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社会保険労務判例フォローアップ

令和5年1月14日

46.無期転換回避目的の雇止めの適法性が問題となった裁判例(グリーントラストうつのみや事件)

今回ご紹介する裁判例は、無期転換申込権の発生(労働契約法18条)を回避する目的で雇止めを行った事例における当該雇止めの適法性が問題になった事例です。無期転換申込権の発生を回避する目的それ自体で雇止めが無効になるわけではないという判断がされた点が特徴です。一方で、有期雇用契約の雇止めが許されるかについて労働契約法19条の該当性について詳細に判断しています。雇止めの有効性を検討する上で参考になる事案です。

 

事案の概要

Y法人は、宇都宮市内に主たる事務所を置いて設立された公益財団法人である。
なお、Y法人の非常勤嘱託員に関する規定には、「嘱託員の任用期間は、1年以内とする。ただし、勤務成績が良好であると認められる者については、1年を超えない範囲内で任用期間を更新することができる。」との規定がある。
Xは、平成24年11月1日、Y法人との間で、非常勤嘱託員として、雇用期間を平成25年3月31日までとする労働契約を締結した(労働契約①)。
そして、同年4月1日、雇用期間を1年とする有期労働契約を更新締結し、(労働契約②)、以後、平成26年4年1日(労働契約③)、平成27年4月1日(労働契約④)平成28年4月1日(労働契約⑤)、平成29年4月1日(労働契約⑥)、それぞれ同様に契約を更新した
Xは、平成30年1月17日、Y法人に対し、労働契約⑥の更新の申込みをしたところ、Y会社は、これを拒絶し、労働契約⑥の雇用期間の満了日である同年3月31日をもって雇止めをすることを通知した(本件雇止め)
Xは、同年8月23日、Y法人に対し、同月22日付「無期労働契約転換申込書」により、Y法人との有期労働契約が平成25年4月1日から起算して平成30年4月1日に5年間を超えたとして労働契約法18条に基づき期間の定めのない労働契約への転換を申し込んだ

本件は、上記の事実関係のもと、労働契約⑥は労働契約法19条各号の要件を満たしており、かつ、Y法人がXからの更新の申入れを拒絶することは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、Y法人は従前と同一の労働条件でこれを承諾したものとみなされ、かつ、同法18条1項により期間の定めのない労働契約に転換されたなどと主張して、Xが、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②未払賃金及び遅延損害金の支払等を求めた事案です。

なお、労働契約法19条は、有期労働契約の雇止めにあたり、①当該有期労働契約が反復、更新を繰り返しており、当該契約を終了させることが、無期労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められる場合(1号、実質無期型)、または、②契約期間満了時に、当該労働者が当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合(2号、期待保護型)には、その雇止めに、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であることが必要であるとされています。また、労働契約法18条では、同じ職場で通算5年を超えて働く有期契約社員が希望した場合は、会社に無期雇用への転換を義務づけ、当該社員との間で期間の定めのない労働契約が成立するとされています。

 

争点

本件の主な争点は、① 労働契約⑥が、労働契約法19条各号のいずれかに該当するか、② 仮に該当するとして、その更新の申込に対する本件雇止めが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときに該当するか、です。

 

本判決の判断の要旨

労働契約法19条1号(実質無期型)の該当性について

(1)同号の該当性は、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等を総合考慮して判断すべきである。

(2)確かに、〈ア〉労働契約⑥は、労働契約①ないし⑤が反復、更新された後に締結された労働契約であって、〈イ〉その間の更新回数も既に5回に上っているほか、〈ウ〉各雇用期間も本件従前労働契約①のそれが5か月間であった以外は全て1年間であって、本件労働契約の期間終了における通算雇用期間は5年5か月に及んでいるほか、Xの業務内容も単なる補助的・臨時的な業務にとどまらない。

