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社会保険労務判例フォローアップ

令和5年3月24日

47.同一労働同一賃金に関する裁判例⑫(科学飼料研究所事件)

今回ご紹介する裁判例は、いわゆる同一労働同一賃金を規定する労働契約法20条違反が問題になった事例です。家族手当及び住宅手当にかかる労働条件の相違が不合理とされた一方で、賞与については不合理とは認められませんでした。また、無期契約労働者同士の労働条件の相違が同法違反の問題となるかが争われたという特徴もあります。

なお、同一労働同一賃金に関しては、これまでにもいくつか裁判例をご紹介していますので(例えばこちら)、ご参照ください。

 

事案の概要

Y会社は、飼料及び飼料添加物の製造及び販売等を目的とする株式会社であり、兵庫県たつの市にa工場を有している。
Xらは、Y会社と有期労働契約を締結して「嘱託」との名称の雇用形態により有期契約労働者として、又はY会社と無期労働契約を締結して「年俸社員」との名称の雇用形態により無期契約労働者としてa工場で現に勤務、又は勤務していた者である。
Y会社の雇用形態には、有期契約労働者である「嘱託」と、無期契約労働者である「社員」との区分があり、さらに「社員」には「年俸社員」との区分が存在していた。
それぞれの従業員について、以下の労働条件の相違があった。
支給項目 年俸社員以外の社員
(無期契約)
年俸社員
(無期契約)
嘱託社員
(有期契約)
家族手当 扶養家族を有する社員に支給
支給額は配偶者1万3000円、子ども3000円
なし なし
住宅手当 独立生計を営む社員で、一定の要件を満たしている場合に支給
一定の地域のうち家族(配偶者・子どもがいる者は9000円、独身者5000円
なし なし
昼食手当 一律1万7000円を支給 なし なし
賞与 原則として年2回支給、経営の状況により年度末賞与を支給 なし なし

本件は、上記の事実関係のもと、嘱託社員及び年俸社員と、無期契約労働者との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び昼食手当に相違があることは、労働契約法20条ないし民法90条(公序良俗)に違反しているなどと主張し、Y会社に対し、不法行為に基づく損害賠償として、本件手当等に係る賃金に相当する額及び遅延損害金の支払等を求めた事案です。

 

争点

本件の主な争点は、①嘱託社員に対する不法行為責任の有無、②年俸社員に対する不法行為責任の有無、です。その前提として、各労働条件の相違が労働契約法20条に違反するか否かが一番のポイントとなるところ、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、待遇者が不合理であってはならない(均衡待遇)と規定しています。

 

本判決の判断の要旨

Xらのうち嘱託社員に対する不法行為責任の有無について

(1)労働契約法20条のうち、

① 職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)について

まず、比較の対象は、a工場の製造課に所属する一般職コース社員と比較する。

Xら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも作業担当者である工程担当者として定型的な作業を行うことがあり、この点で同一の業務に従事していたと認められる。

一方、一般職コース社員には、工程管理責任者又は副工程管理責任者として、各工程の管理者としての業務に従事している者がおり、また、作業主任者として、危険を伴う一定の作業について、安全管理のための業務に従事している者がいた。加えて、一般職コース社員は、貸与されたOA機器を用いて、製造データの入力、在庫数量の確認等の業務に従事していたほか、トラブルの発生時には、その原因究明を行う等の業務にも従事していた。これらの業務を行う上で、一般職コース社員には、自らが担当する作業のみならず、工程全体に関する知識や判断能力まで求められていた。このような業務の内容や性質に加え、Y会社がガイドラインに基づき、工程管理責任者を設置していたことにも照らすと、製造課の一般職コース社員が従事する業務は、相応の責任を伴う職務として位置づけられていたということができる。

これに対して、Xら嘱託社員は、定型的な作業だけに従事しており、(副)工程管理責任者としての業務、作業主任者としての業務、OA機器を用いた業務に従事することはなく、また、トラブルの発生時において、その原因究明等を行うことまで求められていなかった。

