トップページ  >  連載  >  税制知っ得40

税制知っ得

平成29年5月31日

40.法人において、前期以前の経理上の誤謬が発見された場合どうするか?

概要

平成23年3月31日までは、過去の経理に誤謬があった場合、締めた帳簿は修正できないところ、誤謬を発見した期に修正経理(前期損益修正項目として当期の特別損益で修正)をしていました。誤謬といってもその法人所得に対する影響により、プラスであれば修正申告(法人税等の増額)の原因になり、マイナスであれば更正(法人税等の減額)の請求の原因になります。前者は、修正申告を提出すれば足りますが、後者については、仮装経理に基づく過大申告の場合には、その仮装経理に係る事業年度後の事業年において修正経理(財務諸表(損益計算書)の特別損益の項目において、前期損益修正損等と計上して仮装経理の結果を修正して、その修正した事実を明示すること)を行い、かつ、その修正経理をした事業年度の確定申告を提出するまでは、課税庁は、その仮装経理に係る法人税の更正処分を拒否することができるとなっています(法人税法129①)。すなわち、「前期損益修正損」を計上し、確定決算を経なければ、更正の決定をしてもらえませんでした。その意味で、修正経理が不可欠でした。

 

これに対し、平成23年4月1日以降は、過年度遡及会計基準(正式名称は、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」といいます。)が適用されています(注1、注2)。この基準に従えば、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正するのではなく、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示することになりました。その趣旨は、国際的な会計基準(IFRS)とのコンバージェンスを図り、また、投資家において財務諸表間の比較ができるような情報を提供することにあります。もっとも、重要性の判断に基づき、修正再表示しない場合には、損益計算上、その性質により営業損益または営業が損益として計上することになります(過年度遡及会計基準65.)。

そして、法人所得に対する影響がマイナスの場合、更正の請求の原因になりますが、過年度遡及会計基準の適用による修正再表示が、仮装経理の場合に要請される修正経理に当たると解されます。なお、実務においては、従前の修正経理の方法によっても減額更正が認められ、法人税等の還付がなされています。

 

注1

会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」をご覧いただければ、過年度の誤謬の訂正(修正再表示)に関する注記の記載方法が掲載されています。

 

注2

「法人が『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を適用した場合の税務処理について」をご覧いただければ、過去の誤謬の訂正について、税務上是正を要するときと、税制を要しないときの場合に応じ、4つの具体例で説明されています。

修正再表示とは?

 

過去の「誤謬」は、遡及処理(修正再表示)する。

 

「誤謬」:原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、またはこれを誤用したことによる、次のような誤りをいいます(過年度遡及会計基準4.(8))。

① 財務諸表の基礎となるデータの収集または処理上の誤り

② 事実の見繕としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り

③ 会計方針の適用の誤りまたは表示方法の誤り

  

「遡及処理」:遡及適用、財務諸表の組替えまたは修正再表示により、過去の財務諸表を遡及的に処理することをいいます(過年度遡及会計基準27 )。

うち、「修正再表示」過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することをいいます(過年度遡及会計基準4. (11))。

 

過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映することとは、過去の誤謬の累積的影響額を当期の資産、負債および純資産の額に反映することです。もちろん、確定した過去の計算書類の内容には影響が及びません。現象面で言えば、過去と現在の臨界面、つまり、期首繰越利益剰余金の額で調整します。

 

設例

前期において期末にソフトウェア(250万円)を開発した(未使用)が、その開発に要した人件費の一部(50万円)について、誤って経費として計上してしまった。

 

1 前期の仕訳処理

① 誤

人件費         500,000円 / 預金    500,000円

 

② 正

ソフトウェア仮勘定  500,000円  / 預金    500,000円

 

2 誤謬の訂正方法

 

まず、本来の当期期首残高にするための仕訳:②-①を前期期末残高に足す。

 

ソフトウェア仮勘定  500,000円  / 預金    500,000円

預金         500,000円  / 人件費   500,000円

         ↓

ソフトウェア仮勘定  500,000円  / 人件費   500,000円

 

しかし、決算時には、損益勘定は、繰越利益剰余金に振り替えられるので、

 

ソフトウェア仮勘定  500,000円  / 繰越利益剰余金 500,000円

                  

よって、当期首に下記の仕訳で調整。

   

ソフトウェア仮勘定  500,000円  / 繰越利益剰余金 500,000円・・・・・・・・(1)

                 

しかし、法人税等を控除していないので、未払法人税等の額を15万円とすれば、(1)を下記のように修正。

 

ソフトウェア仮勘定 500,000円  / 繰越利益剰余金 350,000円

    

                 / 未払法人税等   150,000円 ・・・・・・・(2)

 

税効果会計によれば、事業税を4万円、法定実効税率=33%とすれば、4万円×33%=13,200円の繰延税金資産が発生。

 

繰延税金資産 13,200円  / 法人税等調整額 13,200円

 

しかし、決算時には、損益勘定は、繰越利益剰余金に振り替えられるので、

 

繰延税金資産 13,200円  /  繰越利益剰余金 13,200円

    

よって、(2)を下記のように修正。

 

ソフトウェア仮勘定 500,000円   / 繰越利益剰余金 350,000円

                 / 未払法人税等   150,000円

(短期)繰延税金資産 13,200円   / 繰越利益剰余金 13,200円

   

3 財務諸表上の注記

過去の誤謬の修正再表示を行った場合には、次の事項を注記します(会計基準22.)。

 
過去の誤謬の内容
表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額
表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期聞に関する修正再表示の累積的影響額

( 過去の誤謬の修正再表示の例)

当社が前会計年度において開発したソフトウェアの一部が誤って前会計年度の貸借対照表に計上されていなかった。前会計年度の財務諸表は、この誤謬を訂正するために修正再表示している。

修正再表示の結果、修正再表示を行う前と比べて、前会計年度の貸借対照表は、ソフトウェア仮勘定、利益剰余金がそれぞれ50万円増加、35万円増加し、前会計年度の損益計算書は、販管費が50万円減少し、経常利益及び税金等調整前当期純利益がそれぞれ同額増加し、当期純利益が35万円増加している。

前会計年度の1株当たり純資産、l株当たり当期純利益は、それぞれ、〇円銭、△円増加している。

 

次回は、誤謬の訂正と税務申告との関係についてお話しします。

top