平成25年2月8日
以前、労基署の調査で最近メンタルヘルス対策の有無についての比重が大きくなりつつあると書きました(→連載7「意外と怖い労基署の調査」)。
皆様も「メンタルヘルス」という言葉を最近よく聞かれることが多いと思います。直訳すると「こころの健康」ですが、職場におけるメンタルヘルス対策とは、心身ともに充実した健康状態で職場に適応できる環境作り、といった内容を意味します。
特に最近は、長時間労働や職場の人間関係などで「こころの健康」を損なう人が多く、そうした従業員に対してどのような対策をとればいいのか分からない事業主さんも多いのではないでしょうか。中小企業の場合、人数が少なく対応できないため放置してしまいがちです。
しかし、例えば、従業員が欠勤や休職を繰り返すといった場合に、放置してしまうと職場の雰囲気が悪くなり生産性の低下につながります。また、休職された場合の仕事の割り振りも問題となります。それどころか、放置しておくと、当該従業員がうつ病に罹患し、自殺する可能性もあり、その場合、会社の「安全配慮義務」違反が問われ、労災認定や損害賠償を求める訴訟問題に発展する例も少なくありません。
このように、メンタルヘルス対策は、企業のリスクマネジメントとして無視できない重要な経営課題であると言えるのです。
全国健康保険協会によると、2011年の傷病手当金の給付状況において、精神疾患で給付を受けた会社員が全体の26%と一番多かったようです。また、仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者が6割を超えているという調査結果も出ています。
このような状況を踏まえ、厚生労働省は、うつ病など心の病気で休職した従業員について、中小企業向けの職場復帰支援を強化するための予算を盛り込むとともに、職場におけるメンタルヘルス対策の義務化を盛り込んだ労働安全衛生法の改正に向けて動いています。
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」も参照してみて下さい。
さて、では、会社として具体的にどのような対策をとればいいのでしょうか
(1)まず必要なのは相談窓口の設置です。
従業員が気軽に相談出来る先を設けることで、通院や休職に至るまでに症状が悪化を防ぐことができます。これは必ずしもカウンセラーを置くということではなく、外部委託という方法もありますし、産業医等につないだり、どのように対応すればいいかを伝えられる担当者を置くだけでも意味はあります。いざという時に備えて会社と従業員、産業医等の医者との三者間の連携をとっておくことが肝要です。
そして、不調を訴える者が出た場合、産業医あるいは指定する医療機関に受診するように勧めます。場合によっては、雇用主として受診命令を出すことも必要でしょう。
なお、個人情報に対する配慮も忘れてはいけません。個人情報の取扱について事業所内できちんとした取り決めをしておきましょう。
(2)また、メンタルヘルス対策を推進する担当者を決めておくことも重要です。
労働安全衛生法上、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに安全管理者、衛生管理者の選任が義務づけられており、10人以上50人未満の事業場ごとにも労働衛生推進者の選任が義務づけられています。すでにこういう方がおられるところは、その方が担当者となっても良いでしょう。それ以外の場合は新しく担当者を決めておきましょう。
(3)健康診断を定期的に行うことはもちろんですが(1年以内に1回実施することが義務づけられています)、異常があると診断された場合は、医者の意見を聞いて内容に応じて適切な措置(就業場所の変更や作業の転換など)を講じるなど事後措置も忘れないようにします。
(4)加重な残業や社内でのいじめ、パワハラ、セクハラなどはこころの健康を害する大きな要因となります。残業は健康面だけでなく未払残業代の請求や業務効率を下げる要因にもなりかねません。長時間労働に対する考え方の見直しが迫られます。
また、いじめ等は職場の雰囲気を悪くし従業員の士気を低下させますし、訴訟リスクもあります。いじめ、パワハラ、セクハラなどに対する対策も講じておく必要があるでしょう(具体的な対策についてはまた稿を改めてお伝えしたいと思います)。
そして、休養が必要と判断された場合、就業規則に従った対応が必要となりますが、その点の規定がしっかり整備されているか、就業規則の見直しが重要です。
① まずは、病気欠勤に関する規定です。
欠勤時の手続や短期的な欠勤の場合の通算方法を規定します。例えば、同一または類似の事由により出勤後3ヶ月以内に再び欠勤するに至った場合は、前後の欠勤は連続しているものとみなして通算する、などと規定しておきます。
② 休職に関する規定も重要です。
休職できる事由やその期間(最大でも何ヶ月までか)、延長の可否、休職期間中の処遇などです。期間については、健康保険の傷病手当金が1年6ヶ月を限度としますので、1年6ヶ月とする会社が多いかと思います。また、休職期間中の取扱いとしては、無給で勤続年数に通算しないことが一般的ですが、その旨も明記しておきましょう。社会保険料を本人負担とする場合の支払方法についても明記しておきます(会社が補助すると給与とみなされ傷病手当金が減額されるので本人の手取額はあまり変わりません)。その他、休職中の状況報告を義務付けることも考えられます。少なくとも休職者とは定期的に連絡をとるようにしましょう。
③ さらに、復職に関する規定(復職できるための基準や休職期間満了時に復職できない場合)も必要です。
この点に関する明確な規定がないと、従業員に対して、例えば休職すると簡単に解雇されてしまうのではないか、といった不安を与えることになってしまいます。
最後に、会社として講じている対策や就業規則の規定については、従業員に対してしっかりと説明しておきましょう。
そして、周りの協力が不可欠であることから、他の社員に対して正しい知識を教育・情報提供するための研修を企画して実施することも必要です。
このように、効果的なメンタルヘルス対策を行うためには、心療内科的な治療だけでなく、労務管理的な対策も不可欠であり、そのお手伝いを私たちがさせていただくことができます。
なお、従業員の中には、例えば再休職した場合や休職後退職した場合に傷病手当金はもらえるのか、失業給付はもらえるのか、社会保険はどうなるのか、といった疑問をお持ちの方が多く、会社として説明に困る場合もあろうかと思います。
次回はその点についてご説明させていただきます。
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