これらの事情を総合すると、Xら嘱託社員と一般職コース社員との間には、その職務の内容に一定の相違があったと認められる。

② 職務の内容及び配置の変更の範囲について

一般職コース社員と嘱託社員は、いずれも転勤を伴う配置の転換を命じられることはないから、この点で、両社員の職務の内容等の範囲に相違>はなかった。

一方、一般職コース社員に相当する社員において、課を越えた異動が行われた例がこれまでに3件あった一方で、平成27年4月1日の人事制度の変更後、現在に至るまでの間に、一般職コース社員及び嘱託社員において、課を越えて異動をした者はいなかった。そうすると、a工場の一般職コース社員において、課を越えた異動が行われる可能性があったものの、その頻度は高くなかったといえる。

次に、経験を積んだ一般職コース社員は、その適性や能力に応じて、(副)工程管理責任者や作業主任者として選任され、その業務に従事することが予定されていたほか、一般職コース社員には本件人事考課規程が適用され、職能資格等級の昇格に伴い、最終的には管理職層の調査役として、人材のマネジメント業務を担うことまで一応想定されていた。

これに対して、Xら嘱託社員は、製造課で定型的な作業を行うことが想定されており、課を越えた異動が命じられることや、(副)工程管理責任者や作業主任者としての業務はもとより管理職層としての業務を担うことは想定されていなかった。

これらの事情を総合すると、Xら嘱託社員と一般職コース社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったと認められる。

③ その他の事情

ア 人材活用の仕組みについて

一般職コース社員には本件職能資格規程及び本件人事考課規程が適用され、一般職コース社員は、職能資格等級制度を通じて、段階的に職務遂行能力を向上させていくことが求められていたといえる。また、一般職コース社員は、本件人事考課規程に基づいて、目標面談を受け、人事考課を受ける必要があり、その結果は、職能資格等級の昇格選考に活用されていた。そして、一般職コース社員の業務は相応の責任や知識等を要する業務であることを踏まえると、Y会社においては、一般職コース社員について、人事考課制度を通じてその職務遂行能力の向上を図ることや、上記業務を遂行できる人材として長期的に育成していくことが予定されていたといえる。

これに対して、Xら嘱託社員に、本件職能資格規程や本件人事考課規程は適用されなかった。

そうすると、Xら嘱託社員と一般職コース社員では人材活用の仕組みが大きく異なっていたといえ、これは、労働条件の相違の不合理性の判断において考慮されるべき事情といえる。

イ 賃金体系の違いについて

一般職コース社員には本件給与規程が適用され、その基本給は、年齢給、職能給及び調整給から構成されていた。

一方、Xら嘱託社員には本件嘱託就業規則が適用され、その給与は年俸制とされていた。

このように、両社員の賃金体系は異なっていたところ、再雇用者を除くXら嘱託社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給の年間支給額と比較して、高い水準となっていた(このことは、一般職コース社員の基本給に昼食手当を加えた場合も同じである)。

ウ 登用制度について

Y会社では、一定の年齢制限と回数制限が設けられており、年齢制限によりその受験資格を得られなかった者がいたものの、嘱託社員から年俸社員へ、年俸社員から一般職コース社員への試験による登用制度が設けられていた

(2)以上を踏まえて、各労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か検討する。

① 賞与について

一般職コース社員に対する賞与は、基本給をベースに支給金額が決められていたことからすると、労務の対価の後払いや一律の功労報償との趣旨が含まれていたといえる。また、上記基本給は、年齢給、職能給及び調整給から成るところ、職能給は、職能資格等級に基づいて決定され、職能資格等級の昇格選考は、人事考課によって行われていた。このように、Y会社が支給する賞与は、人事考課の結果に連動し、また、年齢給や職能資格等級にも連動してその支給額が増えることになることに照らすと、その賞与には、労働意欲の向上を図るという趣旨や、一般職コース社員としての職務を遂行し得る人材を確保して、その定着を図るという趣旨が含まれていたといえる。

