異なりますので、その凸凹を預金の分け方で工夫するという遺産分割は良くあります。出席当事者もそれを望んでいるわけです。しかしそのまま審判に移行してしまうと預金は当然に法定相続分で分割されますので審判の対象になりません。不動産だけが審判対象になり、現物では公平に分けられないとなれば代償分割、換価分割、共有のいずれかの審判になります。いずれも出席当事者の望まない分割方法なわけですから、出席当事者に異議がなく、欠席当事者も法定相続分が確保できているなら、まずは「調停に代わる審判」を試みる方が望ましいと言えるわけです。

実際問題として、遺産に預貯金を含まないことはまずありません。そのため裁判所も、誰もが不満を残してしまうであろう審判に踏み切る前に、この「調停に代わる審判」を利用することについて、結構積極的なように思われます。その意味で、「連絡を取っても返事もない相続人だから、調停を申し立てても出てこないだろう」と思われる場合でも、諦めずに調停を申し立てて、出席当事者間の合意を目指す意味は十分にあると言えるでしょう。

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