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社会保険労務判例フォローアップ

令和元年7月14日

26.同一労働同一賃金に関する判例⑧ 大阪医科薬科大学事件判決

今回は、同一労働同一賃金に関する裁判例を1つご紹介します。

第一審では、原告の請求はすべて退けられましたが、控訴審では、特定の労働条件の待遇差が不合理であるとして、原告の請求が一部認められました。特に、他の裁判例ではなかなか認められなかった賞与の待遇差の不合理性が認められた点が特筆すべき点です。

その他の労働条件ごとの判断も参考になりますし、また、有期契約労働者と比較対照とする無期契約労働者の範囲について、前回ご紹介したメトロコマース事件控訴審判決とは異なる判断をしている点も要注目ですので、今回、ご紹介いたします。

事案の概要

Y社は、大学、付属病院、クリニック等を運営する学校法人である。
Xは、Y社との間で、平成25年1月29日、有期雇用契約を締結し、アルバイト職員として、雇用契約の更新(契約期間1年)を繰り返していた。
Xは、Y社において、大学の薬理学教室の教室事務員として就労していた。
Y社の職員は、当時、正職員、契約職員、アルバイト職員、嘱託職員の4種類が存在し、そのうち、雇用期間の定めない職員は正職員のみであった。
 また、Y社の全職員数は約2600名であり、事務系の職員については、正職員が約200名、契約職員が約40名、アルバイト職員が約150名、嘱託職員は10名弱であった。
Y社における正職員(期間の定めなし)及びアルバイト職員(期間の定めあり)の賃金等に関する相違は以下のとおり
支給項目 正職員(期間の定めなし) アルバイト職員(期間の定めあり)
本給

月給制(新規採用でも月額19万2570円) 時給制(時給が1000円に満たないこともある)
年末年始及び創立記念日 休日であるが賃金額に影響なし 休日である分、賃金が減少
賞与 年2回支給あり なし
年次有給休暇 採用後6ヶ月経過後に10日
採用後1年を経過した職員には年末までの間、採用月に応じて1ないし14日
同期間を勤務した職員は翌年に16日、翌々年に18日が付与される
労働基準法所定の日数が付与
夏期特別有給休暇 毎年7月1日から9月30日までの間に5日間付与される なし
業務上の疾病による欠勤中の賃金 6ヶ月間は賃金全額、6ヶ月経過後は休職給として標準賃金の2割が支給
欠勤時でも私学共済の加入資格を失わない
欠勤中の賃金補償なし
欠勤時は私学共済の加入資格を失う
附属病院の医療費補助措置 月額4000円を上限として医療費の補助が受けられる なし

上記の事実関係のもと、XがY社に対し、不法行為に基づき、正職員との間における、基本給、賞与等、上記労働条件の相違に基づく差額等1270万円余りの損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求めたという事案です。

争点

本件の主な争点は、各労働条件の相違に関する労働契約法20条違反の有無です。

Xは、上記「事案の概要」で述べた正社員と契約社員との労働条件の相違のうち、①本給、②賞与、③年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、④年次有給休暇の日数、⑤夏期特別休暇、⑥私傷病による欠勤、⑦附属病院受診に対する医療費補助のそれぞれについて不合理な格差である旨を主張していたところ、第一審では、すべて不合理ではないとしてXの請求を認めませんでした。一方、控訴審では、②、⑤、⑥の相違について、労働契約法20条に違反するものと判断しました。

本判決の判断

労働契約法20条が労働条件の相違の不合理性を判断する際に考慮する事情として挙げる「その他の事情」について、職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない、としました。

 

次に、比較対照とすべき正職員の範囲について、Xは、教室事務員である正職員と比較対照すべきと主張しましたが、第一審は、Y社において、正職員の教室事務員は他の部門に配置転換される可能性があり、その労働条件は、正職員全体の平均的な労務提供の内容を踏まえて設定されていることから、有期雇用職員(アルバイト職員)である原告と無期雇用職員である被告の正職員全体を比較対照するのが相当であるとしました。

控訴審でも同様の理由を挙げるとともに、有期契約労働者の比較対象となる無期契約労働者は、同一の使用者と同一の労働条件の下で期間の定めのない労働契約を締結している労働者全体と解すべきであるとし、比較対象者は客観的に定まるもので、有期契約労働者側が選択できる性質のものではない、と判示しました。

 

各労働条件に関する不合理性についての判断は以下のとおりです。

(1)賃金(本給)

