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社会保険労務判例フォローアップ

令和3年8月6日

34.不更新条項と雇止めの適法性が問題となった判例(日本通運事件)

今回は、不更新条項を含む契約書への署名と契約更新に対する期待の合理性、雇止めの適法性が問題となった裁判例をご紹介します。

同じ職場で通算5年を超えて働く有期契約社員が希望した場合は、会社に無期雇用への転換を義務づけ、当該社員との間で期間の定めのない労働契約が成立するという、いわゆる無期転換権の発生に対する対策として、契約書の中に不更新条項を入れている会社も多いかと思います。本判決は、結論的には雇止めが認められたのですが、不更新条項だけでは雇止めが有効とならない(不更新条項は雇止めの有効性を判断する一事情に過ぎない)との判断が示されており、雇止めに厳しい要件を課している労働契約法19条との関係で有効な雇止めを行うために参考となる判決です。

 

事案の概要

Y会社は、運送事業等を営む株式会社である。
Xは、平成22年12月から派遣社員としてY会社で業務に従事していたところ、平成24年6月1日からY会社と有期労働契約を締結し、平成30年3月31日まで、途切れることなく7回の更新を繰り返した(労働契約①~⑧)
なお、労働契約の内容として、Xの就業場所はa支店b事業所で、業務内容は取引先であるc社の業務(在庫管理、更新、登録・各種伝票発行他)となっていた。
平成26年4月30日、基準日である同年6月1日時点で、勤続3年未満の有期労働契約者については、最長で平成30年3月末までとする更新上限を設けることとした(本件運用基準)。それを踏まえて、労働契約⑤,⑥では、「2013年4月1日以後、最初に更新した雇用契約の始期から通算して5年を超えて更新することはない。」旨記載されるようになった。
しかし、このことについて、Y会社からXに対する特別な説明はなかった。
平成29年5月ごろ、Y会社は、同年9月1日以降のc社の商品配送業務を受注できなくなり、同年8月末をもってb事業所を閉鎖することにした。
Y会社の営業課長は、b事業所で勤務するXを含む従業員に対して、同年8月末をもってc社の業務が終了すること、そのため、同年7月1日からの有期労働契約の期間が8月末までの2か月間であること等を説明した
XとY会社との労働契約⑦の契約書には、「平成29年8月31日を超えて更新されることはない」という不更新条項が記載された。その契約締結に関する面談の際、Xが「なぜ8月31日までなのか」と質問をし、営業課長は、「c社の業務を失注したことでb事業所がなくなるから」との説明をした
Xは、契約書を営業課長に提出したものの、総務課への提出は留保するよう依頼していたが、その後、「生活があるのでひとまずお出ししますが・・・ぜひ9月以降も働き続けたいので、よろしくお願いします」とのメールを送り、契約書を総務課に提出するよう依頼した。
Xの加入していた労働組合から、本件運用基準の上限である平成30年3月末までは雇用してほしいという意見があったので、XとY会社は労働契約⑧を締結した。契約書には、「2018年3月末日を超えて契約を更新することはない」との記載があった。
契約締結前には、Y会社の総務課長がXと面談し、不更新条項を含む契約書を読み上げたほか、次回以降の雇用契約は締結しないこと等が記載された説明書面を交付して説明を行った
平成30年1月31日、Y会社はXに対し、労働契約⑧が満了する同年3月31日をもって労働契約を終了し、更新しない旨の通知をした。

本件は、上記の事実関係のもと、Xが、Y会社の雇止めは、客観的合理的な理由も社会通念上相当性もないため、従前の労働契約の内容で契約が更新されたと主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、平成30年4月分以降の賃金(月額約19万円)と遅延損害金の支払を求めた事案です。

争点

労働契約法19条では、有期労働契約の雇止めにあたり、①当該有期労働契約が反復、更新を繰り返しており、当該契約を終了させることが、無期労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められる場合(1号、実質無期型)、または、②契約期間満了時に、当該労働者が当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(2号、期待保護型)には、その雇止めに、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であることが必要であるとされていることから、本件が①または②に該当するといえるかが、主な争点です。

本判決の判断の要旨

①(労働契約法19条1号、実質無期型)の該当性について

最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決(東芝柳町工場事件)を引用し、労働契約法19条1号に当たる場合は、有期労働契約の期間の満了ごとに厳密な更新処理がされない状況下で多数回の契約が更新され、これまで雇止めがされたこともないといった事情などから、当事者のいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認められる場合であることを要し、そのことによって、期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態であると認められる場合であることを要する、としました。

その上で、本件では、更新の都度、毎回必ず契約書が作成されており、契約日の前に、Y会社の管理職からXに対し、Xの署名押印を求める契約書を交付し、管理職がXの面前で契約書を読み上げて契約の意思を確認するという手続をとっていることから、更新処理が形骸化していたとはいえず、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認められる場合には当たらないとし、労働契約法19条1号には該当しない、と判断しました。