しかし、〈a〉本件各労働契約は、いずれも飽くまでXを「非常勤嘱託員」として採用することを前提に締結されたものであり、〈b〉当然のことながら内規(宇都宮市非常勤嘱託員取扱要綱及び本件要領)に従って雇用期間が定められ、〈c〉Y法人は、これを前提に毎回、内部決裁を行った上、辞令書や勤務条件通知書を作成し、本件労働契約①の締結時はもとより、それ以降の各更新時においても、ほぼ毎回上記辞令書等をXに交付していたこと、そして、〈d〉その各辞令書には雇用期間(任用期間)が明記され、また、各勤務条件通知書中には、任用期間満了時の業務量、勤務成績・態度、能力、予算措置を総合的に判断して再任する場合があり得ることが記載されていたというのであるから、これらの事情(〈a〉ないし〈d〉)を合わせ考慮すると、上記〈ア〉ないし〈エ〉の事情を勘案したとしても、本件各労働契約は、いずれも、その締結時において雇用の更新継続が当然の前提とされていたものではない。

(3)よって、同号には該当しないものというべきである。

労働契約法19条2号(期待保護型)の該当性について

(1)同号の該当性は、同条1号の該当性と同様に、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等を総合的にしんしゃくし、使用者が当該労働契約を有期労働契約とした目的の合理性の有無・程度と労働者の雇用継続に対する期待の合理性の有無・程度を相関的に検討した上、使用者において雇用期間を定めた趣旨・目的との関係で、なお労働者の雇用継続に対する期待を保護する必要性が高いものといえるか否かにより判断すべきものである。

(2)確かに、Xの各労働契約には雇用期間の定めがあり、かつ、自らが非常勤の嘱託職員の地位にあることの認識を欠いていたものではない。また、非常勤嘱託員の報酬(給与)は、宇都宮市からの補助金によって賄われており、その任用取扱基準も手引きに依拠することが求められていることからみて、本件各労働契約における雇用期間は、上記任用取扱基準に従って宇都宮市からの非常勤嘱託員の報酬財源を確保するために定められたものであって、その趣旨・目的に一応の合理性が認められる。

しかし、Xは、非常勤の嘱託員として、その業務実態は、本件各労働契約締結のかなり早い段階から、非常勤としての臨時的なものから基幹的業務に関する常用的なものへと変容するとともに、その雇用期間の定めも、上記のとおり当初予定された3年間(更新を含む)を超えて継続している点で報酬財源確保の必要性というよりむしろ雇止めを容易にするだけの名目的なものになりつつあったとみるのが相当である上、本件各労働契約の各更新手続それ自体も、実質的な審査はほとんど行われず、単にXの意向確認を行うだけの形式的なものに変じていたものといわざるを得ない。

(3)よって、本件各労働契約における雇用期間の定めの意味や目的を考慮したとしても、なおXの雇用継続に対する期待を保護する必要は高いものというべきであるから、Xにおいて本件労働契約⑥の満了時に同労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものというべきであるので、労働契約⑥は労働契約法19条2号に該当する。

 

本件雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に当たるか

(1)本件雇止めは、宇都宮市の財政支援団体であるY法人が労契法18条所定の期間の定めのない労働契約の締結申込権の発生を回避する目的で行われたものということができる。しかし、労契法18条所定の「通算契約期間」が経過し、労働者に無期労働契約の締結申込権が発生するまでは、使用者には労働契約を更新しない自由が認められているのであって、上記「通算契約期間」の定めは、使用者のかかる自由まで否定するものではない。そうすると、使用者が上記無期労働契約の締結申込権の発生を回避するため、上記「通算契約期間」内に当該有期労働契約の更新を拒絶したとしても、それ自体は格別不合理な行為ではない

(2)しかし、上で検討したとおり、労働契約⑥は有期労働契約であるが、労契法19条2号に該当し、労働者たるXの雇用継続に対する期待は合理的な理由に基づくものとして一定の範囲で法的に保護されたものであるから、特段の事情もなく、かかるXの合理的期待を否定することは、客観的にみて合理性を欠き、社会通念上も相当とは認められないものというべきである。