第一審では、ⅰ)正職員とアルバイト職員の職務の内容や異動の範囲が異なること、ⅱ)正職員の賃金は一定の能力を有することを前提として職能給の性質を有するのに対し、アルバイト職員の賃金は特定の業務をすることを前提とする職務給の性質を有しており、いずれの賃金の定め方にも合理性があるといえること、ⅲ)アルバイト職員については、正職員として就労する方法がないわけではなく、労働者の努力や能力によってその相違の克服が可能であること、ⅳ)本件におけるXの賃金は、平成25年度新規採用正職員の賞与も含めた年間の総支給額と比較すると、Xの主張によっても約55パーセント程度の水準であり、相違の程度は一定の範囲に収まっていることを総合的に勘案すれば、不合理な労働条件の相違であるとまでは認められない、としました。

控訴審も概ね同様の理由を挙げた上で、正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も、配転の可能性も、採用に際し求められる能力にも相当の相違があることを指摘した上で、正職員とアルバイト職員で賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえず、本件でその相違は約2割にとどまっていることから、不合理とはいえないと判断しました。

(2)賞与

第一審では、長期雇用が想定され、かつ、一定の責任ある職務内容等を担っている正職員に対するインセンティブがアルバイト職員については想定できない上、アルバイト職員は雇用期間が一定ではなく、賞与算定期間の設定等が困難であるといった事情に、透明性や公平感の確保という観点をも併せ鑑みれば、有期雇用労働者に対しては、完全時給制で労働時間に応じて賃金を支払う方が合理的であるとし、また、月額賃金と賞与を合わせた年間の総支給額で比較しても、アルバイト職員は正職員の約55パーセント程度の水準であって、相違の程度は一定の範囲に収まっている、として正職員にのみ賞与を支給することを不合理とは認めませんでした。

一方、控訴審では、賞与は、月例賃金とは別に支給される一時金であり、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものであるところ、正職員に対して支給されていた賞与は、通年で概ね基本給の4.6か月分の額であったことが認められ、賞与の支給額は、基本給にのみ連動するものであって、当該従業員の年齢や成績に連動するものではなく、被控訴人の業績にも一切連動していないことから、Y社における賞与は、正職員としてY社に一定期間就労していたこと自体に対する対価としての性質を有するものというほかなく、賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である、と判示しました。その上で、同様にY社に在籍し就労していたアルバイト職員について、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない、と判断しています。

もっとも、Y社の賞与には、功労や長期就労への誘因という趣旨が含まれており、使用者の経営判断を尊重すべき面があること、また、正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから、アルバイト職員の賞与算定期間における功労が相対的に低いことは否めないとして、正職員と同額の賞与を支給する必要まではなく、正職員の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合に、不合理な相違に至るものというべきであるとしました。

(3)年末年始や創立記念日の休日における賃金支給

かかる相違については、前記(1)のとおり、正職員とアルバイト職員とで賃金体系を異ならせること自体は不合理ではない以上、その賃金制度の違いから必然的に生じるものであって、不合理ではないと判断しました。

(4)年次有給休暇の日数

正職員に関しては、Y社において長期にわたり継続して就労することが想定されていることに照らし、年休手続の省力化や事務の簡便化を図るという点からかかる制度を採用しており、一方、アルバイト職員については、雇用期間が一定しておらず、また、更新の有無についても画一的とはいえない上、必ずしも長期間継続した就労が想定されているとは限らず、年休付与日を特定の日に調整する必然性に乏しいことから、個別に年休の日数を計算するものとしたと考えられる。このように、正職員とアルバイト職員との間における年休日数の算定方法の相違については、一定の根拠がある上、その結果として付与される年休の相違の日数は、原告の計算においても1日であるという点をも併せ鑑みると、かかる相違が不合理であるとまではいえない、と判断しました。

(5)夏期特別休暇

第一審は、正職員は、フルタイムでの長期にわたる継続雇用を前提としており、正職員の年間の時間外労働数がXより170時間以上長いという就労実態を踏まえると、正職員に対して、1年に一度、夏期に5日間のまとまった有給休暇を付与し、心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められ、他方、アルバイト職員については、その労働条件や就労実態に照らしても、これらの必要性があるとは認め難い、と判断し、両者の待遇差は不合理ではないとしました。

これに対し、控訴審では、日本の蒸し暑い夏の時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく、休暇を付与し、心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められること、また、いわゆる旧盆の時期には、お盆の行事等で多くの国民が帰省し、子供が夏休みであることから家族旅行に出かけることも多く、官公署や企業が夏期の特別休暇制度を設けていることも、公知の事実であること、アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は、職務の違いや多少の労働時間(時間外勤務を含む)の相違はあるにせよ、夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くないことから、少なくとも、Xのようにフルタイムで勤務するアルバイト職員に対し、正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは、不合理であるというほかない、と判断しました。

