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社会保険労務

平成30年8月7日

44.働き方改革関連法について(その1「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」)

去る6月29日、ついに働き方改革関連法が成立しました。

残業時間の上限規制や、正社員と非正規社員の不合理な待遇差の解消、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の導入、その他労働基準法等の一部改正に及ぶ大きな改革が行われることになります。

そこで、今回から複数回に分けて働き改革の具体的な内容とそれを踏まえてとるべき対策等についてご案内したいと思います。

まず1回目は、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」に関する改正についてご紹介いたします。

概要

今回の改正の目的は、正社員と非正規社員の不合理な待遇差をなくすことで、従業員がどのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けることができ、多様で柔軟な働き方を選択できるようにする、というものです。

改正の概要をまとめると、以下の表のとおりです。なお、本改正についての施行日は、大企業が2020年4月、中小企業は2021年4月となっています。

 

改正の概要(→の左が改正前、右が改正後)

  有期雇用労働者 パートタイム労働者 派遣労働者
均衡待遇 ○ → ◎(内容が明確化) ○ → ◎(内容が明確化) △(配慮義務のみ)→ ○+労使協定
均等待遇 × → ○ ○ → ○(ほぼ変わらず) × → ○+労使協定

以下、具体的にご説明します。

 

(1)不合理な待遇差をなくための規定の整備

① 非正規雇用労働者

<改正前(現状)>

現在、非正規雇用労働者については、労働契約法20条 が規定されています。

その内容は端的に言うと、無期雇用労働者と有期雇用労働者の労働条件が相違する場合、その相違が、労働者の労働者のⅰ) 職務の内容、ⅱ) 当該職務の内容及び配置の変更の範囲、ⅲ) その他の事情を考慮して、不合理であってはならない、というものです。

これは、「均衡待遇(=ⅰ)~ⅲ) の相違を考慮して不合理な待遇差を禁止すること)が求められることを意味します。

一方で、「均等待遇(=ⅰ)及びⅱ) が同一であれば差別的取扱そのものを禁止すること)を求める規定はありませんでした。  

<改正後>

上で述べた労働契約法20条を削除し、パートタイム労働法の均衡待遇及び均等待遇の規定の中に有期雇用労働者を組み入れました。

その結果、有期雇用労働者も均等待遇の規定の対象となり、また、均衡待遇についても、後で述べるようにパートタイム労働法の規定が改正されることで、その基準がある程度明確化されるようになりました。

 

② パートタイム労働者

<改正前(現状)>

パートタイム労働者については、パートタイム労働法8条(均等待遇)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。)及び9条(均衡待遇)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。)が規定されています。

 

<改正後>

パートタイム労働者に均等待遇及び均衡待遇が求められることは変わりませんが、パートタイム労働法(なお、正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」となり、有期雇用労働者が加わりました)の条文の内容が改正されることで、基準がある程度明確化されることになります。

具体的な条文の文言をご覧になりたい方はクリックして下さい(下線・色付は筆者によります)。

※改正パートタイム等労働法第8条(不合理な待遇の禁止)
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない

 

※改正パートタイム等労働法第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(略)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(略)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

主なポイントは、以下のとおりです。

ア)
有期雇用労働者が規定の中に加わったこと
イ)
比較する通常の労働者について、事業所ごとで判断するのではなく会社(企業)単位で判断されることになったこと
ウ)
待遇差が不合理か否かについては、個別の待遇(労働条件)ごとに判断することが明記されたこと

③ 派遣労働者

<改正前(現状)>

派遣元事業主に対して、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先労働者との均衡について配慮しなければならない、とする規定しかありません(労働者派遣法30条の3)。

   

<改正後>

派遣元事業主に対して、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情に照らして、不合理と認められる相違を設けてはならないとし(均衡待遇)、また、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更が同一であることが見込まれる場合は、不利な待遇としてはならない(均等待遇)と、それぞれ義務を明確化しました。このことにより、派遣労働者に対しても均衡待遇・均等待遇に関する明確な法規制が設けられたことになります。

