令和4年12月9日
はじめに
これまで、グループ通算制度の全体像に始まり、通算および遮断措置の具体的な計算方法を見てきました。
今回は、中小通算法人の軽減税率の適用、申告・納税、通算制度の適用により減少する法人および地方法人税の額に相当する金額(通算税効果額)の精算について説明し、グループ通算制度の説明の最終回とします。
税率
通算法人に対する法人税率は、各通算法人の区分に応じた税率が適用されます。
すなわち、普通法人である通算法人に対しては、23.2%、中小法人である通算法人に対しては、軽減対象所得金額以下の分については、19%(但し、租税特別措置法上の中小企業者は、15%)となります。
この場合、中小通算法人の所得金額の割合に応じ軽減所得対象所得金額が各中小通算法人に配分されます。具体的な計算方法は以下の通りです。
申告・納税
(1) 申告主体
各通算法人が納税単位となり、個別に法人税額の計算および申告を行います。
なお、通算法人は、他の通算法人の法人税について連帯納付義務を負います。
(2) 申告方法
e-Tax(国税電子申告・納税システム)により法人税・地方法人税の各申告を行わなければなりません。
なお、消費税、住民税および事業税については、各通算法人は、資本金が1億円超の場合、eLTAX(地方税共同機構が運営する電子情報処理組織)により各申告を行わなければなりません。
(3) 中間申告
仮決算による中間申告については、全ての通算法人が仮決算による中間申告を行わなければなりません。
(4) 申告期限の延長の申請
申告期限の延長の申請は、通算親法人のみ行うことができます。通算親法人に延長処分がなされた場合、通算子法人および以後加入した通算子法人について、申告期限が延長されたものとみなされます。
なお、地方税については、基本的に、国税の申告期限の延長が承認された場合、主たる事務所等が所在する都道府県知事および市町村長に届出をすることで、国税と同じ期間、申告期限は延長されます(但し、法人事業税・地方法人特別税は承認が要件、かつ、適用を受けようとする事業年度終了の日から45日以内の提出が必要)。
通算税効果額
通算税効果額とは、通算制度の適用により減少する法人税および地方法人税の額に相当する金額として、通算法人間で授受される金額をいいます。
通算税効果額については、法人税法上、損金および益金の額に算入しない旨規定されています(法人税法26条4項、38条3項)。
この規定から、連結納税制度と同様に、グループ通算制度においても、他の所得法人に移転した欠損金額や繰越欠損金に対応する税(所得法人における税負担の減少額)をグループ内で精算する実務を想定していることがわかります。実際に通算税効果額をグループ内で精算するか否については、法人の任意と解されています。しかし、企業会計基準委員会の実務対応報告(実務対応報告第 42 号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(以下、「本報告」といいます)の指摘にあるように、連結納税制度において、通算税効果額の授受を行っていた場合が多いと考えられ、グループ通算制度においても、一般に通算税効果額の授受を行うことが想定されます。
グループ通算制度と連結納税制度とでは、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みが同じであるので、基本的な方針として、連結納税制度における会計処理および開示に関する取扱いが踏襲されました。
グループ通算制度の申告納付計算のイメージ
(企業会計基準委員会の「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」の概要の別紙1から引用)
もっとも、グループ内での通算税効果額の精算をどのように計算すべきかについて、税務上、会計上、どこにも具体的な規定はありません。
そこで、グループ内での通算税効果額の精算をする場合、通算税効果額の計算範囲と算定方法を各通算グループで決定した上で、通算税効果額を別途計算しなければなりません。
例えば、以下のような方法が挙げられています。
・損益通算がある場合
損益通算により減少する所得金額に法人税率を乗じて算出された金額(地方法人税相当額を含む)を通算税効果額とする
・欠損金の通算がある場合
被配賦欠損金額に対し、同様、法人税率を乗じて算出された金額を通算税効果額とする
・試験研究費の税額控除額がある場合
通算グループ全体の税額控除額の合計額を各通算法人の試験研究費の額の比で按分した金額と各通算法人の税額控除額との差額(地方法人税相当額を含む)
次に、このようにして計算された通算税効果額はどのように仕訳処理されるべきかが問題になります。本報告には具体的な処理例は示されていません。
例えば、以下のような仕訳になろうことが、巷間言われています。
通算により法人税および法人地方税の額が減額した通算法人
法人税、住民税及び事業税 〇円 未払金 〇円
通算により他の通算法人の法人税および地方法人税の額を減額させた通算法人
未収入金 △円 法人税、住民税及び事業税 △円
また、通算グループ内での通算税効果額の精算の組合せについて、大きく、通算法人間で行う方法と、通算親法人と各通算子法人の間で行う方法の2通りがあります。実務上、メンバーが多い場合には、連結納税の場合でされてきたのと同様、後者の方法になると考えられています。
例えば、欠損金の通算の例として、非特定欠損金以外の欠損金額が各通算法人に配分され、その結果、以下のように、通算税効果額が計算されたとします(国税庁「グループ通算制度に関するQ&A(令和4年7月改訂版)第54問」中ケース2の設例における欠損金の通算における通算税効果額を引用)。
P社 | S1社 | S2社 | |
欠損金の通算に係る通算税効果額 | △13 | 7 | 6 |
(1) 会計
P社(通算により法人税および法人地方税の額が減額した通算法人)
法人税、住民税及び事業税(S1社) 7 未払金 7
法人税、住民税及び事業税(S2社) 6 未払金 6
S1社(通算により他の通算法人の法人税および地方法人税の額を減額させた通算法人)
未収入金 7 法人税、住民税及び事業税 7
S2社(通算により他の通算法人の法人税および地方法人税の額を減額させた通算法人)
未収入金 6 法人税、住民税及び事業税 6
(2) 税務
(別表4(抜粋))
P社
区分 | 総額 | 処分 | ||
留保 | 社外流出 | |||
当期利益又は当期欠損の額 | ×× | ×× | ×× | |
加算 | 通算法人に係る加算額 | 13 | 13 | |
減算 |
S1社
区分 | 総額 | 処分 | ||
留保 | 社外流出 | |||
当期利益又は当期欠損の額 | ×× | ×× | ×× | |
加算 | ||||
減算 | 通算法人に係る減算額 | 7 | 7 |
S2社
区分 | 総額 | 処分 | ||
留保 | 社外流出 | |||
当期利益又は当期欠損の額 | ×× | ×× | ×× | |
加算 | ||||
減算 | 通算法人に係る減算額 | 6 | 6 |
(別表5(抜粋))
P社
区分 | 期首 | 減 | 増 | 期末 |
未払金(通算税効果額) | 13 | 13 | ||
⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ |
差引合計額 |
S1社
区分 | 期首 | 減 | 増 | 期末 |
未収入金(通算税効果額) | 7 | ▲7 | ||
⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ |
差引合計額 |
S2社
区分 | 期首 | 減 | 増 | 期末 |
未収入金(通算税効果額) | 6 | ▲6 | ||
⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ | ⋮ |
差引合計額 |
まとめ
ここまで、グループ通算制度の適用を受けた後の代表的な通算項目についてグループ全体計算による法人税額の計算過程を見てきました。連結納税制度と比べて、必ずしも計算のプロセスは簡便化されていませんが、遮断措置の導入などにより、修更正申告のための負担は小さくなりました。必ずしも、上場企業ではないグループ企業でも、導入のメリットはあると思いますので、導入をご検討いただければと思います。
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