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社会保険労務

令和3年7月7日

67.副業・兼業の労務管理 ①

以前、令和2年の労働保険の改正に関して、複数就業者等に対するセーフティネットの整備等に関する改正についてお話ししました(詳細はこちらをご覧ください)。

その中で解説したように、複数就業者について、労災保険給付の改善(給付額の充実と補償対象の見直し)が図られたこと、65歳以上の複数就業者について雇用保険加入の特例が認められるようになったことから、副業・兼業の障壁が徐々に解消される方向にあります。厚生労働省も昨年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、複数就業者に対する労務管理の在り方を提言するなど、今後、副業・兼業促進の動きはますます加速していくことが予想されます。

そこで、今回は、副業・兼業を認める際の労務管理について、お話しします。

 

副業と兼業について、法律上その違いを区分するような定義があるわけではありません。ガイドラインにおいても、副業・兼業をあわせて、単に2つ以上の仕事を掛け持つという意味で使用しています。企業に雇用される形で行うもの(正社員、パート・アルバイトなど)、自ら起業して事業主として行うもの、請負や委任といったかたちで行うものなど様々な形態が想定されます。

会社としては、従業員に対して副業・兼業を必ず認めなければならないものではありません。むしろ、従業員に職務に専念してもらいたい、自社の秘密情報が洩れるのではないかといった考えから、副業・兼業を認めたくない会社もあろうかと思います。

しかしながら、前で述べたとおり、副業・兼業の障壁を解消する方向で法改正が進んでおり、従業員としても、単純に収入が増えるというメリット以外にも、別の仕事でスキルや経験を得ることで主体的にキャリア形成ができるなど、自分に合った働き方を探ることができ、多様な働き方への期待が高まっている状況にあります。一方、会社にとっても、従業員が自社では得られない知識、スキル、情報、人脈を得ることで業務遂行の質の向上や事業機会の拡大につながる可能性があること、従業員の自律性・自主性を促すことができること、ニーズに合った働き方ができる環境を提供することで従業員の定着率が向上し、優秀な人材の獲得、流出の防止が期待できることなど、副業・兼業を認めることのメリットが考えられます。

そもそも従業員が自社の労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由です。裁判例を見ても、「労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮した上で、(兼業を)会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは」良い(小川建設事件 東京地裁昭和57年11月19日)とする一方で、実際に会社に対する支障等がない場合は、副業・兼業禁止に違反した従業員に対する処分を無効としたり、慰謝料請求を認める裁判例も少なくありません

この機会に、一度、副業・兼業の可否について見直してみてはいかがでしょうか。

 

副業・兼業を認めるために必要なこと

(1)従業員に副業・兼業を認める場合、就業時間が長くなる可能性があるため、労働時間管理、健康管理がとても重要になります。

働き方改革の中で、勤務間インターバルの確保が求められており(詳細はこちらを参照)、勤務時間以外はまとまった休息時間にあてた方が良い場合もあります。副業・兼業の導入、採用方法については、労使間で十分な検討・協議を行うことが必要です。なお、協議の際は、従業員の私生活への過度な干渉にならないように注意しましょう。

 

(2)副業・兼業を導入することが決まれば、就業規則等の整備が必要です。従業員が副業・兼業を行う場合は、届出制とした上で、例外的に副業・兼業を禁止できる場合を規定しておくことが考えられます。

参考までに、厚生労働省のモデル就業規則は以下のとおりです。

(副業・兼業)

第〇条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

裁判例を見ると、上記のモデル就業規則の2項に挙げたような内容の場合に、会社の制限が許される傾向にありますので、各号に該当すると判断した場合は、副業・兼業を禁止したり、従わない従業員に対して何らかの処分を行うことも正当化され得るといえます。なお、モデル就業規則では、〇〇がある場合、〇〇する場合となっていますが、これらのおそれがある段階で禁止又は制限ができると思います。ただし、拡大解釈しての運用は避ける必要があります。例えば、①の労務提供上の支障がある場合とは、労働基準法でいう時間外労働の上限規制(時間外労働及び休日労働の合計時間数について、1か月100時間未満及び2~6か月平均80時間以内とすること、詳細はこちらを参照)や、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(例えばトラック運転手の場合、1か月の拘束時間は原則293時間が限度であり、1日の拘束時間は基本13時間など)などが判断の目安になるかと思います。

(3)従業員の副業・兼業について届出制とした場合に、どのような事項を届け出させるかが重要です。

届出の中で、以下の事項について確認するための仕組みを設けることが望ましいといえます。

・他の使用者の事業場の事業内容

・他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容

・他の使用者との労働契約の締結日、期間

・他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻

・他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数

・他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続き

・これらの事項について確認を行う頻度

これらの事項は、兼業・副業の禁止又は制限自由に該当するか否かの判断を行う上でも重要ですが、従業員の労働時間管理という意味でも大変重要です。つまり、従業員に時間外労働が発生する可能性があるか否か、その場合、どちらの会社に時間外労働が発生するのか(どちらの会社が時間外労働の割増賃金を支払う必要があるのか)を判断する必要があります。

副業・兼業を行う従業員の労働時間の通算方法は、原則的な方法と、簡便な労働時間管理に基づく方法の2種類があります。次回は、その内容についてお話します。

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