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社会保険労務

令和元年11月6日

51.試用期間について

日本においては、新規学校卒業者等の採用の際、入社後一定期間を「試用期間」として、その間に労働者の人物・能力を評価して本採用するか否かを決定する制度を取り入れている企業が多く見られます。

試用期間については、「試用」なので特別理由がなくても退職させられる、とか、社会保険には当然加入しなくても良い、などと誤解されている方も多いと聞きますので、今回は、試用期間についてご説明したいと思います。

試用期間の法的性質

試用期間がどういう法的性質を有するかについては、後で述べる試用期間満了後の本採用拒否が有効か否かの判断基準に大きく関わります。この点については、次の最高裁判決(三菱樹脂事件 昭和48年12月12日)がリーディングケースとなっており、その後の裁判例も基本的にその判断を踏襲しています。

 
[事案の概要]

・Xは、新規学卒者としてY社に採用されたが、3カ月の試用期間の満了直前に、試用期間の満了とともに、本採用を拒否するとの告知を受けた。

・本採用を拒否する理由としては、採用試験の際に提出を求めた身上書に虚偽の記載があり、または記載すべき事項を秘匿した上で、面接試験での質問に対して虚偽の回答をしたことにあった。

・具体的には、学生時代に学生運動に関与していたことや、大学生協の役員歴があるという事実を秘匿していた。

[判断の要旨]

試用期間の性質は、就業規則の文言だけでなく、処遇の実情、事実上の慣行等を重視して個別具体的な解釈によるとした上で、本件では、①Y社の就業規則の規定の内容(採用直後の3カ月以内を見習期間として業務を見習わせ、3ヶ月経過後、本人の素行・健康・技能・勤怠などを審査したうえで本採用の可否を決定する、同期間は勤続年数に通算する、などの規定)、②これまで新卒採用者を試用期間終了後に本採用しなかった例がなかったこと、③本採用に当たって別段の契約書は作成せず、辞令を交付するにとどめていたことなどの事実関係を前提にすると、試用期間を設けた雇用契約は、解約権留保付の雇用契約であり、本採用拒否は雇入れ後における解雇に該当する

 

つまり、試用期間中であっても雇用契約自体は成立しており、ただ会社に解約できる権利が留保されているに過ぎないものである、と判断したことになります。

 

本採用拒否について

(1)上で述べたとおり、試用期間中であっても雇用契約は成立していますので、試用期間中に会社に来ないよう言い渡すこと、あるいは、試用期間満了後に本採用を拒否することはいずれも解雇に該当することになります。解雇であれば、14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をするか、解雇予告手当を支払うことが必要であるという手続的な制約だけでなく、解雇事由について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の行使が権利の濫用であるとして無効になります。

もっとも、上記最高裁判例では、採用決定の当初には、その者の資質・性格・能力などの適格性の有無に関連する事項につき資料を十分に収集することができないことから、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められると解釈しています。但し、無制限ではなく、雇用契約の締結に際しては、会社が個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあること、いったん試用期間を付した雇用関係に入った労働者は、会社との雇用関係の継続についての期待の下に、他の企業への就職の機会を放棄していることから、試用期間中の留保解約権に基づく解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許される、としています。

そのため、会社としては、当該労働者の適格性が欠如していることについて、具体的根拠(勤務成績や態度の不良等)を準備しておく必要があります。

(2)本採用拒否の理由としては、例えば、

・勤務成績の不良(出勤率・無断欠勤の回数など)

・業務の不適格性(勤務態度・接客態度など)

・言動の不適格性

・協調性の欠如

・経歴詐称

など様々考えられますが、いくつかポイントについてお話しします。

ア まず、試用期間中の解雇、例えば試用期間が3ヶ月の場合に1ヶ月目で解雇する場合には、従業員の適格性を判断する試用期間の満了をまたずに性急な判断で解雇したと判断される可能性があり、不当解雇と判断されるリスクが高くなります。

