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相続

平成28年12月5日

33.相続法の改正について(5)

今回は、遺産の一部分割に関する準則の新設についてご説明致します。一部分割というのは、文字通り、遺産の一部だけを分割するという意味です。

遺産分割は、全ての問題を解決するため、全遺産について一度で行なう方が望ましいのですが、現行法上、一部分割を禁止する法律はありません。しかし、そのため、「誰も欲しがらない遺産」が分割されずに放置されてしまうという事態が生じ、近時問題になっている「空家問題」が生じる一因にもなっています。遺産分割調停や審判に持ち込まれた場合は、分けにくいからといって、遺産が放置されることもないのですが、任意の遺産分割協議では、こういう放置事案が生じます。

そこで、新設される準則では、「一部分割は、それを行なうのが相当な場合にのみなし得る」ことにすると言うことにしています。これは審判や調停の場合だけではなく、任意の遺産分割協議の場合にも適用されます。勿論、「誰も欲しがらない」と言うだけでは上記の「相当な場合」には当てはまりません。

では、「相当な場合」とはどのような場合かというと、中間試案では、ある財産について、それが遺産なのかどうかが問題になってしまい、その解決を待っていては遺産分割が著しく遅延してしまうような場合を、一部分割が「相当である」典型例として挙げています。遺産分割というのは、全部の遺産について一回的に解決することが望ましいので、上記のようなやむを得ない事情がある場合以外にはむやみにやらないでくれ、ということになります。

ところで、一部分割を行なう場合に問題になるのは、「特別受益」や「寄与分」の処理です。中間試案の準則では、「原則として特別受益や寄与分の規定は一部分割の際に考慮し、その後の残部分割に際しては考慮しない」ということになっています。

この点を、「特別受益」を例にとって考えてみます。

例えば、相続人がA、B、Cの3名で、法定相続分は均等、Aが1000万円の特別受益を得ており、現在確定している遺産が2000万円、遺産性が争われ、解決が長びいている3000万円の財産(甲)があるとします。

この状態で遺産(の一部)分割を行ないますと、特別受益を持ち戻してみなし相続財産は3000万円になり、A、B、Cの具体的相続分は各1000万円になります。Aは既に1000万円の特別受益を得ているので具体的相続分はゼロ、BとCが各自1000万円を相続することになります。結果としてA、B、C各1000万円を取得することになり、公平です。その後、甲が遺産であることが確定したら、甲をA、B、Cが1000万円ずつ分割すれば良いことになります。つまり、この場合なら、上記準則に従って一部分割を行なっても特に問題は生じません。

しかし、上記の例で、仮にAの特別受益が1600万円だったとすればどうなるでしょうか。特別受益を持ち戻してみなし相続財産は3600万円になり、A、B、Cの具体的相続分は各1200万円になります。Aは既に1600万円の特別受益を得ているので具体的相続分は-400万円ですが、一旦貰ったものを吐き出す義務まではありませんので、具体的相続分はゼロとなり、BとCが現存する遺産2000万円を各自1000万円ずつ相続することになります。これは、結果としては不公平に見えますが、仕方のないことと考えられています。

しかし、その後財産甲が遺産だということになった場合、もし3000万円を均等に分けるとすれば、結果としてAは2600万円、BとCは各2000万円相続することになります。

しかし、最初から甲を遺産に含めて遺産分割を行なっておれば、みなし相続財産は6600万円、各自2200万円ずつですから、現実の遺産5000万円をAが600万円、BとCは各2200万円で分割でき、全体として各自2200万円ずつになる公平な分割ができたわけですから、一部分割を先行させるか、結論を待ってから一度に分割するかで、全体の遺産分割の結果に不公平が生じることになります。

上記は、一部分割を行なうにつき相当の理由があった場合ですから、その結果として不公平が生じることは避けるべきでしょう。

そこで、中間試案の準則では、例外的に、一部分割を行なう際に考慮できなかった特別受益や寄与分に関しては、残部分割に際して考慮されることにしています。中間試案で上記の例が挙げられているわけではないのですが、この場合はおそらく「一部分割を行なう際に考慮できなかった特別受益」に該当するのではないかと思われます。

「おそらく」、「思われます」などと言うと、「頼りないなあ」と思われるかも知れませんが、現段階では、まだ解釈が定まっていません。例えば、上記の例では、一部分割をする際に一応特別受益を考慮していますし、その結論は見えていたわけです。従って、「考慮できなかった特別受益」には該当しない、という解釈も成り立つのです。立法される際の文言も、上記文言が用いられるのか否か分かりません。おそらく今後の立法段階で、「一部分割を行なう際に考慮できなかった」というのはどういう場合を想定するのかについても議論されるはずです。その結果、よりふさわしい文言に変更されるかも知れません。それまでは、断定的なことも言えないのだということをご理解下さい。

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