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社会保険労務判例フォローアップ

平成30年7月3日

22.同一労働同一賃金に関する判例⑥(長澤運輸及びハマキョウレックスの最高裁判決)

平成30年6月1日、本連載の第1回目及び第2回目でご紹介した長澤運輸事件と、ハマキョウレックス事件について、ついに最高裁判決が出ました。

今回はその内容についてご紹介いたします。

長澤運輸事件(※事案及び第一審、控訴審判決の概要については、こちらをご覧下さい。なお、最高裁の判決ではXらを「嘱託乗務員」と表現しています)

結論(下級審との相違)

控訴審ではY会社の主張を認め、すべての労働条件の相違は不合理ではないとしていましたが、本判決は、「精勤手当」及び精勤手当を算出の基礎とする「超勤手当」について、その相違が不合理であるとしました。

判決の要旨

本判決の要旨は、概要、以下のとおりです。

(1)労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうところ、本件の相違は、正社員と嘱託乗務員に適用される賃金規程等により定められていることによって生じているので、期間の定めの有無に関連して生じたものである。

(2)Xら嘱託乗務員と正社員とは、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)と、業務の都合により配置転換等を命じられる点でも違いはなく、当該職務の内容及び配置の変更において相違はない。

しかしながら、労働者の賃金に関する労働条件は、職務内容及び変更範囲により一義的に定まるのではなく、雇用及び人事に関する経営判断の観点から様々な事情を考慮して検討するものである。また、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられる部分も大きい。そして、労働契約法20条は「その他の事情」を挙げていることから、不合理性を判断する事情として、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではない。

Xらは定年後再雇用された者であるところ、定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は、当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくない一方で、定年退職後の有期労働契約による再雇用者は、当該労働者を長期間雇用することは通常予定されていない。また、再雇用者は、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。

よって、有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情である。

(3)労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合、労働条件の相違の不合理性を判断するにあたっては、個々の賃金項目の趣旨により、考慮すべき事情や考慮の仕方も異なる。よって、不合理性判断にあたっては、賃金の総額だけではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。

以下、具体的に検討する。

① 能率給及び職務給について

Xらの基本賃金の額は、定年退職時の基本給の額を上回っていること、嘱託乗務員に対しては歩合給を支給しているところ、その計算に用いる係数は、正社員の能率給に係る係数の約2倍から3倍に設定されていること、Y会社は組合との団体交渉を経て、嘱託乗務員の基本賃金を増額し、歩合給にかかる係数の一部を嘱託乗務員に有利に変更していることからすると、嘱託乗務員については、職務給を支給しない代わりに基本賃金の額を定年退職時の基本給の水準以上とすることで収入の安定に配慮するとともに、歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定することによって労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫しているということができる。

そして、嘱託乗務員の基本賃金及び歩合給と、正社員の基本給、能率給及び職務給を比較すると、前者の方が後者より少ないとはいえ、その差は2%~12%にとどまっている。また、嘱託乗務員は老齢厚生年金の支給を受けることができる上、労使交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始まで2万円の調整給が支給される

→ よって不合理とはいえない

② 精勤手当について

精勤手当は、従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨であるところ、嘱託乗務員と正社員では職務の内容が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に相違はなく、精勤手当は従業員の皆勤という事実に基づいて支給されるものである。

→ よって不合理である

③ 住宅手当及び家族手当について

住宅手当は従業員の住宅費の負担に対する補助として、家族手当は従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として支給されるところ、いずれも労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものである。

正社員は幅広い世代の労働者が存在し得、住宅費及び家族を扶養する為の生活費を補助することには相応の理由がある。他方、嘱託乗務員は、老齢厚生年金の支給が予定され、同年金の報酬比例部分の支給開始まで調整給が支給される

→ よって不合理ではない

④ 役付手当について

役付手当は、年功給や勤続給的性格のものではなく、正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものである

→ よって不合理ではない

⑤ 時間外手当と超勤手当について

正社員の超勤手当も嘱託乗務員の時間外手当もその計算方法で区別していないが、上記イのとおり正社員と嘱託乗務員とでは精勤手当の支給に差があるため、前者の計算の基礎には精勤手当が含まれる一方で後者の計算の基礎に精勤手当が含まれないことは不合理である

→ よって不合理である

⑥ 賞与について

賞与は、労務の対価の後払い、功労褒賞、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得る。嘱託乗務員は定年退職にあたり退職金の支給をうけるほか、老齢厚生年金の支給が予定され、同年金の報酬比例部分の支給開始まで2万円の調整給が支給される。また、嘱託乗務員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度になることが想定されるものであり、その賃金体系は嘱託乗務員の収入の安定に配慮しながら、労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫した内容になっている

