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税務判例フォローアップ

平成26年2月25日

19.後になって、更正処分を受けないための役員退職給与の決め方は?

事案の概要

Xは、不動産賃貸業及び損害保険代理業等を営む法人。

その甲代表取締役が死亡。甲の勤続年数は13年、最終月額報酬は32万円。

Xは甲に対し、役員退職給与支給(以下、「本件退職給与」といいます。)。

Xは、本件退職給与損金を損金算入して法人税の確定申告を行う。

税務署は、本件退職給与には、「不相当に高額な部分の金額」として損金不算入となる金額があるとして(平成18年法律第10号による改正前の法人税法36条現34条)、平成18年政令第125号による改正前の法人税法施行令72条現70条)を行う(功績倍率は14.5(下記ご参照))。

Xは、本件処分の取消を求めて訴え提起。

争点

X社が支給した本件退職給与について、「不相当に高額な部分の金額」として損金算入されない金額があるか。

1.役員退職給与の適正額の算定方法及び判断の資料

  Xの主張 税務署の主張 裁判所の認定
平均功績倍率法   原則、平均功績倍率法、最高功績倍率法は例外的。
抽出対象地域は、近接地域だけでいい。役員個人の特殊事情は考慮不要。
平均功績倍率は、1.18倍、よって、490万8800円。
ほぼ税務署の主張通り。
税務署が選んだ平成15年から平成18年の法人のデータ3件の平均値で十分。
平均功績倍率は、1.18倍、よって、490万8800円。
最高功績倍率法 役員個人の特殊事情も考慮して、6603万円。
少なくともTKC全国会が全国で調査したデータから最高功績倍率は3倍。
よって、1622万4000円。
  最高功績倍率法を用いるべき例外的な事情はない。
きわめて特殊な事情がある場合に限り役員個人の特殊事情を考慮。
民間団体による範囲の限定されたデータに過ぎない。
1年当たり支給額法      

役員退職給与の適正額を以下に算定するかについて、主に以下の3種類があります。

①平均功績倍率法

退職役員の最終報酬月額×勤続年数×類似法人の平均功績倍率

* 功績倍率 = 役員退職給与の支給額 ÷(最終月額報酬×勤続年数)

平均功績倍率は、比較対象として抽出された法人の功績倍率の平均値。

最高功績倍率は、比較対象として抽出された法人の功績倍率の最高値。

②最高功績倍率法

最終報酬月額×勤続年数×類似法人の最高功績倍率

③1年当たり支給額法

類似法人の役員退職給与の勤続年数1年当たりの支給額×勤続年数

 

裁判所の判断をかいつまんで言えば

「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をこえる場合」(改正前法人税法施行令72条)の解釈について、

その趣旨を、役員退職給与の過大な必要経費算入による租税回避を防ぎ、実体に即した適正な課税にあるとし、

 

① まず、算定方法について

原則、平均功績倍率法を適用すべきである。

但し、平均功績倍率法によるのが相当でない特段の事情がある場合に限り、最高功績倍率法を適用すべき。

 

* 特段の事情とは、同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分でない場合、その抽出件数が僅少であり、かつ、当該法人と最高功績倍率を示す同業類似法人とが極めて類似していると認められる場合など。

 

② ついで、判断の資料について

(1)
対象法人の売上の大半を占めている事業を抽出対象にすればいい。
(2)
対象法人と近接し、経済事情の類似する地域にある法人のデータであればいい。
(3)
データの抽出の指標は、売上金額、総資産価額、純資産価額、資本金でいい。
(4)
比較対象年度が5年くらい前でもいい。
(5)
データ数は、3件で十分である。

コメント

まず、「不相当に高額な部分」という文言をご覧になって、これは曖昧であり、税務当局、つまり行政権力の恣意的な解釈により国民の財産権が侵害される恐れがあるから、租税法律主義に反するのではないかとも思えます。

しかし、先の平成11年12月10日付け札幌地裁判決で、改正前法人税法36条と同施行令72条を併せてみれば、「退職給与の額の相当性の判断基準について、一般的に是認できる程度に具体的、客観的に定めている」と判断され、その後上告が棄却されましたので、違憲無効ではないとうことが出発点になります。

 

とはいうものの、判断基準として、「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間(①)、その退職の事情(②)、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況(③)(④)」(改正前法人税法施行令72条)の外延について、わかりにくいものです。

裁判では、何の序列もないこれら4つのファクターから、税務当局の考案した上記4の公式を追認しました。裁判の事実認定で私たちがよく経験することですが、一方の主張を認容する際に、勝者の主張を完全に支持し、他方で、敗者の主張を完膚なきまでに排斥しています。贔屓の引き倒しの感があります。

 

税務当局が考案した公式に従うとしても、①比較の対象となる事業者のデータが開示されていません。だから、原告は、TKCのBASTのデータを援用したのです。これは納税者にとって不意打ちの感があります。②経済事情の類似性は、条文にありません。データ収集の手間の回避のための便法にも見えます。③3件の抽出で足りるということは、実質比較対象が僅少ということはないに等しいのではないでしょうか。その3件の選択が恣意的でないか担保する手段がありません。④法人の売上が3つの事業にわたり3分の1ずつだったらどう処理するのでしょうか。⑤役員個人の事情は極めて例外的に考慮するとする条文にはなっていません。

 

となると、納税者としては、比較対象となる事業者のデータの参照が不可欠になります。

 

確かに、同業種・類似規模の法人の役員報酬の支給状況については、入手可能な資料からある程度予測ができるでしょう(平成6年6月15日付け名古屋地裁判決)(例えば、民間給与実態調査)。しかし、役員退職給与については、それほど簡単ではないようです。役員退職給与について、裁判等で争われたケースはそれほど多くありません。平均功績倍率について、平成19年11月15日裁決では、1.9倍、札幌高裁平成12年9月27日判決では、3倍、高松地裁平成4年6月29日判決では、1.4倍となっています。

 

本件では、Xが役員退職給与の額を決定するに当たって、功績倍率法や1年当たりの支給額法があることを知らず、何となく、決めてしまったようです。不用意でした。いずれにしても、本件の功績倍率14.5は、租税回避と認定され、否認されるのはやむを得ないことと思います。

 

なお、甲は、X社のグループ企業4社からも、それぞれ役員退職給与の支給を受けており、いずれも本件同様の更正処分がなされました。そこで、他の4社も取消訴訟を提起しましたが、東京地裁の同一裁判体により同様の判決がなされています。東京高裁は原審の判決を支持しました。

 

* 事案を分かりやすくするため簡略化しています。

事例

東京地裁平成25年3月22日判決

東京高裁平成25年7月18日判決(上告・上告受理申立て)

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