イ また、新卒採用者や未経験者については、最初から十分に業務が出来ないことは当想定されることですので、会社が必要な指導や教育を行わないまま、能力不足等を理由に本採用拒否しても不当であると判断されるリスクが高くなります。逆にいうと、指導や教育を行ったことを示すエビデンスをきちんと用意しておけば、適格性に欠けるという主張が通りやすくなります。試用期間は、従業員としての適格性を判断する期間であるとともに、教育期間でもありますので、指導書の交付状況や教育や研修の実施記録等は、書面としてきちんと残しておくようにしましょう

ウ 一方、他社で同種業務の経験がある者を採用した場合であっても、会社ごとに異なる業務内容や業務手順になじめず、また、就業環境が変わることですぐには結果が残せない場合がありうることから、業務の遂行方法自体に問題がないにもかかわらず、結果のみに着目して本採用拒否しても、不当であると判断されるリスクが高くなります。また、この場合も、業務内容や業務手順について適正な指導、教育・訓練を行わないと、十分な能力の発揮を期待できず、適正の見極めができないことに注意しましょう。

エ 但し、いずれの場合も、採用時に必要な資格や能力があると申告したのにその申告が虚偽であった場合や、協調性を欠き他の従業員とトラブルが頻出した場合には、本採用拒否が有効であると判断されています。

 

就業規則の規定例

試用期間を採用する場合の就業規則の規定例(厚生労働省のHPから抜粋)は次のとおりです。

 

(試用期間)

第〇条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から○か月間を試用期間とする。

2 前項について、会社が特に認めたときは、この期間を短縮し、又は設けないことがある。

3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、〇条(注:解雇予告に関する規定)に定める手続によって行う。

4 試用期間は、勤続年数に通算する。

 

(1)第1項に規定する試用期間の長さについて、法令上の制限は特になく、通常は1ヶ月ないし6ヶ月の範囲で設定し、3ヶ月とする例が一番多いようです。また、期限を定めない場合や、あまりにも長期間を定めた場合には、公序良俗(民法90条)違反となり無効となる可能性が高いです。

(2)また、試用期間を延長できるか否かについては、就業規則等に根拠があり、延長の必要性について合理的理由のある場合には認められるとされています。例えば、試用期間の満了時点で本採用しないと判断できるものの、その後の勤務状況によっては本採用しても良いと考えるような場合や、本採用には疑問が残るが、配置転換などの方策によって適格性を見出すためにさらに時間が必要な場合など、当該従業員にとって有利な取り扱いとなる場合は、比較的認められやすいといえます。

(3)第4項について、試用期間中であっても有効に労働契約が成立していることから、例えば年次有給休暇付与の要件を考える際、労働日として扱う必要がありますし、要件を満たす場合には雇用保険や社会保険にも加入させる必要があります。但し、退職金規程や永年勤続表彰など、会社独自の制度の中で、試用期間を算定の基礎としない扱いとすることは可能です。

 

有期雇用契約と試用期間について

最後に、労働者の適性を判断する趣旨で有期雇用契約を締結した場合と試用期間の関係について触れておきます。

この点について、リーディングケースとなる最高裁判決(神戸弘陵学園事件 平成2年6月5日)があります。

 
[事案の概要]

・Xは大学卒業後、Y学園に常勤講師として採用され、その面接の際、契約期間は一応1年とすること、1年間の勤務状態を見て再雇用するか否かの判定をすることなどの説明を受けた。

・雇用契約書には、1年の期限付の常勤講師として採用すること、期限満了の日に当然退職の効果を生じること、などが記載されていた。

・Y学園は、1年の期間の満了により契約が終了したと主張してXを継続雇用しなかった。

 
[判断の要旨]

使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。

 

つまり、形式的には有期雇用契約の形態をとっていたとしても、試用期間付の雇用契約であると判断される場合があるということに留意する必要があります。

なお、試用期間付の雇用契約ではなく、有期雇用契約であるとされる場合であっても、有期雇用契約の雇止めの規制(労働契約法19条)や、不合理な取扱いの禁止にかかる規制(労働契約法20条)がありますので注意して下さい(前者については、労務連載14を、後者については、労務連載44を参照して下さい)。

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