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税制知っ得

平成26年3月28日

20.必要経費の考え方② -具体的事例に則して考える-

今年度も確定申告の時期が終了しました。皆さん無事申告を終えられたでしょうか。確定申告の際には、「これは必要経費にしていいのか?」というご質問をよく頂きます。今回も前回に引き続き「必要経費」をテーマにし、よく頂く質問とその回答をまとめてみました。

 

社会奉仕団体への入会費や年会費

個人事業主の方で、社会奉仕団体に入っておられる方は結構いらっしゃると思います。ロータリークラブ、ライオンズクラブ、青年会議所(JC)等。これらの入会金や会費、その他活動に伴ってかかってくる費用が経費となるのか、という問題は一度は頭を悩ませる疑問だと思います。

前回のコラムでみたとおり、諸々の費用が必要経費として認められるためには、業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができることが必要でした(所得税施行令96条1号)。

これを前提に参考になる裁決を二つ見てみましょう。

一つ目は、公認会計士がロータリークラブの会費を必要経費の額に算入したことについてその可否が争われたものです。裁決は、「請求人において例会を中心とする各種会合に参加し、会員である関与先はもとよりA地区の各種職業の経営者と懇親を深め、社会的信用を高めることは、請求人の業務に何らかの利益をもたらすであろうことは首肯できなくはないが、請求人がAロータリークラブに入会したこと及びその例会に参加することが、主として業務上の必要性に基づくものであると客観的に認めることはできず、仮に業務とある程度の関連性があり、業務上の必要性があったとしても、その部分が明らかではない。」と述べ、ロータリークラブの年会費を必要経費の額に算入することはできないとしました(昭和58年1月27日裁決)。

二つ目は、病院経営者のロータリークラブや同窓会への会費、参加費用、会員への慶弔費等が必要経費となるかが争われたものです。こちらも同様に、「個人的立場に基づいて入会する性質のものであり、そこにおける活動は各会員の私的な活動にすぎない」と述べ、必要経費の額への算入は認められませんでした(平成17年4月26日裁決)。

これらの二つの裁決からすると、社交団体への入会費や年会費等を経費とすること難しそうです。しかし、公認会計士も医師も、そして弁護士、税理士も、ここ数年で人数が増えています。一昔前と異なり、業務そのものを継続していくために、営業活動に多大な労力を割くこともあります。ロータリークラブ、ライオンズクラブ、JC等の活動の理念は社会奉仕ですが、ここでの活動を通じて各種業界の経営者らと懇親を深め、業務拡大につなげるという目的で参加している方が大半ではないでしょうか。このような御時勢においては、社会奉仕活動への参加が単なる私的な活動ではなく、業務上の必要性に基づくものであることが客観的に明らかになっていると構成する余地も十分あり得るのではないかと思います。確かに、業務上必要と認められる部分の区別が難しいという点は解消しにくい点ではあります。しかし、入会費と年会費に関しては、そもそもこれを支出しなければクラブでの活動はできず、他の会員と懇親を深めることもできないため、これは業務上必要であるが、一方で入会費と年会費を支払えばクラブでの活動は一応なしうるのであるから、これら以外の例えば会議の後の会食にかかる費用等は業務上必要とまではいえない、という具合に区別することも可能ではないでしょうか。

 

語学スクール、簿記スクールの授業料

最近はグローバル社会を生きていく上で英語や中国語は必須だということで、教養の一つとして語学を習得を目指す社会人が多いです。簿記も必要最低限の会計の知識は身に付けておきたいということで勉強する人が多いようです。これらの授業料は必要経費になるでしょうか。

これは業種やその人の日頃の業務内容に変わってくるので一概には言えませんが、単なる教養としてということであれば、難しいでしょう。いつか外国人のお客さんがくるときに備えて、いつか経営支援の依頼がくることに備えて、というような抽象的な可能性では認められません。裁決でも、開業歯科医師が英会話研修の費用を必要経費とした件では、「平成8年から平成10年までの間、診療の上で英会話の能力を必要とする外国人患者の受診は平成9年の1名であり」と認定されており、実際上の必要性が問題とされています(H13.3.30裁決)。

例えば、既に複数回にわたり英語や中国語を必要とする業務の依頼があったとか、通常の業務の中で決算書の精査を必要とする場面があった等の実績があれば、業務の遂行上必要であることが客観的に明らかと言いやすく、必要経費にできるでしょう。また、実績がない場合であっても、英語や中国語、簿記の知識を用いた業務の拡大を具体的に検討している場合は業務上の必要性を認めてよいでしょう。いつかそのような仕事がくれば、という受動的なものではなく、例えば、このような業務についての営業計画も含めた事業計画書を作っておいたり、「一般教養の取得」と言われる限度を超えて日頃からセミナーに参加していたり図書で勉強をしていたりすれば、今後の業務拡大を具体的に検討し、その必要性から支出しているものと考えてよいでしょう

スーツ代

最後に、もう一つ、頻繁に聞かれるのがスーツ代です。スーツ代は決して安くありませんし、仕事以外で着用することはそんなにありませんから、経費で落としたいところではあります。

しかし、スーツ代は必要経費にはできません。これも不動産所得に対する必要経費への算入が争われた事件の裁決で、算入不可とされています(H23.3.25裁決)。

理由は、通常の家事上の経費としても必要な支出だからです。サラリーマンは会社でスーツ着用を義務づけられるということもありますが、個人事業主は基本的に何を着ようと自由です。人と接することも多い業務では、スーツを着用するのが一般的ではありますが、必ずしもスーツでないといけないわけではありません(最近は、ジャケットとパンツを分けて着こなしている人も多いですし)。一方、仕事以外でスーツを着ることはあまりありませんが、滅多に着ないというほどでもないでしょう。フォーマルな集まりや慶弔の場で着ることも多々あることと思います。つまり、業務用とプライベート用を分けることはできないので、業務上必要とは認められないわけです。

  

要は、その支出について業務上の必要性を合理的な理由に基づき説明できるかということです。社会奉仕団体への入会費等では裁決に反対する説を唱えましたが、少なくとも現時点では経費とすることは認められていませんので、お気を付けください。

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