(6)私傷病による欠勤

第一審は、本来支払義務のない私傷病による欠勤の場合に、正職員に対して一定の賃金や休職給を支払う旨を定める趣旨は、正職員として長期にわたり継続して就労をしてきた貢献に対する評価や、定年までの長期継続した就労を通じて、今後長期にわたって企業に貢献することが期待されることを踏まえ、正職員の生活に対する生活保障を図る点にあるとし、一方、契約期間が最長でも1年間であり就労実態等が異なるアルバイト職員に対して待遇差を設けることは、不合理ではない、と判断しました。

一方、控訴審は、本制度の趣旨は第一審と同様に捉えながらも、アルバイト職員も契約期間の更新がされることで一定期間の継続した就労がありえること、フルタイムで一定の習熟をした者については、Y社の職務に対する貢献の度合いもそれなりに存すること、そのようなアルバイト職員には生活保障の必要性があることも否定し難いことから、アルバイト職員であるというだけで、一律に私傷病による欠勤中の賃金支給や休職給の支給を行わないことには、合理性があるとはいい難い、と判断しました。

(7)附属病院受診に対する医療費補助について

医療費補助制度は、Y社との関係性を考慮して、一定の範囲の者の医療費を肩代わりする制度として形成されてきたものであり、労働条件として発展してきたものではない、などといった理由から、飽くまでも恩恵的な措置というべきであって、雇用契約それ自体から当然に認められるものであるとまでは認め難いものであり、その適用範囲について、Y社に広範な裁量が認められるものであると解するのが相当であるとしました。その上で、アルバイト職員の職務内容等からすると、アルバイト職員に対して同制度を適用しないという運用が、Y社の裁量権を逸脱又は濫用しているとまでは認められない、と判断しました。

以上より、本判決では、賞与と夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中に賃金及び休職給に関する待遇差を不合理とし、弁護士費用を含め、109万余りの請求を認めました。

コメント

労働契約法20条の一般的な考え方については、平成30年6月1日の最高裁判決の考え方をほぼ踏襲していますので、こちらをご参照下さい。

 

有期契約労働者と比較対照すべき無期契約労働者の範囲について、前回ご紹介したメトロコマース事件控訴審判決では、不合理性を主張する側が特定して主張すれば、裁判所はそれを前提に判断すれば良いとし、労働者側にとって有利な判断がされましたが、本判決では、比較対象者は客観的に定まるものであって、有期契約労働者側が選択できる性質のものではないとして、Xの主張する特定の業務を行う正職員と比較対照することは認めませんでした。

このあたりは、正社員の配置転換がなされる範囲、労働条件の設定がどの職務内容の範囲で決定されるか、などの個別事情によって左右されるものと思われます。職務内容あるいは事業場ごとに労働条件の設定を異ならせている(言い換えれば適用される就業規則等が異なる)場合には、特定の正社員を対象として、待遇差の不合理性を訴えられる可能性が高まるという点で注意が必要でしょう。

 

本判決は、賞与の待遇差の不合理性を認めたという点に特徴があります。従来の裁判例では、賞与が功労報償的な性格や将来の労働への意欲向上としての意味合いも持つことから、長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上の目的にも一定の合理性が認められるとして、賞与の待遇差が不合理であると認められることはほとんどありませんでした(メトロコマース事件、日本郵便事件)。

しかし、平成30年12月28日に出た「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドラインでは、賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、 通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならず、また、貢献に一 定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない、と記載されていることから、かかるガイドラインに沿って、賞与に関して待遇差を不合理とする裁判例が増えていく可能性があります。

本件では、賞与の待遇差が不合理であることについて、賞与の性質とともに、支給額の算定方法について、成績や業績に連動するものではなく、一定期間就労していたことに基づくものであることが、大きな理由となっています。賞与の算定方法をどのように設定しているか、今一度見直しておく必要があるでしょう。

なお、賞与の待遇差の不合理性判断にあたっては、正社員の賞与に変わる何らかの手当(臨時手当等)が有期雇用労働者に対して支給されているかといった実態も大きな判断要素になっていることにも留意が必要です。

前回ご紹介したメトロコマース控訴審判決では、退職金の待遇差について不合理性がはじめて認められたとご紹介しました。それに加えて、今後は賞与についても予断を許さない状況になってきたように感じます。

 

さらに、本件では、夏期特別有給休暇の待遇差も不合理とされてました。

この点、日本郵便事件において、夏期冬期休暇及び病気休暇についても不合理性が認められています。

休暇は、その制度を設けた趣旨が有期雇用労働者にも無期雇用労働者にも妥当する場合には、待遇差を設けることが不合理であると判断されやすいので、注意が必要です。

参考

平成30年(ネ)第406号 地位確認等請求控訴事件

平成31年2月15日 大阪高裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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