令和3年6月16日
新型コロナウイルス感染症の蔓延は、私たちの社会・経済活動に対して、非情なまでの不自由や負担をかけ続けています。
他方、そのことがきっかけになって今まで不便だと感じながらも、既存の制度や規制の枠組みの呪縛から自由になれず、なかなかできなかった規制緩和が進んでいます。
その潮流には、著作権法の改正も挙げられます。
例えば、新型コロナウイルス感染症に対処するため教育機関において遠隔授業等が不可避になりました。これに対応し、「授業目的公衆保証金制度」が、昨年2年4月に早期施行されました(当初令和3年4月施行目標)。本制度は、各教育機関が補償金を支払うことで、一定の範囲の著作物、すなわち教材の利用に際し、著作権者の許諾を得ることなく著作物の公衆送信を可能とするものです(平成30年著作権法改正)。具体的には、対面授業で著作物を印刷・コピーして配布することはできたものの(著作権法35条)、そのPDFをサーバーにアップロードすることはできませんでした。しかし、大学が補償金を支払うことで、これができるようになったのです。
今回ご紹介するのは、図書館の蔵書について、その図書館に出向かないでも閲覧できるようになることです。
改正
2.1. 背景
研究者やアーティスト、クリエーターにとって、図書館にある蔵書から得られる情報は、活力の源泉です。
従来、原則として、図書館の蔵書を閲覧または複写するために(但し、「調査研究のため」です。使用目的の営利・非営利は問いません。)は、著作権の保護のため、図書館まで出向くか、せいぜい郵送まででした。
ただ、市場で入手困難な絶版の書籍などに限っては、遠隔地の利用者の住所の近くの公共図書館に電子化したものを送信し、その館内で閲覧・複写できました。
それでも、その図書館には、電車を乗り継いでいかなければならなかったり、感染症対策で入れなかったり、制約がありました。
新型コロナウイルスの感染拡大で図書館の利用が制限される中、主に研究者から図書館に行かずに資料を閲覧できる仕組みを求める声が上がっていました。
2.2. 改正内容
図書館の蔵書を電子データ化し、利用者にメールで送信できるようにする改正著作権法が成立しました。
① 国立国会図物館が各地の図物館向けに行う絶版本等のデータ送信について、一般の利用者にも直接送信できるようにする。
② 図書館の蔵書のコピーを一般の利用者に直接送信できるようにする。
ただし、作家や出版社の利益を守るため、メールやファックスで送信できるのは著作物の「一部分」とし、図書館側に作家らへの補償金支払いも義務付けました。補償金は利用者への転嫁が想定されています。
今後、補償金の金額や「一部分」の範囲など検討されることになっています。図書館には利用者情報を透かしで入れるなどのデータ流出防止策も求めるようです。
(文化庁HPの説明資料より引用)
ただ、施行について、国会図物館からのデータ送信は公布から1年以内、各図書館からの資料送信は公布から2年以内と定められているので、来年以降になります。
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