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社会保険労務判例フォローアップ

令和2年2月9日

30.同一労働同一賃金に関する判例⑨(日本郵便事件控訴審)

今回は、以前2回にわたって同一労働同一賃金に関する判例としてご紹介した日本郵便事件(東京地裁平成29年9月14日判決)の控訴審判決をご紹介します。労働契約法20条をめぐって10種類ほどの各労働条件の相違についてその不合理性が問題となった事例で、判断内容自体は、第一審と特に大きくは相違しておりませんが、控訴審で当事者が主張した内容に対する判断などは、各労働条件の相違の不合理性を検討する上で参考となります。

事案の概要

Y会社は、郵便事業等を目的とする株式会社である。
Y会社が行う郵便事業は、従前はa省が取扱い、その後b庁、c公社を経て、平成19年10月1日には郵政民営化に伴い、郵政三事業を含むすべての事業がd1株式会社及びその下の事業会社(d2株式会社、d3株式会社など4社)へ移管・分割された。平成24年10月1日、d2株式会社がd3株式会社を吸収合併し、Y会社が成立した。
Xら3名は、それぞれb庁、c公社、d3株式会社で勤務するようになり、Y会社との間で契約期間を6ヶ月とする有期労働契約の更新を重ねて就労している時間制契約社員である。
Xらの業務内容は、郵便物の仕訳、配達、郵便商品等の営業販売等の郵便外務事務や、書留郵便物の処理や窓口業務等の郵便内務事務、その他これらに付随関連する業務である。
Y会社の正社員の人事制度は、平成25年度までの人事制度(旧人事制度)と平成26年度以降の人事制度(新人事制度)とでは、その内容を大きく異にしている。
 旧人事制度では、正社員は、「管理者・役職者」、「主任・一般」、「再雇用」に分類され、職群として、「企画職群」、「一般職群」、「技能職分」に区分され、「一般職群」は一般職等(以下「旧一般職」といいます。)として郵便局に配属されていた。
 新人事制度では、管理職、総合職、地域基幹職、新一般職の各コースが設けられた。うち新一般職は、窓口業務、郵便内務、郵便外務または各種事務等の標準的な業務に従事する者である。
Y会社の従業員には、無期契約労働者(正社員)と時給制契約社員を含む有期契約労働者(契約社員)がおり、それぞれ旧人事制度及び新人事制度のもとで適用される就業規則や給与規程が異なる
Y会社における正社員及び契約社員の賃金や休暇等に関する相違は以下のとおり
支給項目 正社員(期間の定めなし) 契約社員(期間の定めあり)
基本給 月給制 時給制
外務業務手当 該当者に1日につき570~1420円
(H26.3に廃止)
なし
年末年始手当 12月29日から31日まで1日4000円
1月1日から3日まで1日5000円
なし
早出勤務等手当 始業時刻が午前7時以前または終業時刻が午後9時以降となる勤務に4時間以上従事した場合、始業終業時刻に応じて350~850円 始業時刻が午前7時以前または終業時刻が午後9時以降となる勤務に1時間以上従事した場合、勤務1回につき、始業終業時刻に応じて200、300または500円
祝日給 祝日及び1月1日から3日に勤務した場合、所定の算式で計算した額 祝日に勤務した場合、支給対象時間に基本賃金の100分の35を乗じた額
夏期手当及び年末手当 該当者に所定の算式で計算した額 臨時手当(夏期賞与及び年末賞与)として、所定の算式で計算した額
住居手当 該当者に家賃あるいは住宅購入の借入額に応じて支給 なし
夏期冬期休暇 夏期:在籍時期に応じて1~3日
冬期:在籍時期に応じて1~3日
なし
病気休暇 業務上の事由または通勤による傷病は無給、その他の私傷病は有給 私傷病の場合1年度において10日の範囲内で無給
夜間特別勤務手当 夜間(午後10時から午前6時)の全時間勤務時に勤務時間・回数に応じて支給 なし
郵便外務(内務)業務精通手当 外務事務及び内務事務に従事する該当者に所定の算式で計算した額
(H26.3廃止)
郵便外務業務に従事する場合、時給の基本給として130円または80円が加算

本件は、上記の事実関係のもと、XらがY会社に対し、正社員と同様の給与規定等が起用される労働契約上の地位にあることの確認と、正社員に支給されるべき賃金等の差額(それぞれ約500万円前後)及び遅延損害金の支払等を求めた事案です。