→ よって不合理とはいえない

(4)労働契約法20条違反の効果について

当該有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と同一となるものではない。嘱託乗務員について、従業員規則とは別に嘱託社員規則を定め、賃金に関する労働条件は嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定めることとしており、両者には精勤手当の支給の有無等に相違があるので、正社員と同様の労働契約上の地位にあるものと解することは就業規則の合理的な解釈としても困難である。

 

コメント

本判決は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることや、同条の不合理性について、労働条件ごとに個別に判断すること、労働契約法20条違反の効果については、これまでの他の事案の裁判例と同様の判断を示しており、最高裁が改めてその点の判断を示したということは大きいでしょう。

また、控訴審と同様、労働契約法20条に規定している「その他の事情」についても、「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」と並列的にとらえた上で、Xらが定年後再雇用の有期契約労働者であるとして、老齢厚生年金の支給が予定されていること、調整給の支給があること、退職金の支給を受けていること、などを判断要素として考慮している点が一番の特徴であるといえます。

特に、賃金について各手当ごとに個別に判断するという手法は、本件の第一審及び控訴審では採用されていなかったため、各手当ごとに趣旨を踏まえた判断内容については、正社員と非正規社員の労働条件の相違を検討するにあたって大きな影響を与えることが予想され、また大変参考になります。

 

ハマキョウレックス事件(※事案及び第1審、第2審判決の概要については、こちらをご覧下さい)

 

結論(下級審との相違)

控訴審では、「無事故手当」「作業手当」「給食手当」「通勤手当」についての相違は不合理であると判断しましたが、本判決は、それらに加えて「皆勤手当」についても、その相違が不合理であるとしました。

 

判決の要旨

本判決の要旨は、概要、以下のとおりです。

(1)労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいい、「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。

(2)有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。また、正社員と契約社員に適用される就業規則が別個独立のものであることから、正社員の就業規則や給与規程の定めが契約社員に適用されることになるという解することも就業規則の合理的解釈としては困難である。

よって、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認及びそれを前提とする差額賃金の請求には理由がない。

(3)Y会社の正社員と契約社員は、職務の内容に違いはないが、職務の内容及び配置の変更の範囲については、出向を含む全国規模の広域異動の可能性、等級役職制度の設置、将来Y会社の中核を担う人材として登用される可能性があるか否かについて相違がある。

(4)住宅手当及び皆勤手当の相違について

① 住宅手当について

住宅手当は従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨であるところ、就業場所の変更が予定されていない契約社員に比べて、正社員は転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る

→ よって不合理とはいえない

② 皆勤手当について

Y会社が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから皆勤を奨励する趣旨で支給されるものと解されるところ、契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから、出勤する者を確保することの必要性に差異はない。また、その必要性は、出向の可能性やY会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。就業規則等によれば、契約社員は原則昇給しないとされており、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたといった事情もない。

→ よって不合理である

 

コメント

労働契約法20条をめぐる論点については、長澤運輸事件と殆ど同様です(長澤運輸事件判決とハマキョウレックス事件判決はともに平成30年6月1日に出されましたが、後者の方が前の時間に出たため、長澤運輸事件判決では、一部、ハマキョウレックス事件の判決が引用されている箇所があります)。

本判決は、住宅手当については同種の裁判例と同様に、不合理とは認められないとする一方で、皆勤手当の相違について不合理性を認定しています。控訴審の判断より広く不合理性を認めたものであり、その個別の判断内容について長澤運輸事件と併せて非常に参考になります。本件の「皆勤手当」と長澤運輸事件の「精勤手当」は同性質の手当であり、かかる手当の相違について最高裁が不合理であると判断したことの意味は大きいといえます。なお、平成28年12月20日に厚労省が発表した「同一労働同一賃金ガイドライン案」において、「精皆勤手当」は業務内容が同一であれば同一の支給をしなければならないとされていたため、本判決のように不合理性を認める判断が出ることもある程度予想されたところでした。

 

今回ご紹介した最高裁判決2件が同種事案に与える影響は極めて大きく、そこで言及された各手当については、今一度、正社員と非正規社員との相違を見直す必要があるでしょう。また、労働契約法20条に関する一定の争点については考え方や判断方法が定まってきたといえますが、一方で、他の論点(例えば「メトロコマース事件」や「日本郵便事件」で問題となった非正規社員と比較する正社員の範囲など)については未解決な問題もあり、今後も裁判所の判断を注視していく必要があります。

今回の連載はこれで一旦終了しますが、今後注目すべき裁判例が出てきましたらまたご紹介させていただきます。

参考

「長澤運輸事件」

平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件

平成30年6月1日 最高裁第二小法廷判決

「ハマキョウレックス事件」

平成28年(受)第2099,2100号 未払賃金等支払請求事件

平成30年6月1日 最高裁第二小法廷判決

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