そこで特段の事情の有無について検討する。

この点、本件雇止めは人員整理的な雇止めとして実行されたものということができる。そうすると、いわゆる整理解雇の法理が妥当するものというべきであるから、①人員整理の必要性、②使用者による解雇回避努力の有無・程度、③被解雇者の選定及び④その手続の妥当性を要素として総合考慮し、人員整理的雇止めとしての客観的合理性・社会的相当性が肯定される場合に限り、本件雇止めには上記特段の事情が認められるものというべきである。

非常勤嘱託員の報酬(給与)は、宇都宮市からの補助金によって賄われていたところ、Y法人は、同市の人事課からXについて無期労働契約に転換されないよう人員整理を行うべき旨の指導を受けていたいことから、人員整理のため本件雇止めを行う必要性が生じていたことは否定し難い。

しかし、①人員整理のため本件雇止めを行う必要性をそれほど大きく重視することは適当ではない上、②本件雇止め回避努力の有無・程度、③被雇止め者の選定及び④その手続の妥当性に関する審査も、これを大きく緩和することは許されないものと解されるところ、Y法人は、宇都宮市(人事課)からの指導を唯々諾々と受け入れ、本件の人員整理的な雇止めを実行したものであって、その決定過程において本件雇止めを回避するための努力はもとより、Xを被雇止め者として選定することやその手続の妥当性について何らかの検討を加えた形跡は全く認められないのであるから、これらの事情を合わせ考慮すると、人員整理を目的とした本件雇止めには、客観的な合理性はもとより社会的な相当性も認められず、したがって、本件雇止めに上記特段の事情は存在しないものというべきである。

(3)よって、労働契約⑥の更新申込みに対する本件雇止めは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に該当する。

以上より、Y法人は、本件労働契約⑥の内容である労働条件と同一の労働条件で同労働契約の更新申込みを承諾したものとみなされることになるから、Xの請求を認める。

コメント

無期転換申込権の発生を規定する労働契約法18条が施行されて5年が経過した平成30年4月1日以降の雇止めについて、その適法性をめぐる事例が蓄積しつつあります。本件は、まさにかかる無期転換申込権の発生の防止を目的として雇止めがなされた事例です(以前、無期転換申込権が発生する前に更新限度を設定した事例(日本通運事件)をご紹介しましたが(こちらをご参照)、それとは異なります)。

本件は、無期転換申込権の発生を目的とした雇止めはそれ自体では不合理な行為ではないと述べている点に大きな意義があります。

それでも、労働契約法19条の各号に該当すれば、雇止めには、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であることになるので注意は必要です。

同条1号(実質無期型)が認められるケースはあまり多くはないものの、本件では、期間満了時の更新手続きにあたって、Y法人担当者との面談が僅か数分程度であり、Xの任用期間満了時の業務量、勤務成績・態度、能力等に関して実質的な審査が行われた形跡はなかったことが認定されています。これらの事情は、実質的に無期雇用と同視されると認定される方向に働きますので、契約更新が反復されるケースでは、事前に更新の要否について検討するとともに、更新手続きが形骸化しないように、少なくとも面談にて更新後の労働条件について十分説明すること、新たに契約書を取り交わすか労働条件通知書を交付することが必要でしょう。

また、本件では、理事長が、嘱託職員の任用には期限はないかのような発言をしてXを安心させようとしていたこともXの期待が合理的なものとする一事情として認定されています。上司等が、更新に期待を持たせるような発言をしないことが重要ですので、そういった不用意な発言をしないよう管理職に対する指導も必要であることを今一度確認しておきましょう。

さらに、本件では、Y法人が公益財団法人であることも特徴の1つです。使用者が雇止めを行う際に、自治体の補助金に依拠した公益財団法人であったとしても、そのことが非常勤嘱託員である労働者の契約更新の合理的期待を打ち消す理由にはならないと判断しています。そして、人員削減を行う必要性があったことを一定程度認めつつも、労働者の契約更新の期待に合理性があったと判断し、結論において無期転換を認めています。Y法人と同様の組織形態をもつ法人にとって少なからず影響を与える事例であるといえます。

参考

平成30年(ワ)第454号 地位確認等請求事件

令和2年6月10日 宇都宮地裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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