具体的な条文の文言をご覧になりたい方はクリックして下さい(下線・色付は筆者によります)。

※労働者派遣法第30条の3(不合理な待遇の禁止等)
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない

2 派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。

 

一方、派遣元において労使協定により待遇について一定の事項を定め、その内容を遵守ないし履行している場合には、均等・均衡待遇についての規定を適用しない、とされました。これは、派遣元事業主が均等・均衡待遇を実現するためには、派遣先事業主が自社の労働者の賃金を含む待遇に関する情報を提供する必要がありますが、それが困難な場合を想定したものだと思われます。実際、情報提供を好まない派遣先事業主も多いでしょうから、この労使協定での運用が実務上多くなるでしょう。労使協定で定めるべき内容は、協定対象者となる派遣労働者の範囲、派遣労働者の賃金の決定方法、賃金決定にあたり公正な評価を行うこと、賃金以外の待遇について派遣元の通常の労働者との間に不合理な差が生じないようにすること、などです。

 

なお、均等・均衡待遇規定の解釈の明確化のためにガイドラインが策定されることになります(平成28年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出されていますが、今後その内容が関係者の意見や国会審議を踏まえて確定していくことになります)。

 

(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

<改正前(現状)>

パートタイム労働者及び派遣労働者については、待遇内容とその決定に際しての考慮事項は説明義務がありましたが、有期雇用労働者については、特に説明義務は規定されていません。

 

<改正後>

本人の待遇内容とその決定に際しての考慮事項に関する説明義務を、有期雇用労働者に対しても求める規定が創設されました。
有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者について、本人から求められた場合、正規雇用労働者との待遇差の内容及び理由等についての説明義務を課す規定が創設されました。
説明を求めた本人に対する不利益取扱を禁止する規定が創設されました。

説明義務についての改正の概要(→の左が改正前、右が改正後)

  有期雇用労働者

パートタイム労働者

派遣労働者

待遇内容及び考慮事項 × → ○ ○ → ○ ○ → ○
待遇差の内容及び理由 × → ○ × → ○ × → ○
不利益取扱の禁止 × → ○ × → ○ × → ○

(3)行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

<改正前(現状)>

行政による助言・指導等は、パートタイム労働者及び派遣労働者については規定がありましたが、有期雇用労働者についてはありませんでした。

また、行政ADRはパートタイム労働者に一部規定があったのみでした。

 

<改正後>

有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者について、行政による助言・指導等及び行政ADRについて統一的に整備しました。

以上が、公正な待遇確保に関する今回の改正の概要です。

公正な待遇確保については、当HPでも複数回に分けて同一労働同一賃金に関する裁判例ご紹介しておりますが、特に、平成30年6月1日には2件の最高裁判例も出たところであり、非常に注目度の高い内容となっています。

最高裁判例も指摘していたとおり、有期雇用労働者と正社員との待遇差が合理的か否かについては、個別の労働条件ごとに判断していくことになります。今回の改正でも条文上明記されました。そこで、賃金、特に諸手当の見直しが重要になってきます。各手当を支給することの目的・趣旨をよく確認し、正社員と非正規社員とで差を設けることが合理的か否か再度検討する必要があります。皆勤手当、通勤手当などは特に要注意ですし、休暇制度や福利厚生、時間外手当の割増率についても判例上不合理性が指摘されているところですので、見直しは必須であると言えます。

また、会社において公正な待遇確保に向けた適正化を推進する際には、助成金の活用も是非検討されることをお勧めします。例えば、従業員を有期契約から正規雇用に転換する場合、キャリアアップ助成金の正社員化コースを利用することで、1人当たり57万円の支給を受けることができます。また、非正規社員と正社員とで共通の賃金規定を作成するなどといった対応により、1事業所当たり57万円が支給されたり(賃金規定等共通化コース)、諸手当を共通化することで1事業所あたり38万円の支給を受けることが出来ます(諸手当制度共通化コース)。かかる助成金のご紹介はまた別稿にてさせていただきます。

 

次回は、働き方改革関連法その2として、「労働時間法制の見直し」についてご紹介します。

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