そして、一般職コース社員とXら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、そのため、両社員では人材活用の仕組みが異なっており、一般職コース社員については、職務遂行能力の向上が求められ、長期的な人材育成が予定されていたこと、また、両社員では賃金体系が異なっており、再雇用者を除くXら嘱託社員の年間支給額と比較すると、一般職コース社員の基本給の年間支給額は低く抑えられ、したがってこの点で月額の基本給も低いこと、定年後の再雇用者については、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されていることなどからすれば、その賃金が一定程度抑制されることもあり得ること、さらに、Y会社では嘱託社員から年俸社員に、年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられ、一定の登用実績もあり、嘱託社員としての雇用が必ずしも固定されたものではないことが認められる。以上の事情を総合すれば、Xら嘱託社員には賞与が一切支給されないことのほか、Xら嘱託社員についても賞与の算定期間中に労務を提供していることや、再雇用者を除くXら嘱託社員については継続的な雇用が想定されているといえることなどの事情をしん酌したとしても、一般職コース社員とXら嘱託社員との間に賞与に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。

したがって、一般職コース社員に対して賞与を支給する一方で、Xら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない

② 家族手当、住宅手当について

Y会社は、扶養家族を有する社員、又は住居費の負担のある社員に対して、家族手当又は住宅手当として、扶養家族や同居者等の属性に応じて、一律に一定の金額を支給するとしている。その支給要件や支給金額に照らすと、Y会社が支給する家族手当及び住宅手当は、従業員の生活費を補助するという趣旨によるものであったといえる。

そして、扶養者がいることで日常の生活費が増加するということは、Xら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはない。また、Xら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも転居を伴う異動の予定はされておらず、住居を持つことで住居費を要することになる点においても違いはないといえる。そうすると、家族手当及び住宅手当の趣旨は、Xら嘱託社員にも同様に妥当するということができ、このことは、その職務の内容等によって左右されることとはいえない。

また、確かに、現役社員については、幅広い世代の労働者が存在し、雇用が継続される中で、その生活様式が変化していく者が一定数いることが推測できるのに対し、再雇用者については、一定の年齢に達して定年退職をした者であるから、その後の長期雇用が想定されているとか、生活様式の変化が見込まれるといった事情が直ちに当たらない場合があると解される。しかし他方で、住居を構えることや、扶養家族を養うことでその支出が増加するという事情は再雇用者にも同様に当てはまる上、再雇用者になると、その基本月額は相当な割合で引き下げられる一方で、Y会社において上記各手当に代わり得る具体的な支給がされていたといった事情は窺われない

これらの事情に照らすと、再雇用者を含め、Xら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を全く支給しないことは、不合理であると評価することができる。

したがって、一般職コース社員に対して家族手当及び住宅手当を支給する一方で、Xら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると認められる

③ 昼食手当について

Y会社における昼食手当の金額は、過去に全国一律かつ相当幅による増額がされてきた等の経緯に加え、賞与のベースとされていないことにも照らすと、Y会社が支給している昼食手当は、当初は従業員の食事に係る補助との趣旨として支給されていたとしても、その後、月額給与額を調整する趣旨で支給されていたと認められる。

そして、一般職コース社員とXら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、両社員では人材活用の仕組みが異なっていること、また、両社員では賃金体系が異なっており、一般職コース社員の月額の基本給は、昼食手当を加えてもXら嘱託社員の月額支給額より低いこと、さらに、Y会社では登用制度が設けられていることなどの事情が認められ、これらの事情を総合すれば、昼食手当との名称や、Xら嘱託社員には同手当が一切支給されないことなどをしん酌しても、一般職コース社員とXら嘱託社員との間に上記趣旨を持つ昼食手当に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。

したがって、一般職コース社員に対して昼食手当を支給する一方で、Xら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。

(3)以上によれば、Y会社がXら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を支給しないことは、労働契約法20条に違反するといえる。そして、同条が平成25年4月1日に施行されるに至っていたことからすれば、Y会社がこのような違法な取扱いを行ったことについては、少なくとも過失のあることが認められる。

