令和3年5月12日
はじめに
雨後のタケノコのように、カード発行会社、金融機関のみならず、各種の企業が、様々な呼び名でキャッシュレス決済サービスを提供しています。
このような経済の実態を目の前にして、キャッシュレス決済の分類に始まり、その分類毎に、どのようなトラブルのリスクがあり、これに手当てするために種々の法規制がなされていることをご案内しました。
最後に、これらの取引に関係した取引当事者は、それぞれ、どのような経理処理を行うべきかについて、見ていきたいと思います。
これまでのチャートから想像できるように、基本は、三当事者をつないだトライアングルを結ぶライン間の取引に分解して、仕訳を考えていくことになります。
その際、まず、当事者が当該取引により収益を得るのか、反対に、当該取引により費用(売上原価または販管費)を負担するのかを見極めます。ついで、前者の場合なら、収益認識会計基準に当てはめていきます。後者の場合は、発生主義の基準に当てはめていきます。
実は、様々なキャシュレス決済の種類がありますが、仕訳の表記のレベルでは、割に単純です。基本となる、クレジットカードを利用したキャッシュレス決済について、見ていきますが、他の種類の決済サービスについてもほぼ同様です。但し、暗号資産を支払手段とする場合は、それ自体時価があることなどから処理が異なりますが、説明は割愛します。
以下では、具体的な設例に従って、カード発行会社等がキャッシュレスサービスを提供することで得られる収益に係る仕訳、加盟店等がキャッシュレスサービスを利用することで商品・役務の販売により得られる収益に係る仕訳、および、会員等がキャッシュレスサービスを利用することで商品・役務を購入する際の費用にかかる仕訳について、順にみていきたいと思います。
設例
加盟店が会員に対し、100円のボールペンを販売した。
会員は会社の事務用品として使用した。
カード発行会社は加盟店に対し、その代金の立替え払いを行う。
カード発行会社の加盟店に対する手数料は、1回の取引当たり売買代金の2%(本件では2円)である。
会員から徴収するカード発行会社の会費はない。
カード発行会社の仕訳(加盟店との関係)
収益認識会計基準に従い、収益認識の5ステップに沿って、仕訳のもととなる取引を分析的に観察します。ポイントは、その取引の内容について、契約書を見て、各当事者の権利と義務に分解し、時間の流れで、履行の事実と価値を評価していくことです。
厳密には、取引の実態をつぶさに観察・分析したうえで下記の基準を当てはめていくことになりますが、一般的と思われる取引を前提に紹介します。
ステップ1・・・顧客との契約を識別
ステップ2・・・契約における履行義務(収益認識の単位)を識別
ステップ3・・・取引価格の算定
値引き、リベート、返金等、取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合は、その変動部分の金額を見積り、その部分を増減して取引価格を算定
ステップ4・・・契約における履行義務に取引価格を配分
ステップ5・・・履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識
ステップ1・・・加盟店手数料と交換に、決済サービスの提供を受けるため、加盟店と契約しています。
ステップ2・・・立替払いが履行義務の内容です。
ステップ3・・・立替払い代金の2%が取引価格です。
ステップ4・・・取引価格の配分の必要はありません。
ステップ5・・・商品の販売時点または遅くとも立替払い時までには履行義務が充足されます。
商品代金の立替払い時までに加盟店手数料を認識する。
未収金 100円 / 加盟店手数料 2円
/ 未払金 98円
加盟店の仕訳
ステップ1・・・クレジットカード利用による売買代金の支払(立替払い)と交換に、商品の引渡を受けるため、加盟店と契約しています。
ステップ2・・・商品の引渡が履行義務の内容です。
ステップ3・・・売買代金が取引価格です。
ステップ4・・・取引価格の配分の必要はありません。
ステップ5・・・商品の引渡し時に履行義務が充足されます。
商品の引渡時に売上を認識し、商品代金の立替払いまでに加盟店手数料が発生する。
未収金(売掛金) 100円 / 売上 100円
支払手数料 2円 / 未払金 2円
取引先との通常の商取引によって生じた債権(売掛金)について、カード発行会社により後に立替払いされ、また、契約の態様によっては、その債権は、加盟店からカード発行会社に対して自動的に債権譲渡されることになり、多くは、取引月の月末以降の決済となることから、加盟店の取得する債権は、厳密には、企業の主目的以外の取引によって発生したものなので、未収金の勘定科目を用いるのが正しいかと思われます。
会員の仕訳
商品の引渡時に費用が発生する。
事務用消耗品費 100円 / 未払金 100円
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