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社会保険労務

平成29年6月4日

36.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ⑦~評価制度の基本 その2~

前回は、評価制度の概要と「成績考課」についてお話させていただきました。

今回は、その続きとして、「情意考課」と「能力考課」について見ていきたいと思います。

(続き)

(2)「情意考課」

「情意考課」とは、従業員の態度・意欲・仕事に対する取り組み姿勢を評価するものです。職務の達成度(結果)や職務遂行能力の発揮の度合いとは区別して(前者は成績考課、後者は能力考課の範囲)評価します。

一般的には、以下の4つの項目をもとに評価します。

①規律性、②責任性、③協調性、④積極性

その上で、情意考課の評価項目は、どうしても抽象的な言葉になってしまい、考課者の視点如何で評価が大きく異なったり、恣意的な評価になりがちな側面がありますので、各項目から内容を具体化して特定しておくことが重要です。

①規律性

職務活動そのものが対象ではありませんが、組織の一員として遵守すべき事項が守れているか等を評価します。等級や役職に関係なく、全員共通に求められる行動基準です。

具体的には、就業時間を守れているか、業務に必要な備品・器具等の管理や取扱に問題はないか、言葉遣いや挨拶・マナーなどは良好か、職場内のルールや慣行は守れているか、などです。

②協調性

当該従業員の守備範囲を超えての職務上の協調性を評価します(私生活など職務に直接関係しないことは対象外)。

具体的には、同僚や他部門の人間と協力して業務を行っていたか、困っている他人に積極的に協力する姿勢が見られたか、他人のミスや失敗を必要以上に責めるような言動がなかったか、他人の意見を聞かずに自分勝手な言動がなかったか、などです。

③積極性

職務活動において自ら進んで向上する意欲やチャレンジ精神が見られるかを評価します。

具体的には、業務に必要な知識や技能を修得しようという姿勢が見られてか、指示されたこと以上の結果を残そうとする意欲が見られたか、業務方法の改善や効率化の提案などがあったか、自己啓発やより高いレベルにチャレンジするような意欲は見られたか、などです。

④責任性

担当職務の範囲における取り組み姿勢を評価します。

具体的には、与えられた役割や職務を最後までやり遂げる意欲が見られたか、後輩や部下の失敗に対する責任を自覚し進んで事後処理にあたっていたか、必要な報連相をきちんと行っていたか、ミスや失敗を反省して速やかに改善や事後処理を行う姿勢が見られたか、などです。

 

従業員の各言動について、どの項目を用いて評価するかは意外と迷ってしまうものです。ポイントは、「規律性」は職務活動以外を対象にし、それ以外の項目は職務活動そのものを対象に評価すること、また、「責任性」や「規律性」は当然にやるべき行動ができているかが評価の対象になるのに対して、「協調性」と「積極性」は従業員の自主的な行動が評価の対象になることです。

例えば、「上司から指示された仕事に積極的に取り組んでいる」という事実は、「積極的」という評価から「積極性」で判断してしまいがちですが、当然にやるべき職務活動が対象ですので「責任性」で評価します。また、「課長職にある従業員が部下の相談に乗ったり指導を行ったりしない」という事実も一見職場の「協調性」の問題のように思いますが、課長職の従業員としては、部下の面倒を見て指導を行うこと自体が当然行うべき職務活動に含まれますので、「責任性」で評価することになります。

その他、以下のような事実についてどの項目で評価すべきか考えてみて下さい。

 

(3)「能力考課」

「能力考課」とは、資格等級制度のもとで当該等級に求められている能力について評価する(5等級の人に5等級に相応しい能力があるか)もので、結果に至るまでのプロセスが適切か否かを評価するものです。評価対象の従業員の言動といった事実に基づいて評価することが重要です。

評価項目は会社によって様々なものが考えられますが、概ね以下の項目に分類できます。

①知識・技能

職務遂行に求められる職務知識・技能(当該等級に求められる標準的な期待水準)。

具体的には、担当業務遂行に必要な知識・技能が修得されているか、トラブルを未然に防止するために必要な知識・技能が修得されているか、社会人としての常識や就業規則の基本知識は修得されているか、などです。

②判断力

計画の立案あるいは問題解決の段階で、何をすべきかについて検討を行い、優先順位を設定し今後の方針等を定めることのできる能力。そのために必要な情報を収集し分析し決断できる能力

具体的には、担当業務に関して必要な書類や指示を理解して相応しい対応ができているか、顧客の意見や問い合わせに対して状況に応じた適切な対応や行動ができているか、トラブルに関して原因を確認して把握した上で適切な対応をできているか、などです。

③企画力

目標達成のための具体的・効果的な手段・方法を構築する能力

具体的には、担当者の数や能力を考慮した企画の作成ができているか、予想される問題の解決策も考慮した企画になっているか、他の意見や考え方を取り入れながら業務改善に向けた具体策をまとめているか、など

④折衝力

相手に対して自分の意図や行動の意味等を伝えて理解・納得させるとともに、自分の有利な状況に持って行くことの出来る能力

具体的には、報告・連絡・相談について分かりやすく説得力のある文書を作成できているか、相手の立場や状況に応じて効果的に自分の主張をアピールできているか、安易に相手の言い分に妥協せずねばり強く交渉できているか、などです。

⑤指導力 

部下または後輩に、会社や職場のルールや慣行を遵守させ、知識や技能の向上に向けての指導を行う能力

具体的には、ルール違反をしっかりと指摘し指導できているか、部下や後輩の職務遂行にあたって適切なOJTを行えているか、部下や後輩の不平不満を把握し積極的に解消に向けて努めているか、などです。

なお、能力考課は等級別に設定することが望ましいですが、あまり細分化すると混乱を招くことになるので、例えば、ジュニアクラス、シニアクラス、マネジメントクラスといったグループ別に設定するのが良いと思います(各クラスの分類については、人事制度の構築①をご覧下さい)。以下の表のように、各クラスに相応しい項目を設定してその内容を具体化していきます

J(ジュニア)クラス S(シニア)クラス M(マネジメント)クラス
業務基本知識・技能 専門知識・技能 総合・専門知識
理解力 判断力 決断力
創意工夫力 企画力 開発力
表現力 折衝力 渉外力
  指導力 管理統率力
 

次回は、「評価段階」の選択についてお話しします。

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