トップページ  >  連載  >  税務判例フォローアップ2

税務判例フォローアップ

2.納税の軽減措置が、自分のケースに当てはまるか疑義がある場合は?

事案の概要:平成22年7月15日判決

原告Xは、義姉Aと同一建物に居住しその敷地を共有していましたが、(1)XとAは、建物の居住形態に応じて敷地部分を分割し、(2)Xは建物から退去して居住部分を取り壊し、(3)取り壊した建物の敷地部分をBに譲渡しました。
 居住用の財産を譲渡した場合、その譲渡所得(キャピタルゲイン)については、租税特別措置法により、3000万円の特別控除を受けることができます(租税特別措置法35条1項)。そこで、Xは、上記行為の納税に関して、税理士等に相談するも疑義があったので、ひとまず特別控除の適用を断念し、納税した後、改めて、更正の請求をしました。しかし、これが認められなかったため、裁判所に訴えを提起しました(処分取消の訴え)。

※ 租税特別措置法35条1項:個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者に対してするもの及び所得税法第58条の規定または第33条から第33条の4まで、第37条、第37条の4、第37条の7若しくは第37条の9の2から第37条の9の5までの規定の適用を受けるものを除く。以下この条において同じ。)若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。以下この条において同じ。)をした場合または災害により滅失した当該家屋の敷地の用に供されていた土地若しくは当該土地の上に存する権利の譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものの譲渡若しくは当該家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたものとともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に有する権利の譲渡を、これらの家屋が当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合には、当該個人がその年の前年または前々年において既にこの項または第36条の2、第36条の5、第41条の5若しくは第41条の5の2の規定の適用を受けている場合を除き、これらの全部の資産の譲渡に対する第31条または第32条の規定の適用については、次に定めるところによる。
1.第31条第1項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から3000万円(長期譲渡所得の金額のうち第35条第1項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が3000万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額とし、同項第2号の規定により読み替えられた第32条第1項の規定の適用を受ける場合には3000万円から同項の規定により控除される金額を控除した金額と当該資産の譲渡に係る部分の金額とのいずれか低い金額とする。)を控除した金額(」とする。
2.第32条第1項中「短期譲渡所得の金額(」とあるのは、「短期譲渡所得の金額から3千万円(短期譲渡所得の金額のうち第35条第1項の規定に該当する資産の譲渡に係る部分の金額が3千万円に満たない場合には、当該資産の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。

この場合、更生請求の要件を満たすか

納税者は所轄の税務署長に対して、居住用財産の譲渡所得の特別控除の記載がない確定申告書を提出した場合でも、その記載がなかつたことについて「やむを得ない事情」があるときは、これを記載した書類等を提出することで、本特別控除の適用を受けることができます(租税特別措置法35条3項)。 ここで、本件が最終的に租税特別措置法35条1項の要件を満たしたとして、「やむを得ない事情」に当たるかが問題になりました。

※ 租税特別措置法35条3項:税務署長は、確定申告書の提出がなかつた場合または前項の記載若しくは添附がない確定申告書の提出があつた場合においても、その提出または記載若しくは添附がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに同項の明細書及び財務省令で定める書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。

やむを得ない事情とは?

判決では、天災その他本人の責めに帰すことができない客観的事情があって、居住用財産の譲渡所得の特別控除の制度趣旨に照らし、納税者に対して、その適用を拒否することが不当または酷となる場合をいうとしました。

本件の具体的事情

(1)
Xは、本確定申告書を提出するに際し、再三にわたり税務署を訪れ、租税特別措置法35条1項の適用が認められるか相談しました。
(2)
税務署からはいずれの相談に対しても認められない旨回答がありました。
(3)
Xは、税理士に相談したところ、判例も前例もなく難解な問題であると回答を得ました。
(4)
同税理士から、加算税(追加本税の10パーセント、一部15パーセント)を追徴されるリスクがったため、同条項の適用申請を断念しました。
(5)
同税理士から、このように意に反して同条項の適用申請を断念したとしても、1年以内なら更正の請求ができるとの助言を得ました。

裁判所の判断Ⅰ

このような具体的事情と、本条項の適用について第1審と本件控訴審とで判断が分かれたことから、「やむを得ない事情」があったものとしました。

もう一つの争点、居住用財産の譲渡所得の特別控除の要件を満たすか?(争点Ⅱ)

租税特別措置法35条1項は、典型的には、Xが個人の居住の用に供しまたは供されていた家屋を有し、その家屋と共にその敷地の用に供されている土地等をBに譲渡した場合に適用があります。個人が、土地を更地として譲渡する目的で土地上の家屋を取り壊し、土地のみを譲渡した場合にも、家屋を敷地の用に供されている土地と共に譲渡した場合に準ずるものとして、本条項の適用があると解されています。

しかし、本件は、土地建物について共有持分を有する個人が、その居住の用に供している家屋部分の敷地に相当する部分を分割取得し、これに代わる居住資産を取得するために、居住している家屋部分を取り壊し、分割取得した敷地を更地で譲渡したという事案で、本条項がそのまま妥当するケースではありません。このようなケースにも本条項が適用できるかが争点となりました。

裁判所の判断Ⅱ

裁判所は、本条項が規定された趣旨として、個人が自ら居住の用に供している家屋または敷地等を譲渡するような場合、代替の居住用財産を取得するのが通常であるなど一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、担税力も高くない例が多いことを考慮して設けた特例であると述べた上で、本件のような事案でも、居住する家屋または敷地等をこれに代わる居住用財産を取得するために譲渡するという点では同じであるとして、その適用を認めました。

コメント

税金の申告には、ときとして深刻な問題(節税できるか、加算税が課せられるか)に直面します。最近は国庫の財政も厳しくなり、税務署の徴税に対する態度も厳しくなったような気もします。本件のように専門家の意見を聞いても判断が微妙な場合には、やはり敗者復活戦が無難です。権利のために闘争することで道も開けます。諦めずに調べること、専門家に聞くことが勝利への第一歩です。本件では判決が確定しましたので、納税者の方もやれやれですね。

参考

判例時報2088号63頁
『同一建物に居住しその敷地を共有する者の間で、土地建物を分割し、一方が分割取得した建物部分を取り壊し、その敷地部分を第三者に譲渡した場合において、租税特別措置法35条1項の適用が認められた事例』(東京高裁平成22年7月15日判決)

top