 

②(労働契約法19条2号、期待保護型)の該当性について

(1)まず、本件の労働契約⑤から⑧の契約書に記載された不更新(更新限度)条項について、この条項が記載された契約書に署名押印したことにより、Xが仮に雇用継続の合理的期待を抱いていたとしても、これを放棄したことになるのではないかという点について、以下のとおり判断した。

本件のように契約書に不更新条項等が記載され、これに対する同意が更新の条件となっている場合には、労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係を終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるかの二者択一を迫られるため、労働者が不更新条項を含む契約書に署名押印する行為は、労働者の自由な意思に基づくものか一般的に疑問があるとした上で、最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決(山梨県民信用組合事件)を引用した上で、労働者の署名押印行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り、労働者により更新に対する合理的な期待の放棄がされたと認めるべき、としました。

その上で、本件では、労働契約⑤及び⑥締結時に、Y会社がXに対して、本件運用基準の存在や不更新条項等の法的効果について説明したことを認めるに足りる証拠はなく、また、労働契約⑦締結時には、Xが異議を留めるメールを送っていることからすると、労働契約⑤~⑧の契約書に署名押印したXの行為が自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえない、と判断しました。

(2)次に、労働契約⑧満了時に、Xが継続雇用の合理的期待を有していたかについて、以下のとおり判断しました。

労働契約①から⑦まで、契約書には勤務地がb事業所であり、業務内容はc社の商品配送の事務作業であることが記載されており、労働契約①から⑦は、b事業所におけるc社の商品配送業務をY会社が受注する限りにおいて継続する性質の雇用であったこと、また、労働契約⑦の前に、Y会社がc社の業務を失注し事業所を閉鎖する見込みとなり、次期契約期間満了後の雇用継続がないことについて複数回説明を受けたことなどから、労働契約⑦締結時点で、契約更新の合理的期待は打ち消されてしまったといえる。そして、労働契約⑧締結時にも、契約期間満了後は更新がないこといついて説明書面を交付して説明を行ったことにより、合理的な期待が生じる余地はなかったといえる。よって、労働契約⑧の契約期間満了時において、Xが、Y会社との有期労働契約が更新されるものと期待したとしても、その期待について合理的な理由があるとは認められない、としました。

 

以上から、本件は、労働契約法19条が妥当する場面ではないので、Xの請求は理由がないとして認めず、雇止めは有効であると判断しました。

コメント

労働契約法19条は、①実質無期型と、②期待保護型の2種類を規定しており、本件ではその適用が問題となりました。

そのうち①については、適用されるケースはあまり多くありません。とはいえ、契約更新が反復されるケースでは、漫然と更新するのではなく、本件のように、更新後の労働条件について面前で十分説明した上で、新たに契約書を取り交わすか労働条件通知書を交付した上で本人の確認の署名をもらうといった対応は、更新の都度、必ず行うようにしましょう。

 

本件でもっとも問題となったのは、②期待保護型の適用です。

ご存じのように、通算5年を超える有期契約社員が希望した場合は、期間の定めのない労働契約が成立するという、いわゆる無期転換権の発生が、2018年4月以降生じるようになりました。その対策として、契約更新を期待するとの合理的理由を失わせる効果を狙って、本件のような不更新状況や更新上限条項を入れることが多いと思われます。

本判決はその点について、退職金規程の不利益条項についてのH28.2.19最高裁判決(山梨県民信用組合事件)(以前に労務判例フォローアップ15にて紹介済み、詳細はこちらをご覧ください)の判断枠組みを、不更新条項等の入った契約書等への署名・押印が、②期待保護型における更新の合理的期待を失わせるかの判断に用いたことが特色です。つまり、単に従業員の署名だけでは足りず、当該従業員が自由な意思に基づいて署名押印したといえる事情の立証が必要となるわけです。少なくとも不更新の内容について会社が十分説明することが必要ですので、説明文書の交付と、そこにも従業員の確認の署名を求めることが最低限必要になると思われます。

また、勤務地や業務を限定している場合にはその旨を契約書に明記しておくと同時に、業務量が更新時の判断基準であることや、当該業務が縮小あるいは消失する場合は契約が終了する可能性があることを十分説明しておく必要があるでしょう。

加えて、重要なことは、上司等が、更新に期待を持たせるような発言をしないことです。本件でも、そういった発言がなされた点がいくつか問題となっています。不用意な発言をしないよう管理職に対する指導も必要です。

参考

平成30年(ワ)第10238号 無期転換逃れ地位確認等請求事件

令和2年10月1日 東京地裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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