令和元年6月13日
はじめに
平成31年度税制改正では、個人の事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予制度(以下、「個人版事業承継税制」といいます。)が創設されました。この制度を利用することで、後継者が都道府県知事の認定を受けた上で、先代経営者から相続または贈与により事業用資産を取得した場合、相続税・贈与税の納税が猶予又は免除されます。
事業承継税制については、平成20年の「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「承継法」といいます。)制定から、いくつかの改正を経てきたところ、この度の改正では、従前の承継法を前提にしつつ(法律自体は改正せず、規則を書き加えています。)、個人事業者のために更に特例の立法(租税特別措置法70条の6の8ないし70の6の10)がなされました(平成31年3月27日成立)(以下、「措置」といいます。)。
個人版事業承継税制の概要
個人版事業承継税制は、後継者である受贈者または相続人等が、事業用の宅地等、建物、減価償却資産(以下、「特定事業用資産」といいます。)を贈与または相続等により取得し、承継法の認定を受けた場合には、その特定事業用資産に係る贈与税・相続税について、⼀定の要件のもと納税を猶予し、後継者の死亡等により、猶予されている贈与税・相続税の納付が免除されます。そして、その次の後継者が相続税・贈与税の猶予を受けることができます。この制度を代々利用していくことで、贈与税・相続税の負担を回避し、円滑な財産の承継を図ることができるというものです。
本来、贈与や相続がなされた場合、資産の評価額に応じて、相当の納税義務を負うことはよくご存じのことと思います。しかし、事実上それを大幅にディスカウントする制度です。ですから、事業の存在と存続について、社会経済的にみて承認されたものでなければなりません。つまり、本制度の適用を受けるためには、承継法に基づく都道府県知事の計画の「確認」と三位一体(先代経営者、事業内容、承継者の各観点から)の「認定」を受けることが前提となります。納税猶予適用後は、税務署へは、3年に⼀度報告(継続届出)をする必要があります。
個人版事業承継税制の主な内容
承継特例法は、先行する会社についての特例事業承継税制の仕組みを、個人についても適用できるようにしたものといえます。
そこで、特例事業承継税制と要件効果を対比することでその効能がわかりやすくなると思うので、対照表をまとめてみました。
ただし、個人版事業承継税制も、特例事業承継税制と同様、5年間の時限立法です。平成31年4月1日から令和6年3月31日までの間に特例承継計画が提出されたものが対象となりますので、注意してください。
特例事業税制 | 個⼈版承継税制 | 備考 | |
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事前の計画策定 | 5年以内の特例承継計画の提出 平成30年4月1日から 令和5年3月31日まで |
5年以内の個人事業承継計画の提出 平成31年4月1日から 令和6年3月31日まで |
恒久措置ではない。 |
適用期限 | 10年以内の贈与・相続等 平成30年1月1日から 令和9年12月31日まで |
10年以内の贈与・相続等 平成31年1月1日から 令和10年12月31日まで |
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対象資産 | 非上場株式等 | 事業用の宅地等(400㎡まで) 事業用の建物(床面積800㎡まで) 減価償却資産(固定資産税の課税対象) (棚卸資産、事業用預貯金、売掛金等は対象外) |
個人版は、小規模宅地等のうち同族会社事業用宅地、貸付事業用宅地との選択的適用。 |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 原則、先代一人から後継者一人 ※一定の場合、同一生計親族等からも可。 |
個人版は、単独で全部を承継する必要。 青色申告の承認を受けておくことが前提(正規の簿記、区分経理)。 |
贈与要件 | 一定数以上の株式等を贈与すること 但し、後継者1人の場合、原則2/3以上など |
その事業に係る特定事業用資産のすべてを贈与すること | |
ペナルティ | 認定に係る株式の譲渡、承継人の代表権喪失、報告不提出などの場合、猶予の期限が到来し、かつ、当初申告期限から年利子税3.6%を加算して支払う。 | 認定に係る事業の廃止、青色申告の承認の取消、報告不提出などの場合、猶予の期限が到来し、かつ、当初申告期限から年利子税3.6%を加算して支払う。 | いずれも、全部又は一部免除要件あり。 |
対象事業 | 風俗営業でないこと等 | 同様 但し、不動産貸付業は対象外。 |