争点

本件の主な争点は、労働契約法20条違反の有無です。

なお、労働契約法20条では、「有期契約労働者」の労働条件が、「無期契約労働者」の労働条件と相違する場合、その相違が、労働者の「職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)」、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」、「その他の事情」を考慮して、不合理であってはならない旨が規定されています。

本判決の判断

労働契約法20条の解釈をめぐる判断については、特に第一審と異なる点はありませんので割愛させていただきますが(詳細はこちらをご参照ください)、控訴審で特に言及された注目すべき点は以下のとおりです。

(1)Xらと比較対象とするべき正社員の範囲について

第1審の理由に加えて、地域基幹職及び新一般職を含めた郵便局及び支社等に勤務する正社員全体と比較すべきであるとの主張に対しては、「新人事制度では、地域基幹職と新一般職というコース別制度が採用され、昇格昇任や配置転換等において大きな差異を有するコースが各別に設けられ、コース間の変更には、当該新一般職の希望を前提に、勤務成績等の応募要件を満たした上でコース転換試験に合格する必要がある。以上によれば、新一般職は地域基幹職とはコースによって区分され連続性がない各別の職員群ということができるから、正社員と時給制契約社員の労働条件の相違を検討するにあたって、新一般職と地域基幹職を一体とみるのは相当ではない」として、新一般職を比較対象として判断すべきであるとしました。

(2)また、労働契約法20条で考慮すべき「その他の事情」の1つとして、契約社員から正社員への登用制度が存在し、継続的に一定数の時給制契約社員が正社員に登用され、正社員と時給制契約社員の地位が必ずしも固定的なものでないことを考慮すべきであるとしました。ただ、本件においては、正社員登用のためには、「人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす必要があり、その応募要件を満たした応募者の合格率も高いとはいえない上、実際に正社員に登用された時給制契約社員は平均すると1年に二千数百人であって、時給制契約社員の従業員数16万6983人に比べ多数といえないから、多くの時給制契約社員には正社員に登用される可能性は大きくないと言わざるを得ない。加えて、上記登用制度が実施されなかった年度もあったことからすれば、上記登用制度が用意されていることを「その他の事情」として考慮するとしても、これを重視することは相当でない」と判断しています。

 

本判決は、第1審と同様、「年末年始勤務手当」、「住居手当」、「夏期冬期休暇」及び「病気休暇の相違」について、労働契約法20条に違反すると判断しました。

(1)年末年始勤務手当について

Y会社は、時給制契約社員は、年末年始の期間に必要な労働力を補充・確保するための臨時的な労働力としての性格も有しており、採用時の段階で年末年始の期間も(むしろ年末年始の期間こそ)出勤して業務に従事することが想定されているから、年末年始勤務手当の趣旨は妥当しないと主張しました。しかし、時給制契約社員の契約期間の多くは6か月であり、更新もされることからすれば、時給制契約社員が、年末年始の期間に必要な労働力を補充・確保するための臨時的な労働力であるとは認められないので、年末年始勤務手当の趣旨が妥当しないとはいえない、と判断しました。

(2)住居手当について

旧一般職の正社員については、転居を伴う配置転換等が予定されているが、新一般職の正社員には予定されておらず、同様に配置転換等が予定されていない契約社員との間で支給の有無で差をつけるのは不合理であるとの判断を維持しています。

また、控訴審では、Y会社は、住居手当の趣旨として、正社員のうち社宅に入居できる者とできない者との公平を図る必要があること並びに住居費の負担を軽減することにより正社員の福利厚生を図り、長期的な勤務に対する動機付けの効果及び有為な人材を正社員に採用しやすくする狙いもあると主張しました。しかし、時給制契約社員も社宅に入居できない者であり、また、住居手当が勤続期間中の従業員の住宅に要する費用を毎月補助するものであるところ、その費用は新一般職と時給制契約社員とで同程度であることからすると、長期的な勤務に対する動機付けの効果及び有為な人材を正社員に採用しやすくする狙いがあることをもって、住居手当を時給制契約社員に支給しないことの不合理性は否定できないとしてY会社の主張を排斥しました。

(3)夏期冬期休暇について

夏期冬期休暇は、お盆や帰省のためとの趣旨が弱まり、休息や娯楽のための休暇の意味合いが増しているが、国民一般に広く受け入れられている慣習的な休暇との性格自体には変化はないというべきである。したがって、夏期冬期休暇の取得可能期間がお盆の時期及び年末年始に限られていないことによって、同休暇の上記性格が失われたとはいえないと述べています。