したがって、Y会社は、Xら嘱託社員に対し、この範囲において、不法行為責任を負う。

Xらのうち年俸社員に対する不法行為責任の有無について

労働契約法20条の文言に照らすと、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理であることを禁止する規定であることは明らかであり、また、雇止めに対する不安がないなどの点において、有期契約労働者と無期契約労働者では雇用契約上の地位が異なっていること等に鑑みると、無期契約労働者間の労働条件の相違について同条を類推適用することは困難である。そのため、無期契約労働者間の労働条件の相違について、同条と同じ枠組みによりその違法性の有無を判断することは相当でないというべきである。

そして、①一般職コース社員とXら年俸社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、したがって、両社員の間に人材活用の仕組みや賃金体系等に違いを設けることが不合理であるとはいえないこと、②Xらは、Y会社から賃金等の労働条件について必要な説明を受けた上で雇用契約を締結したといえること、③Xら年俸社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給及び本件手当等の年間支給額と比較して、極端に低い金額とはいえないこと、④年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられていることなどの事情から、労働契約法3条2項が「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めていることや、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する規定ではあるが、同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らし、無期契約労働者の労働条件においても均衡待遇の理念が働くことを踏まえたとしても、本件事実関係において、上記労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容であるとまで評価することはできない。したがって、当該労働条件の相違を設けたことが、公序良俗に違反するとか、不法行為を構成すると認めることはできない。

以上によれば、Y会社がXら年俸社員に対して不法行為責任を負うとは認められない。

コメント

まず、本件において、Xら嘱託社員が待遇差の不合理性の判断対象として主張したのは、一般職コース社員のうち職能資格等級が4等級の社員でしたが、裁判所は、広く一般職コース社員が対象であるとしました。Xらが特定した対象との比較を採用しなかったという点で、メトロコマース事件や大阪医科薬科大学事件(こちら)を参照)の最高裁判決とは異なる判断ですが、職能資格規程の内容や実態に基づく事例判断ですので、会社としては、職務内容あるいは事業場ごとに労働条件の設定を異ならせている(言い換えれば適用される就業規則等が異なる)場合には、特定の正社員を対象として、待遇差の不合理性を訴えられる可能性が高まるという点で注意が必要なことは変わりません。ただ、従業員による比較対象範囲の主張が合理的でないことを説明できれば、その主張が採用されない可能性のあることを示したという意味では会社にとって意義があります。

また、有期契約労働者の従業員同士で待遇差に相違がある場合に、労働契約法20条の適用がないとの判断もされました。但し、有期契約労働者であっても、契約期間が更新により通算5年を超えた場合には無期転換により無期契約労働者になる可能性がありますし、本判決も考慮しているように、労働契約法3条2項等が問題になる可能性もありますので、有期契約労働者間の労働条件の相違にも配慮が必要です。

労働契約法20条を判断する3つの要素(①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情)のうち、③その他の事情として、本判決では、人材活用の仕組み、賃金体系の違い及び登用制度を考慮しています。その判断要素と判断手法は参考になります。

そして、各手当や賞与について、制度の趣旨も考慮した上で、3つの要素に基づき、労働条件の相違に不合理性が認められるか否かを丁寧に分析して判断しています。

本判決では、賞与の格差について不合理性は認められませんでした。しかし、今回の判例で、賞与について正社員と非正規社員との間で差を設けても問題ないというお墨付きが与えられたわけでは決してない点はメトロコマース事件最高裁判決と同様です。

また、家族手当及び住宅手当については、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであるとの理由で、比較的待遇差の不合理性が認められる傾向にある手当ですが、本判決では不合理性が認められました。実際には正社員の転勤が予定されていないことなど実態を重視したものと思われます。各手当の趣旨そのものだけでなく、趣旨通りに運用されているかの実態も確認しておくことが重要であるといえます。

参考

平成29年(ワ)第151号 格差是正損害賠償請求事件

令和3年3月22日 神戸地裁姫路支部判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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