まず、労働時間についての正確な理解が必要です。
労働基準法上、1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて(ともに休憩時間は除きます)労働させてはならない(この時間を「法定労働時間」といいます)、と規定されています。なお、従業員9人以下の介護事業所の場合は「特例措置対象事業所」として、1週44時間まで労働させることができます。
そして、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下におかれていると客観的に評価できる時間」です。従って、誤解されている事業者の方も多いと思いますが、参加が強制される研修の時間や、制服着用が義務づけられている場合の更衣時間、業務上義務づけられている業務報告書の作成時間なども労働時間に該当することになりますので、注意が必要です。また、ヘルパーの方の移動時間も問題になりますが、完全な自由が保障されていない移動時間(例えば、業務命令に基づき、事業所と利用者宅を移動する時間など)も基本的に労働時間に含まれると考えられます。
法定労働時間以上働いてもらう場合は、「時間外・休日労働に関する協定」(いわゆる36協定)を労働基準監督署に提出する必要があります。これは意外と提出していない事業者の方も多いですが、必ず提出しておきましょう。提出しないと法定労働時間外残業を労働者に課した場合、労基法違反で刑罰を科せられることになります。
また、時間外労働に応じて割増賃金を支払うことも忘れてはなりません。
つぎに、介護サービスの業務態様ごとに労働時間の管理の方法を検討してみましょう。
訪問介護事業
訪問介護の場合、早朝や深夜勤務のケアが入ることが多いため長時間拘束になりやすく、サービス残業の温床となります。よって、この業態は、労働者との間でトラブルが起きやすく、ゆえに、労働基準監督署に目を付けられやすい業態であるということを念頭に入れておきましょう。
また、訪問介護の場合などは利用者の都合により労働時間が左右されるため、労働時間が予め予想しづらく、1日12時間、16時間といった変則的な就労が頻繁に発生します。そうすると、上記労働時間を遵守することは現実的に難しいため、「1か月単位の変形労働時間制」の利用がお勧めです。なお、「1年単位」の変形労働時間制はあまり介護事業所には向かないと思われます。なぜなら、1年単位の変形労働時間制には、1日10時間、1週52時間という労働時間の上限があり、週1回の休日を与えなければならない上に、先ほど述べた1週44時間とする所定労働時間の特例も認められていないからです。
加えて、訪問介護の現場では、利用者の需要に柔軟に対応することができる登録型非常勤ホームヘルパーの管理も重要となってきます。
登録型非常勤ホームヘルパーは、事業所の指揮命令下のもと業務活動を行っていますので、基本的には介護事業主に雇用された労働者にあたりますが、当該ヘルパーが他の介護事業所に掛け持ち登録が可能であったり、仕事の受諾拒否が可能であったり、移動用自動車や介護用器具をヘルパーが調達している、といった事情があれば、一人親方としてのヘルパーに対する請負とみなされることもあります。
登録型非常勤ヘルパーが労働者にあたる場合に気を付けなければならない点は、利用者の都合により登録ヘルパーが休業することになった場合、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要があることです。
居宅介護支援事業
居宅介護支援の現場では、介護サービス計画(ケアプラン)の作成に携わる介護支援専門員(ケアマネージャー)が中心となりますが、ケアマネージャーが裁量権をもってケアプランを作成することが可能なように、フレックスタイム制を導入すると良いかと思います。
フレックスタイム制は、労働者が始業・終業の時刻を自由に設定出来る制度ですので、ケアマネージャーのように自主性が求められる職種には相応しい制度だと言えます。
通所介護事業
通所介護事業は、これまでは、通常の労働時間管理で対応できる場合が多く、他の業種と大差はありませんでした。しかし、近年、利用者のニーズに合わせて土日祝営業や宿泊サービスを始めるところも多く、そうなると従来の法定労働時間の枠内に収まらないことも考えられます。
そこで、その場合は「1か月単位の変形労働時間制」の導入を検討して下さい。
グループホーム・特別養護老人ホーム事業
グループホームや特別養護老人ホームは24時間365日稼働しているため、24時間365日勤務体制に応じた労働時間管理体制を考える必要があります。また、夜勤のため、1日15時間といった長時間労働が生じる場合が多くなります。そこで、ここでも1ヶ月単位の変形労働時間制の採用をお勧めします。なお、施設事務部門で働く方には、通常の完全週休2日制で良いでしょう。
また、残業が常態化していることが多いので、時間外手当の一部を基本給の一部や手当として定額で支払う定額残業代制度の導入を検討されてはいかがでしょうか(詳しくはこちらをご覧下さい )。
なお、夜勤勤務の労働者を宿直勤務として取り扱う場合は注意が必要です。宿直勤務と認められれば、1日8時間、週40時間という法定労働時間に関わらず労働者を使用することができ、また、労働基準法上、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は、適用しない」となっているので、時間外手当を支払う必要もありません。ただ、宿直勤務と認められるためには労働基準監督署の許可が必要なのですが、宿直勤務と通常の深夜勤務の区別が事実上困難という理由で、労基署の許可を得られないのが実情です。
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