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税務判例フォローアップ

平成29年8月16日

30.「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは何か?これに基づき、過年度の損失を当期の損金に算入できるか。

事案の概要

X社は、小型貨物自動車道送業を営んでいました。

平成21年3月期(以下、「本事業年度」といいます。)の法人税について、A社に対する過年度分外注費980万2,260円(以下、「本体外注費」といいます。)を損金の額に算入して確定申告をしました。

また、本事業年度を課税期間とする消費税等について、本件外注費に係る消費税相当額につき課税仕入れに係る消費税額の控除(以下、「仕入税額控除」といいます。)をして確定申告をました。

ところが、税務署長は、本事業年度分法人税につき、本件外注費は損金の額に算入できない、同消費税につき、仕入税額控除をすることはできないといして、各更正処分等(以下「本件各更正処分等」といいます。)を行いました。

これに対し、Xは、本件各更正処分について違法であるとし、それぞれ、国に対し、処分の取消しを求めて本訴を提起しました。

 

(本事業年度の元帳の記載)

 

外注勘定

日付 相手科目 伝票 借方 貸方 元帳摘要
H21.3.31 前期損益修正損 〇〇 9,802,260円   H13計上漏れA社
 

法人税及び消費税等に係る処分:

更正処分

過少申告加算税賦課処分

 

双方の主張

X:過年度(平成13年度)の外注費として計上すべきところを、何らかの原因により外注費の計上漏れが生じた場合、計上漏れを認識した事業年度(平成21年度)の前期損益修正項目として費用計上する処理についても企業会計上の会計慣行として広く受け入れられ、確立している。

国:事実誤認による計上漏れについて、それが判明した決算期に前期損益修正として会計上処理することが慣行として広く受け入れられているとしても、これを公正処理基準に該当するものとして認めることはできない。

法人税法は、企業会計を尊重するとしても、過年度の課税所得に計算誤りがあった場合には、修正申告や更正処分(更正の請求に基づくものを含む。)によって遡及して修正することを制度的に予定している。

   

裁判所の判断

(1) 前期損益修正は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」ではない。

法人の各事業年度の所得の金額は、その事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とし(法人税法22条1項)、売上原価等及び販管費等に係る損金の計算方法が規定され、損金の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものとしているところ(同法22条4項)、現に法人のした収益等の額の計算が、法人税の適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的(同法1条参照)とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限り、法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認する趣旨(最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)と解される。

前期損益修正の処理を法人税法上も是認することで、計上漏れを後の事業年度で計上を許せば、同一の費用や損失を複数の事業年度で計上が可能となり、恣意の介在する余地が生じることとなり、事実に即して合理的に計算されているともいえず、公平な所得計算を行うべきであるという法人税法上の要請に反する。

(2) 法人税法22条3項へのアテハメ

Xの平成21年3月期の総勘定元帳には、平成12年11月から平成13年10月までの間になされた本件外注費が計上されている。したがって、本件外注費は、平成21年3月期において、その事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(法人税法22条3項1号)に該当するということはできない。

(3) 消費税法30条1項へのアテハメ

Xが平成21年3月課税期間において本件外注費に係る消費税額を控除するためには、本件外注費に係る課税仕入れを行った日が同期間に属することが必要であると解されるところ、上記の通り、その対象外なので、仕入税額控除は認められない。

 

コメント

本件は、過去の計上漏れを当期に計上した(前期損益修正損(特別損失))ところ、法人所得の計算上、その費用または損失が発生した事業年度に帰属させるべきとした裁判例です。前期損益修正の処理が、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に入らないことについて、特に解釈上の争いはない、むしろ、実務としては定着した解釈の部類に入るものです。

 

問題は、法人税法と「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」との関係を意識することにあります。法人税法上の所得の計算は、経理処理、仕訳入力に携わっている人において周知のとおり、会計上のルールに従って計算されています。法人税法上の所得は、基本的に投資家のための会計基準に依拠しながら、今度は、税法上の所得、つまり、課税の公平の要請の下に、その原則は譲歩させられ、修正がかけられます。法人税法上または租税特別措置法等の租税法令により、明文の規定で、会計の原則が修正されているのであれば、判断に迷うことはありませんが、それを補充する通達でもはっきりしていないことがあります。例えば、本件で問題になった前期損益修正のうち、当期より前の売買が当期に解除、取消し、値引、返品等された場合は、その損失額は、当期の損金の額に算入すべしとしています(2―2―16)。しかし、計上漏れによる前期損益修正損については、明言していません。

それだけでなく、そもそも、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の候補となる会計基準とは何かもわかりにくいものです。会社法では、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社法431条)といい、その下位法である会社法計算規則では、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」、「その他の企業会計の慣行」を「斟酌」して、会計規定を適用すべきとしています(会社計算規則3条)。さらに、中小企業に対して、中小指針、中小会計要領と新たなルールが提言されています。これらのルールは、企業の属性に応じて、階層構造として適用されるものです。これらの階層的なルールのうちどこまでが、修正されずに、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」として、法人税法上の基準として、生き残れるかの問題なのです。法人税法と商法(後に、会社法)、企業会計の三者の関係は、三位一体関係とか、トライアングル体制として長年議論されていますが、決着はしていません。

ちなみに、本件のように費用・損失の計算方法ではなく、収益の計算方法に関して、リーディングケースがあります。船荷証券が発行されている商品の輸出取引による収益を船積みの時点で計上する会計処理(船積日基準)だけでなく、取引銀行による荷為替手形の買取りの時点で計上する会計処理(荷為替取組日基準)が、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に当たるかが争点になった事件でした。判決は、これを認めませんでしたが、5人中2名の裁判官は、これも認容すべきとして、2人の裁判官が反対意見を書いています(平成5年11月25日最高栽第一小法廷判決)。その分かれ目は、取引銀行の荷為替手形の買取を買主の引渡義務としてとらえるか、否かの違いにありました。

なお、平成23年4月1日以降は、過年度遡及会計基準が適用されています。この基準に従えば、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正しません。よって、過去の計上漏れによる損益は、当期の損益計算には影響しなくなりました(注)。となれば、本件で争われた前期損益修正損益が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」か否かは論点にならなくなったものと思われます。もっとも、中小企業については、中小会要領において上記基準の適用までは求められていません(法人において、前期以前の経理上の誤謬が発見された場合どうするか?参照

いずれにしても、昭和42年の税制改正において、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が導入された際、その判断は判例の積み重ねによって明確にされていくべきものと、立法当局が示唆したとおり、古くて新しい論点です。

 

もっとも、重要性の判断に基づき、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われるという意味では、争点になり得ます。

事例

法人税更正処分等取消請求事件

東京地裁平成25年(行ウ)第676号

東京地方裁判所平成27年9月25日判決(棄却)

わかりやすくするため、事案を簡略化しております。

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