また、Y会社は、有給の休暇である夏期冬期休暇は基本給と密接に関連し一体として機能する制度であり、Y会社の正社員と時給制契約社員の間には職務の内容等に相違があること、夏期冬期休暇と年次有給休暇を一体として見れば、正社員と時給制契約社員の相違の程度は不合理とはいえないと主張しました。しかし、夏期冬期休暇が基本給と密接に関連し一体として機能するとは認められないし、夏期冬期休暇と年次有給休暇は同じ有給の休暇であっても趣旨が異なり一体として見ることは相当でないとして、Y会社の主張を排斥しました。

(4)病気休暇について

長期雇用を前提とした正社員に対し日数の制限なく病気休暇を認めているのに対し、契約期間が限定され、短時間勤務の者も含まれる時給制契約社員に対し病気休暇を1年度において10日の範囲内で認めている労働条件の相違は、その日数の点においては、不合理であるとはいえないとしつつ、正社員に対し私傷病の場合は有給とし、時給制契約社員に対し私傷病の場合も無給としている労働条件の相違は、不合理であると判断しました。

また、Y会社は、時給制契約社員について、無給の病気休暇が認められていることに加えて、やむを得ない相当な理由があると認められる場合には、所属長へ申し出て承認を得ることで、無断欠勤の取扱いはしておらず、1週当たり20時間以上勤務する時給制契約社員は、私傷病により4日間以上欠勤し、その間給与の支給を受けなかった場合には、4日目以降最長1年6か月までの間、傷病手当金の給付を受けることができると主張しましたが、病気休暇は、時給制契約社員に対し私傷病の場合も無給とされていることが不合理であると評価することができるものであるから、無給の休暇制度があることや健康保険から第1審被告主張の傷病手当金の給付を受けられることは上記判断を左右するものではない、としています。

コメント

まず、比較対象とするべき正社員については、一般的な基準を定立しているわけではありませんが、コース別制度を採用している場合に、そのコース間の移動や変更の実態をもとに連続性の有無を判断しており、正社員の中に複数の業務内容や人材活用の仕組みを設けている場合の判断方法は参考になります。

 

各労働条件について、労働契約法20条違反を検討するにあたっては、厚生労働省が平成30年12月28日に出したガイドライン「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」と、裁判例が参考になります。

ガイドラインは、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを示したもので、典型的な事例として整理できるものについては、問題とならない例・問題となる例という形で具体例が記載されています。 また、不合理な待遇差の解消に向けては、賃金のみならず、福利厚生、キャリア形成・能力開発などを含めた取組が必要であるため、これらの待遇についても記載されています。

(1)住居手当については、ガイドラインには原則となる考え方は記載されていません。

裁判例においては、住宅手当が従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨であるところ、転居を伴う配転が予定されている正社員はそうでない契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る(ハマキョウレックス事件最高裁)、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるもので、正社員は幅広い世代の労働者が存在し得、住宅費を補助することには相応の理由がある(長澤運輸事件最高裁)などと不合理性を否定する判断が多くみられます。ただし、従業員が実際に住宅費を負担しているか否かを問わずに支給されるという実態から、職務内容等を離れて従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであり、手当の名称や扶養家族の有無によって異なる額が支給されることに照らせば、主として従業員の住宅費を中心とした生活費を補助する趣旨で支給されるものと解するのが相当であり、生活費補助の必要性は職務の内容等によって差異が生ずるものではないこと、また、正社員であっても転居を必然的に伴う配置転換は想定されておらず、契約社員と比較して正社員の住宅費が多額になりうるといった事情もないこと、から労働条件の相違は不合理であるとの判断もされています(メトロコマース事件控訴審)ので、注意が必要です。

住宅手当を支給する際は、実際に転居を伴う配置転換が予定されているという実態のある正社員に対して支給しているか、契約社員についてもそのような実態がないか否かについて確認が必要です。

(2)病気休職について、ガイドラインでは、短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければならず、有期雇用労働者についても、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければならない、としています。具体例として、労働契約の期間が1年である有期雇用労働者である Xについて、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとして いる場合は問題ないとされています。

参考

平成29年(ネ)第4474号 地位確認等請求控訴事件

平成30年12月13日 東京高裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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