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税制知っ得

平成25年7月5日

17.「サザエさん」に課税

東京世田谷区のサザエさんの銅像に課税されるというニュースがありました。他の各地の銅像は課税されないのに、と比較されていましたね。

桜新町商店街は、町の活性化のために、漫画の誕生から65周年を記念した平成24年3月に、サザエさんら等12体の銅像を設置しました。東京都と世田谷区から補助金をもらい、4,200万円を費やしたそうです。

そして、今年6月、この銅像が償却資産であるとして、商店街は固定資産税58万9200円の支払いを求められました。東京都は、150万円以上の償却資産について、1.4%の税率の固定資産税を課しているのです(東京都都税条例122条、123条)。

 

この納税通知を受けた商店街の反応は「非課税だと思っていた」というもので、大変困ったようです。しかし、これは、本当に想定外のことだったのでしょうか?

 

まず、固定資産税は、固定資産の所有者に対して課されます(地方税法343条1項)。もちろん、この所有者には法人も含まれます。本件の銅像の所有者は、商店街と書きましたが、正確には「商店街振興組合」です。これは、民法上の「組合」とは異なります。民法上の組合には法人格が与えられないため紛らわしいのですが、「商店街振興組合」となると、商店街振興組合法という法律があり、この法律によって法人格が与えられているわけです(同2条1項)。

 

そして、銅像は償却資産にあたります。「償却資産」とは、土地・家屋以外の事業に供することができる資産で、減価償却額・減価償却費が損金又は経費に算入できるもののうち、取得価額が少額であるものその他政令で定める資産以外のものをいいます(地方税法341条4号)。要するに、事業者が事業を行うために必要な機械、器具等です。

サザエさんたちは、商店街が活動していくためのPR品、広告宣伝用のものと判断されました。「町の活性化」というのは公共目的でもありますが、観光客を誘致し、お金を落としてもらうという事業目的でもありますよね。「PR目的の看板と同じ」と言われてもとやむを得ない側面はあります。

一方、報道によると、商店街は、用途非課税(特定の用に供されるものについて、その公益性に着目して非課税とするもの)という主張をしているようです。しかし、所有権が商店街にあり、商店街が管理している以上、そもそも用途非課税には該当しません。

商店街としては、課税されることを想定しておくべきだったように思います。

 

市町村は、「特別の事情」がある場合には、固定資産税の減免が認められます。どのようなケースが「特別の事情」にあたるかは、自治体の条例で例示されている場合が多く、最終的な判断は市町村長が行います(地方税法367条)。

過去の判例を調べてみると、市町村長の裁量はかなり広めです。例えば、「固定資産税の減免という手段によって達成しようとする行政目的の下において行使される市長の裁量権に委ねられているものと解されるから、その裁量権の行使に逸脱又は濫用があったと認められるときに限り、これを違法とすることができる」(東京地裁平成5年7月16日判決)と述べられています。

具体的な事例としては、個人立の幼稚園について、「学校教育法1条に規定する学校であって、監督庁である都道府県知事によって教育内容に関する事項が定められており、幼児の初期教育を担って社会一般の利益を増進させるものとして優に公共性を肯定できる」と判断し、個人立幼稚園の用に供されている固定資産について減免を認めることは何ら違法でないと述べています。そして、個人立の幼稚園で「おけいこごと教室」を運営することによって利益を得ていたとしても、それが施設の公共性を失わせることになるものではないと述べています(上記判例に同じ)。

別の判例で、条例に「公民館類似施設」については固定資産税を全額免除すると定め、私人が所有し、朝鮮総連が県本部として使用している土地建物は公民館類似施設として、減免は適法と判断したものもあります(熊本地裁平成17年4月21日)

一方、在日朝鮮人のための施設として使用されており、広く一般住民に開放されてその使用に供されているとはいえないと述べ、条例が定める「公益のために直接専用する固定資産」に該当しないと判断したものもあります(長野地裁平成20年2月22日判決)。

 

判例をみると、所有者が都道府県や市町村等でなくても(地方税法348条1項)、「公共性が高い」場合には、「非課税」は難しくとも、減免は認められる可能性がありそうです。

本件でも、減免の方が突破しやすいと考えるのが論理的でしょう。サザエさんの設置にあたり、東京都と世田谷区から1400万円ずつの補助金を出しています。補助金の額が高いほど公共性は大きいと言えるでしょう。

商店街は、一度納税した上で、不服申し立て期間内に都税事務所と話し合うそうです。

「町の活性化」というならば、設置場所は変えずに、観念的な所有権を区に譲渡してしまうことも方法の一つかもしれません。

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